第3話
『ゲイルの手記』
オレは四人の子どもを拾い、田舎の村で育てていた。
……子どもたちはみな可愛く、基本的には仲が良かった。
三姉妹は皆ジョンに気があるようだが、皆親に捨てられたこともあってか、素直には育ってくれなかったようだ。
普段から『素直にしないとジョンに嫌われるぞ』、と口を酸っぱく注意していたが、中々素直にはなれないようだった。
彼女は順調に冒険者生活を送っているようだが、今は良い。
問題はジョンだ。
ジョンに与えられたジョブとスキルは、才能なしと判断するには十分すぎた。
そんな彼だが……運が良かった。
フェンリルという最強種ともいえる魔物をテイムできたのだ。
だが彼は……それから狂っていった。
子どもなのだから、調子に乗るのは仕方ない。だが、それにしたって調子に乗りすぎだ。
近づくな、と言っていた森に無断で入り、その結果が、ドラゴンに襲われ、相棒を失うというものだった。
まだ、当時七歳の彼には痛すぎる仕打ちだったようだ。
三人娘も、ジョンに素直になれず、からかうような調子で話していたがいつも心配そうにしていたものだ。
それからのジョンは毎日ふさぎ込んでしまっていたので、オレは彼にテイマーとしての才能について教えた。
彼は再び気力を取り戻し、日々の鍛錬を開始した。
彼はぐんぐんと成長していった。
ステータスの値は、下級冒険者で100程度、中級で1000程度、上級で5000程度……そのうえ、いわゆるトップクラスの人となれば10000はあるとされている。……とはいえ、そんな冒険者両手で数えられるほどもいなかったが。
一心不乱に、それこそ多くの子どもは投げ出すようなほどに毎日朝から晩まで鍛錬を続けていった。
だからこそ、彼のステータスは異常なほどに伸びていく。
その成長っぷりは凄まじい。そこらの冒険者なんて目ではないほどのものだった。
そこでオレは一つの懸念を抱いた。
これではジョンは……再び調子に乗ってしまうのではないだろうか?
だからオレは、彼に隠蔽のスキルを使用し、彼のステータスを偽装した。
ジョンは、遺伝なのか知らないが、すぐに調子に乗る。
油断したり、気を抜くなんてのはしょっちゅうだ。
フェリルを失ってから少しは甘えも抜けたと思っていたが、それでも相手を舐めることがあるのだ。
だから、ジョンの基本ステータスがすべて100分の1になるように偽装した。
オレの目は、彼がオリハルコンを破ったときのステータスをちゃんと見ていた。
それをここに残そうと思う。
ジョン・リートル ジョブ:テイマー レベル1/10
力7898
耐久力7793
器用7478
俊敏8065
魔力7043
スキル『正拳突き レベル80』
〇
俺はゲイルさんに別れを告げ、村を出発した。
……まずは、街を目指す必要があるな。
とりあえず、適当に走っていれば街くらい見つかるだろう。
しばらく走っていると、看板のようなものを見つけられた。
だが、俺はそこに書いてある文字を見て固まった。
……文字の読み書きも俺はできなかったな。
俺は生まれてから常識というものを学ぶ時間がなかった。
村での生活で不自由はしなかったので、『正拳突き』以外ほとんど何もしていなかった。
……くっ、こんなところで弊害が出るなんて!
多少、戦えるようになったとはいえ……それだって大した力じゃない。
ステータスにしてみれば、70ちょいしかない。
ゲイルさんはいつも言っていた。
『こんなステータスでは一流の冒険者を目指すのは夢のまた夢だ』、と。
前途多難だな。
とりあえず、看板が向いている方角へ行けば何かしらにはたどり着くだろう。
そちらへと再び走り出した。
……さすがに、毎日の鍛錬のおかげで体力はついている。
俺は剣などの鍛錬もしていたが、結局『正拳突き』を使うのなら、武器を身に着けられないため、肉体を鍛えまくった。
だから、多少走ったところで、疲れることはない。
あっ、向かいに馬車を見つけた。
馬車にたどり着けば、何か話を聞けるかもしれない。
少し力を入れ、俺は馬車の隣に並んだ。
馬車を操る御者を見つけ、声をかける。
「すまない、少しいいか?」
「ひぃぃ!? な、なんですか!?」
驚いたように御者が声をあげた。
……そんな驚くようなことだろうか?
「ちょっと、道に迷ったんだ。できれば町まで行きたいんだが――このまま向こうに走っていけばたどりつくか?」
「え? あ、ああ……つ、つくけど……」
「そうか。ありがとう」
俺は軽く会釈をしてから、さらに加速した。
とりあえず、看板に従ってこちらへと来てよかったな。
あとは街についてから、冒険者登録をするだけだな。
俺は走りながら、ゲイルさんから渡されていたアイテムボックスを取り出す。
腰にさげたそれから水の入った水筒を取り出し、口に運ぶ。
――と、その時だった。
前方の馬車が魔物に囲まれているのを発見した。
魔物は、ウルフのようだ。
戦闘自体は無難にこなせているようだが、このまま無視して走り去るというのも気分が悪い。
俺は足に力をこめて、魔物たちへと向かう。
跳躍、そして拳を叩きつけた。
ウルフの一体を地面に埋め込むように殴りつける。
途端、ウルフたちが驚いたようにこちらを見て来た。
「手を貸したほうがいいか?」
「……お、おねがいします!」
冒険者然とした者たちがこちらを見て、そういった。
……これなら、問題なく手を出していいだろう。
ウルフの数は四体か。
俺のほうに、一体が飛びかかってきた。
その一撃をかわし、拳を振りぬく。
ウルフが吹き飛ぶ。残りは三体。
……彼らは俺を敵と認識してくれたようだ。お互いの隙を殺すように飛びかかってきた。
それらすべてをかわし、正拳突きを発動する。
スキルに体が引っ張られる。だが……スキルのすべてに体の自由が奪われるわけじゃない。
俺はすっと、足を滑らせるようにして一瞬でウルフとの距離をつめた。
そして、拳を振りぬいた。
俺の一撃をウルフが耐えきれるわけもなく、そのまま大地を転がった。
残りは二体。
ウルフたちは俺を見て、まるで怯えるようにして逃げていった。
「追ったほうがいいか?」
「は、はい! でも、ウルフの足だと速すぎて――」
冒険者が何かを言ったが、それより先に俺は大地を蹴った。
一瞬でウルフとの距離をつめ、足を振りぬいた。
正拳突きに合わせ、肉体の鍛錬も怠ってはいない。正拳突きに頼りきっていては危険だとゲイルさんに教えられたため、俺は拳や足での戦いもそれなりにできる。
残り二体のウルフを仕留めた俺は、それから小さく息を吐いた。
「これで大丈夫か?」
俺が戻ってくると、冒険者たちはぽかんとこちらを見ていた。
「す、すごい……っ! あのウルフを一撃で……!」
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