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第27話

 ブロンが目を覚ました。

 まずは彼を孤児院に送り届ける必要があるので、俺はリーシャにお礼を行ってからすっかり暗くなった町を歩いていた。


「……ジョン先生、ごめんなさい。オレ、勝手なことして迷惑かけちまった」


 悔しがるように彼は拳を固めていた。


「そうだな。それに、知らない人からもらったものを口にするのは危険なんだ。次は気をつけるんだぞ」

「……けど、知らなかったんだよ。まさか、あんなことになるなんて、思ってもなかったんだ……」

 

 ブロンは両目に涙をためて、声をあげた。

 どうにかしたい、という気持ちがあってこその暴走なんだろう。


「オレ、みんなのためにって思ってやったんだ……。こっそり抜け出したのも、みんなを驚かせてやりたいって思ったから……」

「そういう気持ちもわかる。でも、おまえがそうやってみんなを大事に思うように、みんなもお前のことを大事に思っている。この意味がわかるな?」


 ブロンは唇をぎゅっと噛んで、静かに頷いた。

 頭を軽く撫でてから、もう一度歩きだす。


「……ギルドに、冒険者登録いったんだ。けど、受付の女性から……厳しいかもしれないって言われたんだ」

「そうか……」


 ブロンのジョブとスキルはそれほど優れているものではなかったはずだ。

 ……ギルド職員としては、怪我や命を落としては大変だからこその指摘だったのだろう。


「だから、強くなれるって言われて凄い嬉しかったんだ……力が手に入るかもしれないって思ったんだ」

「甘い言葉に、騙されちゃいけないんだ。……人は、そう簡単に強くはなれないんだ。俺もそうなんだ」

「……ジョンもなの?」


 こくりとうなずき、俺は夜空を見上げた。


「俺も……な。あんまりジョブとスキルには恵まれていないんだ」

「そ、そうなの?」

「ああ……けど、それでも鍛えて鍛えて、今はなんとか冒険者として生活できているんだ」

「……そう、なんだ」

「俺もあまり強くはないが……それでも夢を、叶えたい願いがあったから、何とか今日まで生きてこれたんだ。だから、ブロン。……自分の夢を持つんだ」

「夢……?」

「ああ。こうなりたい、っていうものを持てばそれに向かって努力できるようになる。……俺はレベル100になりたいって思って、ずっと鍛えているんだ。今だってそうだ」

「れ、レベル100!? お、オレにはそんなの無理だよ……」

「そこまでの夢じゃなくてもいいんだ。……そうだな。孤児院のみんなを助けられるくらい強くなりたい、とかでもいいんだ。その夢を持ったら、まずはスキルを鍛えるんだ」

「……スキル?」

「ああ。どんなスキルだって使えば使うだけレベルはあがっていく。そうすれば、多少は戦えるようになるんだ。それからまた、冒険者として活動を開始していけばいいんだ」


 俺の言葉にブロンは小さく、頷いた。


「……うん。分かった」


 ブロンは納得してくれたようだった。そんな彼の頭を軽くなでる。

 ……俺は彼を元気づけるために少しだけ、嘘を混ぜた。


「……ごめんなさい」

「よし。謝罪は俺じゃなくてシスターや友達にすればいいさ」


 ブロンが大きく頷いて笑った。



 ○



 孤児院につくと、ブロンは滅茶苦茶怒られて泣いていた。

 それでもシスターがぎゅっと抱きしめ、嗚咽を漏らした声をあげると、ブロンもシスターの気持ちが伝わったのだろう。ほっとしたように息を吐いていた。


 それを見て俺も安堵しながら、そろそろギルドに戻ろうかと考えていると、俺のほうに一人の女性がやってきた。

 水色の髪を揺らし、どこか無表情の女性だ。彼女は俺に気づくと、こちらへとやってきた。


「あなたが、ジョン?」

「ああ、そうだ」

「……そう。ありがとう、ブロンを見つけてくれて」


 丁寧に頭を下げてきた。

 物腰が非常に柔らかで、一瞬貴族に近しい人なのかと思った。


「……おまえは、孤児院の関係者か?」

「ここで育った。私はアクフィア。今は冒険者をしている」

「……そうなのか。俺は冒険者のジョンだ。よろしく」

「うん、聞いた。……とにかくありがとう。それと、少し大事な話しがしたい」

「ああ、わかった」


 子どもたちの前では話す内容ではないようだ。

 彼女の真剣な眼差しにうなずき、ともに奥の部屋へと入った。

 部屋に入ると、アクフィアはこちらへと振り返った。彼女が振り返ると、美しい水色の長髪が揺れた。


「……禁止薬物入りのポーション。確かに能力を強化することは嘘ではないようだけど、副作用が危険。そんなものを配っている人物がいる、みたい。……あなた、その人を見なかった?」


 ……どうやら、アクフィアはその犯人が気になるようだ。鋭い目つきのアクフィアに俺は首を横に振って返した。


「俺がいった時には誰もいなかった。……ただ、確かに同じような症状の人間が裏路地にはいたな」

「……そう。もしかしたら……あっちの事件と同一人物かも……。とにかく、町を夜一人でであるくのは危険。あなたも気をつけたほうがいい」

「……ああ、わかった。忠告感謝する。……おまえも、気をつけるんだぞ? なんか色々物騒みたいだから」

「大丈夫。私これでも有名な冒険者だから」

「……そうか? だとしてもだ。女の子というだけで狙われる可能性もあるからな? 気をつけてな」

「……うん、ありがとう」


 アクフィアは少し照れた様子で頬をかき、それから改めて俺を見てから、頭を下げた。


「本当に、ありがとう。孤児院の子たちは、私にとって本当に大事だから」

「……そうか」


 そういえば、シスターも話していたな。

 うちの孤児院にお金を入れてくれる冒険者がいると。

 もしかしたらそれはアクフィアのことなのかもしれない。


「おまえも、色々と大変だろうけど頑張ってくれ」

「うん、ありがとう」

「それじゃあ、また会う機会があれば」

「うん」


 アクフィアとはそこで別れた。


「ジョンさん!」


 シスターの一人が駆け寄ってきて、俺の前で足を止めた。

 それから、ぺこりと丁寧なお辞儀をしてきた。


「本当にありがとうございました! ブロンくんのこと、助けてもらって……っ」

「いや、気にしなくていい。とにかく、無事で良かった。知り合いに頼んで治療は行ってもらったが、何かあればまたいつでも相談してくれ」

「……本当にありがとうございます。こちらも、何かあれば相談してください。出来る範囲でなんでもしますから」

「わかった。何かあったときは頼むよ」

「……はい」

 

 シスターは再度頭を下げてから、孤児院へと戻っていった。

 ……やはりあのように感謝されると、助けて良かったという気持ちになった。

 




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