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第24話



 スケルトンとの戦いのあとから、俺は鍛錬の時間を増やしていた。

 多少、睡眠時間を削り、とにかく体を動かしていく。


 ……とはいえ、一日二日で強くなれるわけもない。

 それでもいつかこの結果が結び付くと信じて、俺は拳を振りぬいていった。


 一撃一撃を意識する。

 スキルで自動化された動きの中に、無駄がないかを確かめていく。

 スキルというのは、人間の体を無理やりに動かそうとするものが多い。


 神が与えた最適化された技、と思われているが……それには案外無駄な部分が多い。

 その無駄を削りながら、より洗練されたものへと昇華してくことこそが、スキルの研究である。


 腰を落としたあとに、移動できるように俺は力を籠める。

 拳を振り抜いたあとに何かできないか?

 足を、頭を、右拳ではなく左拳を使って何かできるのではないか。


 中途半端に拳を振り抜くだけでは意味がない。

 すべての動きを改めて確かめて、拳を振り抜いていった。



 ○



 どれだけの鍛錬を積んでも、現実は厳しいものだ。

 俺のレベルは未だ2だし、正拳突きに関しても81レベルから上がることはない。

 

 まずは、ポーションの納品だ。

 ギルドで用意された薬草を荷車へとつみこみ、それから冒険者通りへと向かう。

 すでに多くの店は開かれている。リーシャの店へと行くと、冒険者が二名リーシャの前に立っていた。

 まず驚いたのが、リーシャの姿だ。いつもと違い、どこかおしゃれな服装だ。

 

 おかしいな。俺が家を出たときは、部屋着だったのだが。

 それに、リーシャはいつも中で待っているのにどうしたんだろう。


「なぁ、いいだろ? たまにはオレたちと一緒に食事でもどうだよ?」

「そうそう。奢るぜ? オレたち金持ってんだよ」


 冒険者に……ナンパされているのだろうか?

 見れば、冒険者はどこか不気味な表情だった。目の焦点があっていないような……。


 確かにリーシャの容姿は非常に整っている。

 それに彼女は衣服などもきちっとおしゃれなものを選んでいるし、髪も丁寧にまとめられている。


「だから、良いって言っているでしょ。私、自分で稼いでいるから」


 苛立った様子ではっきりと言い切った。

 だが、それが冒険者には苛立ったようだ。

 冒険者が、ずんっとリーシャの腕をつかんだ。


「……いいから! たまには冒険者と関わったほうがタメになるぜ?」

「なるかどうかは自分で決めるわ。あなたたちとは、関係を持っても良いことは なさそうだわ」


 ……冒険者たちに諦める様子はないどころか、さらに表情を険しくしていく。

 助けに入ったほうが良さそうだな


 冒険者がリーシャの肩をつかもうとした腕を、俺が掴んだ。

 ぎゅっと力を込めて握りしめる。と、冒険者の表情がひきつった。


「い、いってぇ……! てめぇ、いきなり何するんだよ!」

「……ジョン」


 リーシャが驚いたようにこちらを見てきた。

 俺はリーシャと彼の間に割って入り、さらに握力を強めた。

 これでも、毎日鍛えているおかげで力はある。この距離まで近づければ、俺の範囲だ。


「彼女は大事な人だ。何か用事があるのか?」

「なんだてめぇは?」

「ジョンだ。それで、何か用事か?」


 ……リーシャにケガでもさせたら、自分たちの首を絞めることになるのがわからないのだろうか?

 彼女に何かあって、ポーションが作れなくなってしまえば、この町のポーショ ンが在庫不足となるだろう。


「……ジョン?」

「あれじゃねぇか!? 昨日ゴミ拾いの依頼を受けてた雑魚だぜ!」

「ははっ、そうかよ! 何かと思ったらよぉ……っ邪魔すんじゃねぇぞ!」


 冒険者は回るように腰から剣を抜いて、振り回した。

 突然の動きに驚く。……まさか、ここで剣を抜くとは思わなかった。

 斬りかかってきた彼だが、その足元がおぼつかない。まるで酔っぱらっているかのような足取りだった。


 隙だらけだ。落ち着かせるため、俺が腹に拳を振りぬくと、彼が吹きとび、壁にぶつかった。


「テメェ!」


 もう一人が、飛びかかってきた。

 ……目が怖かった。視線は俺に向けられているのだが、俺を見ていない。不気味な笑みがまた、恐ろしい。

 そちらは、リーシャが背後から剣の柄で頭を殴り、気絶させた。


「けがはないわね、ジョン?」

「ああ俺は大丈夫だ、リーシャは?」

「私もよ……ありがとう」

「ああ、こちらこそ。それにしても……様子が変じゃなかったか?」

「……そうね。彼らも……最近流行っているっていう禁止薬物入りポーションを飲んでいるかもしれないわね」

「……禁止薬物入りのポーションだと?」


 なんと物騒なポーションだ。

 俺がリーシャを見ると、彼女は腕を組みながら、倒れている男を見た。

 男の口からだらりと漏れている唾液をじっと見た。


「……やっぱり、そうね。彼らも禁止薬物の入ったポーションを飲用したみたいね」

「わかるのか?」

「彼の唾液に少し混じっているようね。鑑定で分かったわ。……この禁止薬物はそんなに強くないから、薬で十分治せるんだけど……とりあえず、騎士の対応を待ちましょうか」


 気づけば、こちらに向かって騎士がやってきていた。

 ……誰かが騒動に気付いて呼んでくれていたようだ。

 俺たちは騎士に事情を説明する。それから、リーシャは一度店に入る、ポーションを渡すと、騎士は二人の冒険者を連れて去っていった。


「……さっきのポーションは?」

「治療薬よ。……それにしても、あの禁止薬物を扱うのが難しいからそれなりに知識のある人しか扱えないのよ。薬師か、あるいはエルフか……とにかく、裏で何者かが動いているのは確かね」

「……そうなんだな」


 ……遺骨を盗んだという事件もそうだが、今度は禁止薬物が入ったポーションか。


「あっ、今の話は騎士と一部の薬師の間での秘密だから……他言はしないようにね? まだ、騎士は大事にはしたくないみたいだから」

「……分かった」


 リーシャとともに、店に向かい、薬草を運び込んでいく。

 そういえば……。俺はリーシャを発見したときのことを思いだし、声をかける。


「それより、どうして外にいたんだ? ああいうのが面倒で外には極力出ないって言っていなかったか?」

「……そ、そうだけど」


 言いよどんだ彼女は、頬を赤くしながら俺から離れた。


「い、いや……その……まあ、そろそろ来るかもって思って……その、ちょっと外にでていたのよ」

「……わざわざありがとな。ただ、ああやって絡まれることもあるだろうし、危険なことはしないでくれ」

「……そうね、わかったわ。そ、そのさっきの大事な人って言っていたんだけど……、そ、それって……ど、どういう意味なの?」


 恥ずかしそうな様子でリーシャが頬をかいていた。

 ……そういえば、そんなことを言っていたな。


「これまで色々としてくれただろ? だから、その大事な人だと思ってな」

「……そ、そう……なのね」


 リーシャはエルフ耳の先をぴくぴくと動かしていた。

 ……滅茶苦茶顔が赤いな。大丈夫だろうか?

 少し心配だったが、早いところ仕事を再開しないとな。


「それより、早いところ仕事をしようか。……どこかに出かける用事があるんだろ?」

「え? いや、出かける予定はないわよ?」


 え? 俺が思わず彼女の服をじっと見た。


「普段よりもおしゃれをしていたから、どこかに出かけるのかと思ったんだが……」

「こ、これは……その……に、似合っているかしら?」

「ああ、似合っている」


 ただ、薬草の納品には適さないような気がしないでもない。


 俺が伝えると、リーシャは顔を真っ赤にして背中を向けた。

 あまり褒められるのは慣れていないのだろうか。俺のような言葉でも喜んでくれるのだから、こちらとしても悪い気はしなかった。

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