第23話
「今はゴミ拾いをしているの?」
「まあな……結構ゴミが目立つからな」
「そうなのね! 立派だわ!」
少女は猫を抱きかかえる。
「ありがとう。キミは?」
「あたしは人探しをしているのよ! なんだかすごく強い人がいるみたいなんだけど、中々見つからないのよ!」
強い人、か。凄いふわっとしているが、俺には力になれそうにないな。
「……そうか。実は俺も探しものをしていてな」
「え? どんな人?」
「猫だ」
「この子?」
少女が抱きかかえて首を傾げる。
「いや、その子じゃないんだ。家から逃げ出しちゃった猫がいるみたいでな。今探しているんだ」
「わー、猫ちゃん探しは大変そうね!」
少女が猫の頭を撫でている。
野良猫も甘えたような声を出しながら、ぷにぷにと女性の胸元を触っていた。
……懐いているのか、はたまたただのエロ猫なのか。
「人探しも大変だろう? この街は、それこそたくさんの人がいるんだしな」
「そうだけど、人は特徴があるからまだ楽だわ!」
「特徴? 良かったら俺も手伝おうか?」
「ほんと!? 男性よ!」
「……もう少し絞れないか?」
「あと、剣で戦う人みたいなの! そして、すっごく強いのよ!」
「剣、か……他には何か特徴はあるか?」
「瞬間移動するようなスキルも使えるみたい、かな? あたしがしっているのはそんなところ」
そんな凄い人がいるんだな……。
恵まれたスキルを持つ人、というのはやはりいるものなんだな。
「俺も一度見てみたいな」
何かしら、参考にできる部分もあるかもしれない。
俺の言葉を聞いて、少女は目を輝かせた。
「それなら、もしも見つけたらあたしが紹介してあげるよ! って、あれ、お名前聞いたっけ!? 見つかったら教えてあげるわよ!」
「……そういえばまだだったな。俺はジョンだ。キミは?」
「あたしはヒレンって言うわ! 冒険者なのよね? 見つかったらギルドの職員に伝えておくわね!」
「ありがとう、キミは優しいな」
そういうと、彼女はにこっと笑顔を浮かべた。
「そうかしら!? そういわれたの初めてかも! 嬉しいわ! ありがとね! それじゃあ!」
元気いっぱいな子だな。手を振りながら彼女は去っていった。
俺も猫探しのついでくらいにはなるが、探してみようかな。
ヒレンが去ったところで、カナとアリラがやってきた。
「……ふぅ、ばれずにすみましたね」
「……ばれずに? どういうことだ?」
「彼女は……さっき言っていた事件について調べてもらっている冒険者なんです」
「そうなのか?」
まだ俺よりも年下……たぶん15歳くらいなのに、そんな危険な調査を行っているんだな。
「はい。彼女らはAランクパーティー、『紅蓮の翼』なんです。……Aランク、とはいいましたが時間の問題でSランクにも到達するとは思いますね」
「そ、そんなに凄いのか?」
「はい。先ほどの子はヒレンといいますけど、あの子はすでにレベルでいえば55程度はあります。……アリラと剣の腕はほぼ同じくらいでしたよ」
そういうと、アリラは少し悔しそうにしていた。
……『紅蓮の翼』か。聞いたことはあったが、そこまで凄い冒険者なんだな。
「……でも、その人が探している凄い人、か」
「……まさか、そのような人がまだ街にいるとは思っていませんでした。わたくしも、時間をみつけて探してみないといけませんね」
「手伝ってもらうのか?」
「はい。……わたくしも、さすがにはめられっぱなしは嫌ですから」
……なるほどな。
カナだって被害者みたいなものみたいだからな。
犯人を見つけ出したいのだろう。
……中々、大変な時に街に来てしまったのかもしれないな。
その後、ゴミ拾いが終わるくらいまで猫探しを行ったが、結局猫は見つからなかった。
「ありがとうございました、お兄様。今日は楽しかったですわ」
「……俺もだ。ただ、猫を見つけられなくて申し訳ない」
「いえ、気にしないでください。一日二日で見つけられるとは思っていませんわ。それでは、また今度一緒に探しましょうね」
「……ああ。その間も出来る限り探してはみるつもりだ」
「ありがとうございます」
嬉しそうに微笑んでカナが去っていく。
俺はギルドへと戻り、受付に今日のゴミ拾いに関しての報告を行った。
ゴミ拾いの依頼は、簡単なFランク依頼ということもあってか、
「おいおい、おまえみたいな冒険者がなんでこの街にいるんだよ?」
「ここはレベル10に到達した冒険者が集まるような街だぜ? おまえみたいなゴミ拾いしかできないガキはおうちに帰りな」
なんて絡まれることもある。
……まあ、しかたない。俺は確かにまだレベル2の雑魚だからな……やはり、もっと鍛えないとな。
「……あまり気にしないでくださいね、ジョンさん。冒険者というのはああやって優位に立ちたい人が多いものですから」
「そうなんだな。ところで、少し気になっていたのだが……今日街を歩いていたら、強い剣士を探しているヒレンという子にあったんだ。何か知らないか?」
「あっ、その子パーティーのリーダーですね。私のもとにも来ましたが、あまり強い剣士の情報は持ってないんですよね」
「……そうなんだな。それじゃあ、彼女らの見間違いとかなのか?」
「どうなんでしょうね……ジョンさんも強い人ですから、該当するかもと思いましたけど、彼女らのことは知らないんですよね?」
「……ああ」
というか、別に強くはないんだが……。ヒレンが言っていた瞬間移動のようなスキルももっていないし、剣だって使えないからな。
「それじゃあ、ヒレンが探している子は、この町にはいないのか?」
「……どうでしょうかね? 可能性は少ないですが、例えば……突然一気に強くなる! ということも決してないわけではありませんからね。強くなってから、ギルドに報告していなければ情報は更新されませんからね」
「……なるほどな。それなら、ヒレンたちが見つけられればいいな」
「そうですね……最近、街中も物騒なことが増えてきましたから、気を付けてくださいね?」
「物騒なことだと?」
「はい。……なんでも、魔物をみたとか、幻覚の症状を訴える人がいるとか……ですね。あきらかな不審者、という感じの人もいますから、気を付けてください。まあ、ジョンさんなら大丈夫だとは思いますけど」
何も大丈夫じゃない……そんな危ない人がいたら、即騎士に通報だな。
……危ない人、といえばアリラもそうだな。
彼女も時々、カナをぺろぺろしたいとか言っていたな……それももしかして、幻覚などの異常によるものなのだろうか?