第22話
午後一番で、俺は猫探しとともに、ゴミ拾いを行うことにした。
猫探しとゴミ拾い、どちらも同じようなものだからな。
ギルドでゴミ拾いの依頼を受けてから、俺は約束通り、貴族街へと来ていた。
領主邸である、アリースト家の前に行くと、すでにフードを身に着けたカナがそこにはいた。
カナの隣では、平民っぽい装いをしたアリラの姿もあった。
「……どうしたんだ二人とも?」
「いえ、私は領主の娘として顔が割れていますから……姿を隠す必要があります。それでまあ、アリラも騎士の服装だとすぐにバレてしまうと思いましたので、このような格好をしていただきました」
「……なるほどな」
俺はちらと二人を見ていると、カナが隣に並んだ。
「今日もお兄様はゴミ拾いの途中、というところでしょうか?」
「そうだな。猫探しをしながらゴミ拾いもできればと思っている。あまり金を持たない冒険者なものでな」
「なるほど……それでは、今日は平民街のほうに行きましょうか」
「ああ、分かった」
カナが隣に並び、俺たちはそれぞれ歩きだした。
……カナたちがいれば、迷子になることもないな。
アリラはちらと周囲を警戒した様子で見ていた。
「……どうしたんだ?」
「……色々とあってな。今、あまり街は穏やかじゃないんだ」
「もう、アリラ。それを一冒険者に話してはいけませんよ」
「……すみません。ですが、カナリア様は……ジョンに例の事件の協力をお願いしたいのではないですか?」
カナがアリラを注意し、アリラはしゅんと落ち込んだ様子を見せた。
「……どういうことだ?」
俺が問いかけると、カナは申し訳なさそうに頬をかいたあと、ぺこりと頭をさげてきた。
「……すみません。その……歩きながら少し話しましょうか」
「ああ、分かった」
俺はカナとともに歩いていく。途中、ゴミ拾いをしていると、カナがぽつりと口にした。
「わたくしの家では、ご先祖様の遺骨を祀っているのです」
「……遺骨を、か」
「はい。彼らの石像を作り、その中に保管しているのですね」
なるほどな。
「それがどうしたんだ?」
「……先日、盗み出されてしまいました」
「盗み出された……だと?」
「はい……」
深刻そうな顔をしている。……骨を盗み出されただけ、というわけではないようだ。
「何か、あるのかそれで?」
「……わたくしたち、アリースト家のものは、代々魔法の力が強いのです。ですから、その遺骨も当然、魔力を多く秘めています。魔法の研究などに用いられることも多くあります」
「……なるほどな」
良く分からないが、盗まれてはいけないものだということは分かった。
「それを盗みだされてしまい、今わたくしの責任が問われています」
「……カナのどうしてだ?」
「あのにっくき、姉君の策略なんだ!!」
アリラが苛立ったように吠え、それから地団駄を踏む。
やめろ、注目を集めて恥ずかしいから。
「……カナリア様が綺麗で、可愛くて、ぺろぺろしたいくらい可愛いから! それに嫉妬した姉君がカナリア様が見回りの日に合わせ、賊を侵入させたに違いないのだ!」
「……アリラは変態なのか?」
今の説明で印象的だったのはそこだった。
俺がカナに問いかけると、カナは俺を盾にするようにアリラから離れた。
「……いえ、その。ここまでとは思っていませんでした」
アリラが慌てた様子で首を振った。
「はっ! す、すみませんカナリア様! 今のはただ私が胸に秘めているだけの想いです! 本心ではございません!」
「……いや本心じゃないのか?」
「ち、違う!」
こほんと、カナが咳ばらいをする。気持ち、アリラから距離をとっているのは気のせいではないだろう。
「……とにかく、さきほどアリラが言ったような感じですね。週に一度、石像が並ぶ特別な部屋にわたくしたちは入り、その掃除をするのですが……たまたま、わたくしが対応した日の夜に、鍵が開けっ放しになっていたそうで、賊に侵入されてしまったのです」
「……カナがうっかり、とかではないんだな?」
「はい。間違いありません。ですが、姉様はわたくしに罪を着せたい様子なんです」
「……なるほどな。それで、俺に頼みたいというのは?」
「……もしも、でいいのです。犯人に繋がる手がかりを手に入れたら、教えてくだされば、それでいいのです。すみません、別の依頼で呼びだしてこのようなことをお願いしてしまって」
ぺこりと頭を下げたカナに、俺は首を振った。
「気にするな。友達が困っているのなら助けるのは当然だ。俺も、何か犯人に繋がることがわかれば、その時に教えよう」
「……はい、ありがとうございます」
嬉しそうにカナが微笑んだ。
俺はそれから、ちらと近くの野良猫を見た。
テイマーの力を使うときが来たな。
俺は片手を野良猫に向ける。……魔物のテイムは基本的にはできないが、動物程度なら、問題ない。
「にゃー?」
「猫、この辺りで……首輪をつけた猫を見かけなかったか?」
「にゃにゃー」
首を振る野良猫。
……そうか。どうやらいないようだな。
「……どうしたのですか、お兄様」
「いや、俺はテイマーだからな。このくらいの動物ならこのように接することができるんだ」
テイムを解除すると、猫は去っていった。
……感心した様子でカナは俺と猫を見ていた。
「それじゃあ、次に行ってみようか」
「……はい、ありがとうございます」
カナが嬉しそうに微笑み、俺たちは街を歩いていく。
ゴミ拾いをして、テイムして、猫に声をかけていく。
時々、首輪を見たことがあるという猫に案内をお願いするが、別の猫で、がっかりとする。
そんなのを繰り返していたときだった。
テイムした猫の頭を撫でていると、可愛らしい声が響いた。
「わー、猫ちゃん!? 可愛いー!」
赤い髪の女の子だ。
俺の近くを歩いていた野良猫に近づくと、女の子はしゃがんだ。
「これ、あなたの猫なの!? 散歩中!?」
目を輝かせながらこちらを見てくる女の子。
彼女を見て、カナはさっとフードをかぶった。アリラもまた、視線を外に向け他人の振りをするかのように、下手糞な口笛を吹いていた。
「いや、違う野良猫だ」
「でも凄く懐いているのね!」
「一応俺はテイマーだからな」
「テイマー! いいなぁ! あたしも猫ちゃんと仲良くしたーい!」
そういって、女の子は猫の頭を撫でていた。
猫も気持ちよさそうに目を細めている。
「その子は顎の下を撫でられるのも好きみたいだぞ?」
「え!? そうなの!?」
女の子は嬉しそうに野良猫の顎の下を撫でる。
すると、猫は甘えたような声をあげ、女の子の手に頭をこすり付けていた。
それを見て、さらに女の子が嬉しそうに笑っていた。
テイマーがこれほど喜ばれるとは思わなかったな。
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