第19話
スケルトンの遺骨を回収した私たちは、ギルドへと戻った。
すぐにギルド長への面会を申し出て、中へと入れてもらった。
ギルド長は相変わらずの強面だった。ヒレンはしかし、恐れることのない様子で挨拶をかわしていた。
その態度に、ギルド長も苦笑していた。
「さすが……『紅蓮の翼』だな。まさかこうも早く、遺骨を一つ回収しちまうなんてな」
「まあね! けど戦ったのはあたしたちじゃないんだ」
「……なに? どういうことだ?」
「……あたしたち、スケルトンになってたこの遺骨ちゃんに負けちゃったんだよ。でも、なんだか男の人が助けてくれたんだ!」
「男の人、だと?」
ヒレンの言葉に、ギルド長は険しい表情になった。
ヒレンの説明では納得してくれないだろうと思い、私が前に出る。
「……はい。私たちは不思議な魔力反応に気づき、街の裏路地に入りました。そしたら、そこで……スケルトン化した遺骨に襲われました」
「……遺骨をスケルトンにして戦わせるとはな。賊とは思えないほど、魔法に関しての知識が深ぇな」
ギルド長の言う通りだ。
……魔法の研究をしていなければ、このような方法は思いつかないだろう。 相手はそれなりに魔法に関して詳しい者であることは確かだ。
「……私たちはスケルトンと交戦。しかし、勝てませんでした」
ギルド長は顎に手をやり、いよいよ表情を険しくしていく。
「……確かおまえさんたちは、全員レベル50近くあったよな?」
「はい」
「……それが勝てないってのに、他に勝てる奴がこの街にいるとは思えないんだが」
「……え? てっきり、新しく依頼を受けた人だと思ったんですけど」
「いや……オレからは依頼を出していないな。いや……待て。一人だけ思い当たる男がいたな」
ギルド長がさっきとは変わったことを言った。
それが気になるようで、ヒレンとアクフィアもじっと見ていた。
「そいつは、まさか拳で戦ってはいなかったか?」
どうなの? とヒレンとアクフィアがこちらを見てきた。
しかし、私は……首を振る。
「たぶん、拳ではなかったと思います。スケルトンが持っていた剣と打ち合うような音がしていましたので」
「……なら、ちげぇな。このまえ冒険者登録をしたやつが、結構強くてな。底の見えない力を持っていて……オレはてっきり、遺骨を盗んだ犯人の仲間かと思って警戒していたんだよ」
ギルド長の言葉に、アクフィアが深くソファに腰かけた。
「……拳で戦うって、そんな人いないでしょ」
「えー、でもたまに殴るとかはするじゃーん」
「そんなのあくまでその場しのぎ。武器を使わずに戦うなんて愚か」
アクフィアとヒレンがそんな話をしていた。それは同意見だ。
私もそう思う。というか、この前冒険者登録をしたということは、まだ一度もレベルの限界突破を行っていないだろう。
レベル10にもいかない人でそんな強い人を聞いたことがないから、きっと無関係だろう。
ギルド長だって、あくまでレベル10以下の中で強い、という話をしているんだろうしね。
「まあ、そいつの話はいいや。関係なさそうだしな。それにしても、こんなやべぇ遺骨があと4つもあるんだよな……」
「そうだよねー、この調子だと、私たちが対峙してもまた負けちゃうかもしれないし、騎士の人に協力を頼んだ方がいいかもね」
「……騎士っていってもな。この街でおまえたちくらいに戦える騎士は一人しかいねぇからな。レベルが高い騎士は、みんなレベルの高い街に行っちまってるしな……」
街の入場条件にレベル制限が設けられている街だってあるほどだ。
そのため、レベルが高い街はより綺麗で、安全で、治安が良いのだ。
わざわざレベルが低い街で暮らす人はすくない。
私たちがこの街にいたのは、アクフィアの出身である孤児院がこの街にあったからだ。
ギルド長はふうと息を吐き、それから私たちを見てきた。
「『紅蓮の翼』。まずは一つ遺骨を回収してくれたことは感謝するぜ。大変だとは思うが、これからも遺骨を探してくれ。……一番は犯人を捕まえることだけどな。最悪、遺骨だけでも回収できればいいと領主様は言っているからな」
「……わかりました。がんばります」
「ああ、よろしく。ギルドもできる限りの協力はするからな、いつでも頼ってくれ」
「はい」
私がすっと頭をさげ、ヒレンとアクフィアも同様に頭を下げる。
ギルド長との面会を終え、私たちはギルドを離れた。
「あー、疲れた! やっぱり難しい話は好きじゃないわねあたし!」
ヒレンがそういうと、アクフィアがじろっと彼女を見た。
「ヒレンは何もしてない」
「してたよ! にこにこ微笑んでたじゃない!」
「いつものアホ面」
「アホ面じゃないよ! もうっ! それでフウア! これからどうするの!?」
……どうしよっか。
遺骨探しを受けたとき、私たちは仮に敵と交戦しても負けるとは考えていなかった。
Aランク冒険者になれる人は本当に一握りだ。何より、私たちのステータスは皆5000を超えるほどはあった。
この街でまさか苦戦するとは思っていなかったのだ。
――多少の油断や驕りがあったことは言うまでもなかった。
あのスケルトンが、遺骨の中で最強であった可能性はある。
だが、今更そんな楽観的な考えは持っていなかった。
仲間を増やす必要がある。
この街で、他に協力を頼める相手……それは――
「今のままでは、私たちはスケルトンに勝てない可能性があります。ですから――あの男の人を探そうと思います」
「……例のスケルトンを倒した人?」
アクフィアの言葉にうなずく。
戦力アップというのはただ頭数を増やしたからどうにかなる問題ではない。
だが、彼は別格だった。
「顔は分かるの?」
「……男ってくらいしかわかりませんね」
ギルド長に言った通り、私はよくあのとき見えていなかった。
メガネなかったし、血を流して意識は朦朧としていたし……。
「……けど、その人は瞬間移動して剣を叩きつける、みたいな攻撃をしていました。そんな冒険者がいれば、きっと話題になると思います!」
「それなら、まずはそんなスキルを持っている人がいるかどうか、明日にでもギルドで聞いてみようか」
「はい」
アクフィアと今後の打ち合わせを終え、私たちは根城にしている孤児院へと向かう。
「凄い楽しみね! 早く見つけて戦いたいわ!」
「戦わない。パーティーに誘うの」
能天気なことを言っているヒレンに、アクフィアがポツリと言う。
ヒレンがえーと声をあげる。
「けど、パーティーに所属してたらどうするのよ!? きっと誘っても断られるわ!」
ヒレンは時々もっともなことを言う。
アクフィアが考えるように私を見てから、
「誘惑するしかない」
「あはは! アクフィアじゃ無理よ! だってぺったんこだし!」
ヒレンがぺたぺたとアクフィアの胸を叩く。
「……うっさい。私は戦闘に適応するために軽量化しただけ」
「あたしは別に軽量化しなくても戦えているわ!」
別にヒレンも大きくはないが、普通程度にはある。
……私はあまりこういう話が好きではない。……私の胸って結構大きいから。
「こっちには武器があるから」
私が逃げようとしたとき、アクフィアが胸をもんできた。
「いきなり何するんですか!」
「この武器があれば、男なら、なんとか行ける……それに、人には性癖というものがある。私もある程度対応できる、と思う」
「そんなことを計画しなくていいですから! とにかく、帰りますよ!」
私は二人から逃げるように先を歩いていった。
ちょうど、孤児院を目指してあるいていると、拳を振りぬいている男性がいた。
……鍛錬をしているのだろうか? 私たちも改めて鍛えなおさないと!