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第2話

 

 それからの俺は時間を見つけては体を鍛えていった。

 レベルをあげるには魔物との戦いが必要だが、スキルレベルは違う。

 スキルレベルは使用すればするだけ、成長していく。


 ゲイルさんのもとで、俺は実戦形式で『正拳突き』の訓練を行っていった。

 何度も辛いときがあった。スキルは使用すればするだけ、魔力を消費、体が疲労していく。


 少しでも俺が休めば、ゲイルさんがしかりつける。

 「フェリルを助けたくはないのか」、と。


 その言葉を聞くたび、俺は調子に乗って失ってしまった大事な相棒の姿を思いだす。

 ゲイルさんが作ってくれた、フェリルの魔石がついたペンダントを握りしめ、俺は再び拳を振りぬいてく。


 朝の五時に起き、夜九時まで拳を振り続けた。

 それがスキル『正拳突き』を鍛えるのにかけた時間だった。

 『正拳突き』のレベルは上がっていく。だが、やはり足りないのは威力だ。


 『正拳突き』は無手でしか発動できない。武器を身に着けてしまうと、使用不可能になってしまうのだ。

 ……つまり、拳で戦うしかない。


 武器を持てないのはすさまじいデメリットだった。

 剣や斧の基本的な材料は鉄。

 人間の拳がそれに勝るほどに到達しなければならない。


「鉄くらいは破れるようにならなければ話にならないぞ」


 ある程度スキルレベルが上がったところで、ゲイルさんは鉄でできた甲冑を用意してくれた。

 俺はその甲冑に向けて拳を振りぬく。


 初めは指が痛いなんてものではなかった。

 当たり所が悪いときは骨折までしてしまったこともある。


「甘えるな。ハズレスキルで強くなりたいのなら、他人の数倍は努力しろ。他人が休んでいる暇でさえ、他人がやりたくないようなことでさえやるんだ」


 ゲイルさんの言葉に励まされながら、俺は拳を振りぬいていった。



 〇



 鉄の甲冑を殴り始めたのが、10歳になったときだった。

 それから三年が経ったときだった。

 俺の拳は、鉄の甲冑を貫いていた。


 俺は喜びに打ち震えていた。


「ゲイルさん、俺やったよ! 強くなったよ!」


 そういった瞬間だった。

 ゲイルさんに頬を叩かれた。

 え? と驚いた。ゲイルさんは俺の甘えをかき消すように、鋭い視線を向けてきた。


「調子に乗るな。おまえはそうやって大事なものの命を失ったはずだ。忘れたのか? 確かに、順調に成長はしている。だが、おまえはそれでも他の人よりも才能に恵まれていないんだ。ステータスだって、まだ低いだろう」


 ゲイルさんはそう厳しく俺をしかりつけた。

 ……確かに、ゲイルさんの言う通りだった。

 俺は強くなったと勘違いして、フェリルを失った。


「常に自分を最弱だと思え。周りの人間が褒めるときは、おまえを貶めようとしているときだ。だから、周りの言葉なんて気にするな。自分の目標に近づけているかどうか。判断の基準は自分を中心にしろ」


 ……また同じ過ちを犯すところだった。

 俺は強くなってなどいない。

 ステータスだって、たいして成長していないんだからな。


 鉄程度を破れたくらいで満足していてはダメなんだ。


「次は、どのような修業をすればいいんだ?」

「次はミスリルだ」

「……わかった」


 ゲイルさんはすでに用意していたのだろう。 

 ミスリルの甲冑を置き、俺はそれに拳を振りぬいていく。

 拳が痛い。鉄の甲冑を殴り始めたときと同じだ。

 

「気を抜くな。鉄の甲冑を破ったときよりも威力が下がっている。姿勢が悪い。これまでを超える気持ちでなければ、ミスリルの甲冑を破るなんてできないんだ。分かっているな」

「……はい!」


 それから、俺はひたすらに拳を振りぬいていく。

 二年が経っても、俺はミスリルを破れずにいた。

 

 すでに村を出て、冒険者として活動していた幼馴染たちが村へと戻ってきた。

 その日はたまたま休みの日だった。

 孤児院へとやってきた三人は、俺を見て口元をゆがめた。


「まだ、訓練していたんだ、ウケるんだけど」

「別に無理に強くなろうとしなくてもいいんじゃない? あんたには別の生き方もあるでしょ?」

「そうそう。才能ないんだから無茶したって意味ないでしょ?」

「そうそう。前にも言ったっしょ? 私たちが飼ってあげるって」


 くすくすと笑ってくる彼女たちに、悔しい思いを抱えていた。

 すでに三人は冒険者として活動している。

 なのに、俺は未だに魔物ではなく動かない甲冑相手に鍛錬を積むばかりだ。

 幼馴染たちが村を離れた後、再び俺は訓練をしていた。


「ジョン。身が入っていないな」

「……うん」

「やる気がないのなら、やらなければいい」

「……でも、それじゃあ、俺は強くなれないんだ。……あの幼馴染たちいるだろ?」

「ああ、いるな」

「……俺、凄く馬鹿にされて……俺も早く魔物狩りをしたいと思ったんだ」


 そうゲイルさんに言ったとき、彼は厳しい視線を向けてきた。


「おまえとあいつらの目標は同じなのか?」

「……え?」

「あの子たちは、あくまで冒険者として生計を立てられればそれでよいと言っていた。だが、おまえはそれでよいのか?」

「違う……俺は、フェリルを生き返らせたい」

「そうだろう。レベルをあげるためには、基本のステータスが必要になる。ステータスを育てるだけなら、死に物狂いの鍛錬をしていけば十分に足りる。……レベルアップはそれからでも遅くはない。分かったのなら、拳を振るんだ」

「……うん」


 そうだ。俺の目標と彼女らの目標は違う。

 俺は才能がないのだ。普通の冒険者のように修行していてはダメなんだ。

 ゲイルさんは最強の冒険者だ。彼を信じて、進むしかない。



 〇



 さらに一年が経ち、俺が拳を振りぬいたときだった。

 ミスリルの甲冑に穴が開いた。

 開けられる、と思った。段々とスキルと体が一体化したような、そんな感覚になってきた。


「ミスリルに穴が開いたな。自分の能力を確認してみろ」


 言われた通り、俺はステータスカードを取り出した。


 ジョン・リートル ジョブ:テイマー レベル1/10

 力32

 耐久力33

 器用33

 俊敏34

 魔力30


 ジョブ『テイマー レベル1』

 スキル『正拳突き レベル50』


 ……正拳突きのレベルが50まで上がっていた。

 鉄を破壊した時で、確か30程度だっただろうか?

 長かった……。毎日、ほとんど休みなく朝から晩まで使い続けたおかげだ。

 俺が笑みを浮かべた瞬間、頬を叩かれた。


「だから、油断するなと言っているだろ」

「……わかってる。次はなんだ?」

「ミスリルはまだ通過点だ。すでに次の甲冑を用意してある」

 

 次に用意されたのはオリハルコンの甲冑だ。


「これが最後だ。おまえはもうすぐ15歳になるな?」

「ああ」

「……20だ。20歳になるまでにこれに穴を開けられるようにするんだ」

「……わかった」


 俺は早速オリハルコンの甲冑へと拳を叩きつける。

 ……ミスリルの時とは比べ物にならないほどの頑丈さだった。

 振りぬいた拳が痛む。これは、これまで以上に厄介なのは間違いない。


「怯むな。これから先、おまえはテイマーとして最強を目指すのだろう。そこに到達できた人間は数少ない。その者たちに並びたいのなら、己の限界を常に超え続ける必要があるんだ」

「……わかっている」


 俺はゲイルさんの言葉を信じて、拳を振りぬき続けた。


 途中、食事はとるが、それ以外のことはほとんど何もしていない。

 ただ、ただ拳を振りぬいていく。


 そんな意気込みとともに拳を振りぬいていく。

 五度目の春を迎えた時だった。

 俺の拳がオリハルコンをぶち抜いた。


 時が止まったように感じた。

 オリハルコンを殴りつけるその一瞬にすべてを込めた。

 むやみに力を込めたわけではない。軽い気持ちとともに振りぬいた一撃。

 それが、オリハルコンに穴を開けた。


「ゲイルさん……っ」

「よくやったな、凄いぞ」


 そうゲイルさんが笑顔とともに褒めてきた瞬間に、俺ははっとなった。

 ……これも修業だ。

 ゲイルさんが昔に言っていた言葉を思い出す。


 『おまえは弱い。決して調子に乗るな。周りが強いといってもそれはあくまでお世辞だ。冒険者は仕事を奪いあうような仕事だ。周りはお前を油断させるために心にもない世辞を言うこともあると』。


 それを一度反復してから、ゲイルさんを改めてみる。

 ゲイルさんは僅かに緩めた笑みとともにつづけた。


「ステータスを確認してみろ」

「……はいっ」


 ジョン・リートル ジョブ:テイマー レベ1/10

 力78

 耐久力77

 器用74

 俊敏80

 魔力70


 スキル『正拳突き レベル80』


 これだけ鍛えたというのに、正拳突きのレベルはまだ80なのか。


「分かったな? このステータスは、高ければ高いほど優秀だ。……まだまだおまえは弱い。気を抜くなよ」

「わかっています」

「……それじゃあ、これでお前の鍛錬は終わりだ。あとは、冒険者となってテイマーのレベルをあげるだけだな」

「……わかりました。いままでありがとうございます」

「いや、気にするな」


 これで、いよいよ、俺の冒険者生活が始まる。

 ……ここからが、本当の始まりだ。



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