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第18話


 Aランク冒険者である私たち『紅蓮の翼』は、ギルドよりある依頼を受けていた。

 その内容は今、この街で起きている異変について調べるというものだった。


 なんでも、アリーストの街で管理されていた先祖の遺骨が盗まれてしまったらしいのだ。


 この依頼は、アリーストの領主からギルドへ、それから私たちのもとへと伝わった。

 たまたま、私たちがこの街に来ていたというのが主な理由だった。


 遺骨は、強い魔力を帯びていて、魔法の触媒などとして使われれば何が起きるか分からない。

 誰かしらが悪意を持って、その遺骨を持ち出したのは明らかだった。


 そして、私たちは遺骨を見つけた。

 ――最強のスケルトンとして。


 私たち三人は、このスケルトンと交戦することになった。

 戦闘が始まりすぐに、前衛で打ち合っていたヒレンの表情が険しくなった。

 これまで数々の戦闘を繰り返し、その豪快な剣と性格で敵を退けてきた彼女が、スケルトンの剣術に追い込まれていた。


 援護するように、アクフィアが攻撃に加わる。

 ヒレンが力で押すのとは反対に、技術で戦うアクフィアが加わり、二人による連携しての戦闘が行われた。


 ――だが、スケルトンを追い込むことはできなかった。

 一瞬も気を抜けない状況で、互角の戦いを続けていく。

 私は後衛から前衛の二人に魔法の補助をかけ続けた。魔法攻撃も得意だったが、あまりにも速すぎる戦闘に、放つ余裕がなかった。


 これが、遺骨を用いて作られたスケルトンの力――。

 領主が慌てて依頼を出した理由が良く分かった。

 勝てない。私の頭の文字にそれが浮かびはじめた。


「フウア! 回復魔法をヒレンに!」


 アクフィアが私の名前を呼んだ。……ヒレンがスケルトンの一撃をくらってしまっていた。

 先ほど、アクフィアを回復させたばかりで、まだ新しい魔法の準備ができていなかった。


 ヒレンが崩れたことで、アクフィアが一人でスケルトンと戦う。

 だが、一人では押さえきれなかった。

 アクフィアの腹に剣が突き刺さった。


 アクフィアが崩れ落ち、スケルトンがちらとこちらを見る。

 ……私は準備できた回復魔法を二つに分け、ヒレンとアクフィアの急所だけを癒す程度に回復させる。


 だが……ダメだ。二人とも意識を失ってしまっている。


 スケルトンは目に埋め込まれた赤い魔石を怪しく光らせ、こちらを睨んできた。


 スケルトンがゆっくりと近づいてくる。

 それに合わせ、私は魔力をためた。……そして、スケルトンの接近に合わせ、風を放った。


「……」


 しかし、スケルトンはそれをあっさりとかわし、私に剣を振りぬいてきた。

 私はそれをかわし、ナイフを投げつけた。

 だが、それも当たらない。


 魔力を帯びた私のナイフは、近くの壁に直撃し、爆発した。……打つ手がなくなった。


 スケルトンが剣を振るった。スケルトンからすれば軽い剣だったのだろう。

 だが、私は杖を挟んで受けたが、頭を強打する。

 メガネが砕け、血がだらだらと流れる。

 そのせいで、目の前がかすんでよく見えない。髪からぽたぽたと、血が垂れていた。

 私はそちらに顔を向けると、男のような人がいた。


「そこに、いるのは……誰ですか!? ……お、ねがいします、助けを――」


 誰でもいい。誰かがここに来れば、私たちを知る人間なら事情を理解できる。


「時間は、稼ぐ。すぐに仲間を治療するんだ」


 ……遺骨の行方を調査している一人、だろうか?

 男が構え、スケルトンと対峙した。


 だが、だが一人で勝てるはずがない!!

 アクフィアとヒレンでさえ勝てなかった相手だ! Sランク級の冒険者、あるいはそれ以上の人を連れてこないと!


 すぐに、私は逃げるように叫ぼうとしたが、痛みで声が出せなかった。


 とにかくすぐにヒレンとアクフィアを治療し、二人にも援護させないと。

 私は自分の体を治療しながら這うように移動する。 

 それからすぐにアクフィアを治療しに向かう。……だが、アクフィアがすぐに目を覚ますことはなかった。


 ヒレンも同じだった。

 私は二人を起こすために、頭を杖で殴りながら、彼を観察する。まったくもって、良く見えない。

 

 時々、金属音のようなものが響くから、彼も恐らく何かしらの武器を使っているのだろうが……どちらも速すぎる。なにより、私はメガネを失ったため、ほとんど見えない。


 ただ、彼は――善戦していた。


 善戦なんてものではない! スケルトンを追い込むほどだった。

 ヒレンとアクフィアの二人で、どうにかついていったスケルトンの速度に、彼はあっさりと追い付いてみせる。

 まるで弄ぶように、攻撃をかわす。スケルトンが振りぬいた剣を、何かで受けとめる。金属音のようなものが響き、気づけばスケルトンは吹き飛んでいた。


「……凄い」


 私は気づけば、彼の動きに見とれていた。

 スケルトンの攻撃を避けた彼は、その隙へと鋭い一撃を放った。

 スケルトンの身体が吹き飛び、私は思わずやったと小さく声をもらしていた。


 まるで、劇で主人公が悪役を倒したときのような、無邪気な心で――。

 だが――スケルトンは体を起こし続ける。

 あれほどの攻撃を叩き込まれてもなお、倒れない。

 私の中に焦りが生まれる。……このままでは、いずれ体力がつきて男の人がやられてしまうのではないか?


 男の人は……口元に僅かながらの微笑を携え構えた。

 ……先ほどと同じ技を繰り出すのだろうか? だが、さっきよりも距離がある。


「ハァ!」


 男が叫んだ次の瞬間だった。

 彼は一瞬でスケルトンとの距離を詰めた。

 ……まったく目で追えなかった。

 彼の一撃がスケルトンの胸元に突き刺さったように見えた。


 だが、変化はない。先ほどのように派手に吹き飛ぶことはなく、不発だったのではないか?

 そんな考えが胸中に表れた次の瞬間――スケルトンの骨が砕け散った。


 戦闘は終わった。

 男は軽く服の汚れを払った後で、歩いていった。


「……あ、ありがとうございます!」

「……ああ、きにするな」


 彼は服の汚れを払うようにしてから、ちらと外へと視線を向けた。


「俺も急いでいる。あとは任せていいか?」


 ……やはり、そうだ。

 彼もこの事件を追っている人なんだ。

 そして、何かに気づいている。私が、それを邪魔するわけにはいかなかった。


「だ、大丈夫です……っ! 本当にありがとうございました!」

「……気にするな」


 彼が立ち去ったとき、ヒレンとアクフィアが目を覚ました。


「んあ!? ここは天国なの!? アクフィア、あんたまで死んじゃったのね!?」

「……うるさい」

「ってあれ!? フウア! あんたもいるじゃない! なになに! みんな仲良く死んじゃったの!? いやーでも、やけに現実感のある天国ね!」

「あんたと一緒なんて地獄でしかない」

「ここは地獄なの!?」


 ヒレンがうるさく騒ぎ、アクフィアがちらとこちらを見る。

 

「誰が、倒したの?」


 アクフィアの冷静な質問に、私はここまでに起きた出来事を伝えた。


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