第13話
朝食を食べながら、俺たちは今日の予定について話していた。
「……冒険者としてパーティーを組むとはいったが、リーシャはこれまで通りの生活があるよな?」
「そうね。ギルドに話をして、仕事を減らしてもらうことにするわ」
「……そうか」
「そっちはいいのよ。どうせ、これからレベル100を目指すのならこの街からは離れるんだしね」
「そうだな。……俺としては、まずレベルを10まであげつつ、迷宮攻略の準備が整い次第、レベル10迷宮を攻略してレベルの限界突破を行いたいんだが、俺の方針はどうだ?」
「そうね、おかしくはないわね。ただ、そのためには迷宮攻略に詳しい人が必要になるわね」
「……どういうことだ?」
「レベル10の迷宮とはいえ、罠とか結構あるの。だから、それらを無力化できる人を募集するべきね」
「なるほど。その金を稼がないといけないな……」
「まあ、お金は私が貸してもいいわよ? だから、ジョンはレベル上げに集中してもいいかもね」
「……いや、さすがにそこまで世話になるのもな。それにまだ、街に来て一日だしな。急いだところで仕方ない。今日は依頼をこなして、お金を稼ぐつもりだ」
「そうね。とりあえず、食事の後にギルドに行きましょうか。私もポーションに関しての話があるし」
「そうだな」
朝食を食べていると、リーシャがうかがうようにこちらを見てきた。
「ど、どう? 誰かに食事作るとか久しぶりだから、口に合うかどうか……」
「ああ、うまいな。こんなにおいしいものを食べたのは久しぶりかもしれない……」
うちはあまり料理が得意な奴がいなかった。
幼馴染たちは皆料理が下手だが、まずいと言えばぶん殴られるので、うまい料理を食べられて本当に幸せだ。
「そ、そう……? 良かったわ」
嬉しそうにリーシャが微笑んでいる。
朝食を終えたあと、俺はリーシャとともに外へと出た。
「あっ、そうだ。ジョン、明日から私が起きてこなかったら起こしてくれて構わないからね?」
「……そうか? でも、寝起きのすがたを見られるのは恥ずかしい、と言っていなかったか?」
「大丈夫よ。……そのときは、私が起きられなかったのが悪いんだしね。それよりも、ジョンの活動時間を奪ってしまうほうが悪いし」
「……いや、それこそ気にしないでくれ。俺は泊めさせてもらっているわけなんだしな」
リーシャは優しすぎるな。
彼女がどうして男たちに好かれているのかわかるな。おそらく、容姿だけではなく、こういった細かい気づかいをするからなんだろう。
と、リーシャと歩いていると、冒険者たちを見つけた。
……リーシャはちょっとばかり顔が強張っていた。相手は男の冒険者で、リーシャに気づくとどこか失礼な視線を向けてきた。
リーシャは昨日のこともあってか、どこか表情が険しかった。
「リーシャ、行くぞ」
俺が手を掴むと、リーシャは驚いたようにこちらを見る。
「手を繋いでしまったが、大丈夫か? こうしたほうがあいつらへの牽制になると思ったんだが……嫌だったら悪い」
「い、いえ……いいわ。うん……ありがとう」
リーシャが微笑みながら、顔を俯かせる。
……良かったな。
とりあえず、昨日助けたからか俺には怯えないでいるようだ。
他の人とも打ち解けられるまでは、俺が彼女を守る必要がありそうだった。
〇
ギルドについた俺はそこでリーシャと別れ、依頼書を見ていた。
……結構色々な依頼があるんだな。
レべル10迷宮内に出る魔物の素材であったり、街の外の魔物討伐だったり……依頼に関しては様々だ。
それなりに高額な依頼を受けたいものだな。リーシャもいるんだしな。
話を終えたようで、リーシャがこちらへとやってきた。
「リーシャ、魔物狩りの依頼を受けたいんだが……そういえば、リーシャって冒険者ランクはいくつなんだ?」
「私はDよ」
「……そうか。俺はFランクなんだ」
「え? そうなの? あれだけの実力があれば、特例で上位ランクから始められたんじゃない?」
「まあ、色々理由があってな」
リーシャも褒めてくれるが、俺がそんな高ランクをいきなり受けられるとも思っていない。
……俺は優秀ではない。俺は落ちこぼれの人間だ。
一番下からコツコツと積み上げていく必要がある。それがゲイルさんの教えでもあった。
「とりあえず、この街の外の魔物討伐依頼でも受けてみるか」
「……ええ、そうね。それくらいならちょうどいいと思うわ」
冒険者として経験の長いリーシャがそういうのなら間違いないだろう。
俺はリーシャとともに受付へと並び、依頼を受諾する。
依頼の受領が終わったので、ギルドを出た。
「そういえば、リーシャは剣を使うのが得意なんだよな?」
「……そうね。まあ、そんなに強くはないけどね」
「いやいや、すでにレベル20の試練までは突破しているんだろ? それなら、それなりの実力はあると思うが」
「あなたほどじゃないわ。昨日の男たちに手も足も出なかったんだしね」
「それは……まあ、そういうこともあるだろう?」
返答に困り、そう答えながら俺たちは門へと向かう。
門にたどり着くと、門のところにいた騎士がリーシャに見とれていた。
「……リーシャ、やっぱり目立つんだな」
「……そうね、あんまり嬉しくはないんだけどね」
「まあ、その……なんだ。いいかたは悪いが、汚いよりは綺麗なほうが……良いこともあるんじゃないか?」
……幼馴染たちは皆無駄にモテるらしい。いつも孤児院に戻ってきてはモテるアピールをされてうざかったものだが、彼女らはそのおかげでお店で買い物をするとおまけとかしてもらったらしい。
リーシャは頬を赤らめながら、ぼそりと言った。
「……ジョンはその、私を綺麗だと思う?」
「ああ、綺麗だな」
「……うぅっ!」
うん、間違いない。おまけに、外見だけが綺麗なのではなく、リーシャの場合は中身まで綺麗なのだ。
幼馴染たちを思い浮かべていると、リーシャはすたすたと歩き出した。
「どうした?」
「な、なんでもないわ! 今日はこれ以外にも依頼を受けるでしょう? 急ぎましょう!」
「そうだな」
確かに、あまりゆっくりしてはいられないな。
依頼をいくつか受け、冒険者を雇えるだけの金を用意したいからな。
俺たちは、街の外へと歩いていった。