第12話
「もちろん、俺は大歓迎だぞ? ……けど、いいのか? 俺はレベル100を目指す。そうなると、この店とかも……戻ってこれなくなるかもしれないぞ?」
「私は別に……そもそも、私も昔はレベル100を目指していたのよ?」
「そうなのか?」
「ええ。今日、襲ってきたあの男たちは……前にパーティーを組んでいた人たちなのよ。色々あって喧嘩して別れたんだけど……しつこく探されてたみたいなのよね」
「……なるほどな。それで、さっきの件か」
俺は濁すように言うと、リーシャは笑った。
「そういうことね。……まあ、そのことはもういいのよ。……私はどうしてもレベル100になりたかったの」
「……レベル100、か。何か、理由があるんだな?」
「ええ、そうよ。私のジョブは薬師。レベル100になれば、どんな病気も治せると言われている薬が作れるからなの。それで助けたい人がいるのよ……私の妹なんだけどね」
……立派な目標だな。
「……なるほどな。俺と似たような理由だな」
「……ええ、そうね。けど、私は一度諦めてしまったわ。戦闘能力がそんなにあるわけでもないし……それ以上に、冒険者たちの対応で疲れてしまったの」
「冒険者たちの対応?」
「……ええ、そうよ」
リーシャは小さく息を吐く。
「……私、なんだか色々とモテちゃうみたいでね。冒険者たちは体目当てで声をかけてきたり、パーティーを組もうと言ってきたり、ね。……そんなに才能があったわけでもない私は、裏で色々と言われるのが段々ストレスになってきて……とりあえず、一度上を目指すのをやめて、落ち着こうと思ってここにいたのよ」
「……なるほどな」
俺には分からないが、美女特有の悩みなんだろうな。
「だから、その……あなたに誘われたとき……悩んだのよね」
「……だろうな。けど、いいのか?」
「……うん、私はまた冒険者をやりたいと思ったわ。やっぱり、助けたいから……」
俺はリーシャとステータスカードを確認しあっていた。
……凄いな。彼女のステータスはかなり高かった。
リーシャは俺のステータスカードを見て、驚いた様子であった。
「どうしたんだ?」
「……やっぱりおかしいのよね」
「何がだ?」
「あなたのステータス。どう考えてもかなり高いと思ったのに……なんでオール80程度しかないのかしら?」
おかしいと言われてもな……俺のステータスは実際、それなんだな。
「ステータスがおかしいと言われても、これしかないんだから仕方ないだろ?」
「……そうね」
俺の実力はあくまでステータス的に見れば80程度しかないのだ。
格上の相手に勝てた? それはたまたまだ。
……俺はこの世界で常に最弱だと思うように言われた。
ゲイルさんの教えに、俺は今日も従うつもりだ。
〇
次の日の朝。
俺は目を覚ました。
……朝五時か。
いつも正拳突きの訓練を開始する時間だったため、目が覚めたな。
こっちに来てからも、その鍛錬をやめるつもりはない。……まあ、時間は減ってしまうだろうが、それでもきちんと行うつもりだ。
リーシャが何時に起きてくるかは分からないが、外に出て鍛錬と行こうか。
俺は店の裏に出てひたすらに正拳突きを放っていく。
段々と人通りが増え始めてきた。俺は軽く汗をぬぐいながら、ひたすらに拳を振りぬいていく。
……時刻は8時、か。
普段、リーシャは何時に起きているのだろうか?
そろそろ、起きても良い時間なのではないだろうか?
そう思った俺は、そこで一度正拳突きを切り上げる。
リーシャの家に備え付けられているシャワーを借り、汗を流してから、リーシャの部屋をノックした。
「リーシャ。起きているか?」
声をかけた。
しかし、反応はない。
……どういうことだ?
さらに何度かノックする。……しかし、だめだ。
ここまでくると、逆に心配になってくるな。
「リーシャ、もう朝だが……」
さらに声をかけたが反応はない。
……まさか意識不明とかではないよな? 俺は心配になって扉をそっと開けた。
……ベッドの上で、リーシャが気持ちよさそうに眠っていた。
すやすやと寝息を立てているようなので、死んではいないようだ。
良かったな。
「リーシャ、リーシャー」
扉を僅かに開けたまま、何度か呼びかけると、リーシャの耳がぴくりと反応した。
それから彼女は体を起こした。
「ふえ?」
気の抜けた声で彼女は周囲を見ている。未だ寝ぼけているようで、両目はしょぼしょぼとしている。
「リーシャ、もうすぐ九時になるが……まだ起きなくていいのか?」
「え? ……え!? もうそんな時間!?」
驚いた様子でリーシャが周囲を見る。そして、扉のほうにいた俺に気づいたようでさらにまた驚いていた。
「……勝手に入ったら悪いと思ってここから声をかけたんだが」
「き、気遣いありがとね! ちょ、ちょっと寝起きの顔見られるの恥ずかしいから扉しめて!」
リーシャの言葉にうなずき、俺はそっと扉を閉めた。
……何か恥ずかしがるようなことあるのだろうか?
ただ、リーシャは優しいな。幼馴染たちは寝起きの顔なんてみたらぶん殴られるからな。
俺はそんなことを考えながら、リビングへと向かう。
今俺が生活しているのはリーシャの家の二階だ。一階部分が店舗になっている。……まあ、店を開けることはなく、納品が基本だそうだが。
しばらくリビングで待っていると、リーシャがやってきた。
……朝からきちっとした服装に整えているようだ。
「お、お待たせ」
「……いや、待ってはいないが。普段はあまり早く起きないのか?」
「……そうね。その、私あんまり朝に強くないのよね。だから、その……起こしてくれて助かったわ」
「そうか。迷惑でなければ良かった。……それで、これからどうする?」
「とりあえず朝食を食べましょう。用意するわね」
「……あー、いや俺の分は気にしなくても」
「いいわよ、昨日のお礼なんだから」
「泊めてもらっただけでも十分すぎるんだが……」
「いいから。私たくさん作っちゃうから食べていって」
リーシャがそう言いきってしまったので、俺はこくりと頷いた。