表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/33

第12話



「もちろん、俺は大歓迎だぞ? ……けど、いいのか? 俺はレベル100を目指す。そうなると、この店とかも……戻ってこれなくなるかもしれないぞ?」

「私は別に……そもそも、私も昔はレベル100を目指していたのよ?」

「そうなのか?」

「ええ。今日、襲ってきたあの男たちは……前にパーティーを組んでいた人たちなのよ。色々あって喧嘩して別れたんだけど……しつこく探されてたみたいなのよね」

「……なるほどな。それで、さっきの件か」


 俺は濁すように言うと、リーシャは笑った。


「そういうことね。……まあ、そのことはもういいのよ。……私はどうしてもレベル100になりたかったの」

「……レベル100、か。何か、理由があるんだな?」

「ええ、そうよ。私のジョブは薬師。レベル100になれば、どんな病気も治せると言われている薬が作れるからなの。それで助けたい人がいるのよ……私の妹なんだけどね」


 ……立派な目標だな。


「……なるほどな。俺と似たような理由だな」

「……ええ、そうね。けど、私は一度諦めてしまったわ。戦闘能力がそんなにあるわけでもないし……それ以上に、冒険者たちの対応で疲れてしまったの」

「冒険者たちの対応?」

「……ええ、そうよ」


 リーシャは小さく息を吐く。


「……私、なんだか色々とモテちゃうみたいでね。冒険者たちは体目当てで声をかけてきたり、パーティーを組もうと言ってきたり、ね。……そんなに才能があったわけでもない私は、裏で色々と言われるのが段々ストレスになってきて……とりあえず、一度上を目指すのをやめて、落ち着こうと思ってここにいたのよ」

「……なるほどな」


 俺には分からないが、美女特有の悩みなんだろうな。

 

「だから、その……あなたに誘われたとき……悩んだのよね」

「……だろうな。けど、いいのか?」

「……うん、私はまた冒険者をやりたいと思ったわ。やっぱり、助けたいから……」


 俺はリーシャとステータスカードを確認しあっていた。

 ……凄いな。彼女のステータスはかなり高かった。

 リーシャは俺のステータスカードを見て、驚いた様子であった。


「どうしたんだ?」

「……やっぱりおかしいのよね」

「何がだ?」

「あなたのステータス。どう考えてもかなり高いと思ったのに……なんでオール80程度しかないのかしら?」


 おかしいと言われてもな……俺のステータスは実際、それなんだな。


「ステータスがおかしいと言われても、これしかないんだから仕方ないだろ?」

「……そうね」


 俺の実力はあくまでステータス的に見れば80程度しかないのだ。

 格上の相手に勝てた? それはたまたまだ。

 ……俺はこの世界で常に最弱だと思うように言われた。


 ゲイルさんの教えに、俺は今日も従うつもりだ。



 〇



 次の日の朝。

 俺は目を覚ました。

 ……朝五時か。


 いつも正拳突きの訓練を開始する時間だったため、目が覚めたな。

 こっちに来てからも、その鍛錬をやめるつもりはない。……まあ、時間は減ってしまうだろうが、それでもきちんと行うつもりだ。


 リーシャが何時に起きてくるかは分からないが、外に出て鍛錬と行こうか。


 俺は店の裏に出てひたすらに正拳突きを放っていく。

 段々と人通りが増え始めてきた。俺は軽く汗をぬぐいながら、ひたすらに拳を振りぬいていく。


 ……時刻は8時、か。

 普段、リーシャは何時に起きているのだろうか?


 そろそろ、起きても良い時間なのではないだろうか?

 そう思った俺は、そこで一度正拳突きを切り上げる。


 リーシャの家に備え付けられているシャワーを借り、汗を流してから、リーシャの部屋をノックした。


「リーシャ。起きているか?」


 声をかけた。

 しかし、反応はない。

 ……どういうことだ?


 さらに何度かノックする。……しかし、だめだ。

 ここまでくると、逆に心配になってくるな。

 

「リーシャ、もう朝だが……」


 さらに声をかけたが反応はない。

 ……まさか意識不明とかではないよな? 俺は心配になって扉をそっと開けた。


 ……ベッドの上で、リーシャが気持ちよさそうに眠っていた。

 すやすやと寝息を立てているようなので、死んではいないようだ。

 良かったな。


「リーシャ、リーシャー」


 扉を僅かに開けたまま、何度か呼びかけると、リーシャの耳がぴくりと反応した。

 それから彼女は体を起こした。


「ふえ?」


 気の抜けた声で彼女は周囲を見ている。未だ寝ぼけているようで、両目はしょぼしょぼとしている。


「リーシャ、もうすぐ九時になるが……まだ起きなくていいのか?」

「え? ……え!? もうそんな時間!?」


 驚いた様子でリーシャが周囲を見る。そして、扉のほうにいた俺に気づいたようでさらにまた驚いていた。


「……勝手に入ったら悪いと思ってここから声をかけたんだが」

「き、気遣いありがとね! ちょ、ちょっと寝起きの顔見られるの恥ずかしいから扉しめて!」


 リーシャの言葉にうなずき、俺はそっと扉を閉めた。

 ……何か恥ずかしがるようなことあるのだろうか?

 ただ、リーシャは優しいな。幼馴染たちは寝起きの顔なんてみたらぶん殴られるからな。


 俺はそんなことを考えながら、リビングへと向かう。

 今俺が生活しているのはリーシャの家の二階だ。一階部分が店舗になっている。……まあ、店を開けることはなく、納品が基本だそうだが。


 しばらくリビングで待っていると、リーシャがやってきた。

 ……朝からきちっとした服装に整えているようだ。


「お、お待たせ」

「……いや、待ってはいないが。普段はあまり早く起きないのか?」

「……そうね。その、私あんまり朝に強くないのよね。だから、その……起こしてくれて助かったわ」

「そうか。迷惑でなければ良かった。……それで、これからどうする?」

「とりあえず朝食を食べましょう。用意するわね」

「……あー、いや俺の分は気にしなくても」

「いいわよ、昨日のお礼なんだから」

「泊めてもらっただけでも十分すぎるんだが……」

「いいから。私たくさん作っちゃうから食べていって」


 リーシャがそう言いきってしまったので、俺はこくりと頷いた。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ