第11話
その後、騎士に冒険者たちを引き渡した。
後のことは、騎士たちに任せておけばいいだろう。
俺はリーシャとともに部屋に残っていた。
リーシャはまだ不安なようで、俺の服の裾を掴んだままだった。
まあ、くっつかれているよりは良いかな。
「……玄関、悪い。壊してしまった」
俺がちらと視線を向けると、リーシャはこくりと頷いた。
「……とりあえずはいいわ。修理の依頼も出したから明日には直しておけると思うわ」
「そ、そうか……修理費は言ってくれ。俺が出すからな……」
「いいわ、気にしないで。助けてもらったんだから。そもそも、あいつらがカギをしていたから、破壊しないと中に入れなかったんだし」
そう言ってくれるなら、お言葉に甘えようか。
まあ、いつでも返済できるように準備はしておかないとな。
「……わかった。それじゃあ、そろそろ俺は冒険者ギルドに一度戻りたいんだが」
ちらとリーシャが掴んでいる部分を見る。
リーシャはしかし、ぶるりと体を震えさせた。
「……ごめんなさい。まだ、ちょっと……怖くて」
「そうか。店は空けておいても良いのか?」
「……ええ、大丈夫よ」
「それならギルドまで一緒に行くか?」
「……うん。迷惑かけてごめんなさい」
「気にするな」
リーシャとともに立ち上がり、俺たちは裏口から外に出る。
リーシャが背後の扉に手をあてると、扉に魔法陣が現れた。
「……それはなんだ?」
「魔法で鍵をかけたのよ。だからまあ、鍵が壊れてもとりあえずは大丈夫なの」
「便利な魔法を使えるんだな」
「私の魔法ではないわ。鍵屋にお願いして、私の魔力で開閉できるようにしてもらっているの」
なるほどな。俺の村ではこういったものを見たことがなかったな。
いや、必要なかったともいうのだろうか。
村の人たちはみな家族、みたいなところがあったからな。
「リーシャ、手を繋いでいた方が自然じゃないか?」
「え!? あ、ああ……確かにそうね」
今みたいに、服の裾を掴まれているのは少し気になる。
街で歩く以上、手を繋いだほうがいいだろう。
リーシャがそっと俺のほうに手を伸ばしてきたので、握りしめる。
少し懐かしいな。幼馴染たちに無理やり引きずられるように手を握らされたことを思いだす。
あの時と違って今は平和だな。
「……」
リーシャは頬を僅かに染めたまま、歩いていく。
どうしたのだろうか?
……まあ、さっきあんなことがあったし、まだ彼女の中で感情の整理がついていない部分もあるのだろう。
道行く人が、驚いたようにこちらを見ている。
リーシャは綺麗な人だからやはり目立つようだ。
……それか、左手でリーシャ、右手で荷車を引いている姿が目立つというのもあるかもしれない。
ギルドにつき、荷車を返却した後、俺は受付へと向かう。
「お、おい……リーシャさんじゃないかあれ!?」
「な、なんで男を連れているんだ!?」
「な、仲良く手なんか握って! ふざけやがって……っ!」
これには事情があるのだが、それを説明するとリーシャが危険にさらされたことも伝える必要があるからな。
受付の女性が驚いたようにこちらを見て来た。
「じょ、ジョンさん? リーシャさんと一緒にきて……どうしたんですか?」
「……いや、色々あってな」
先ほどあった出来事について話していると、ちょうど騎士がやってきた。
……騎士が冒険者ギルドに事情を聞いているところのようだ。
それを横目にしながら、受付に話をすると……彼女は驚いていた。
「……なるほど、そんなことがあったんですね。……リーシャさん、無事で良かったです」
「……そうね。ジョンのような強い冒険者がたまたま近くにいてくれて本当に運が良かったわ」
リーシャのお世辞に苦笑する。
「別に強くはないぞ?」
「……何を言っているのよ。彼らはレベル30の冒険者よ?」
「といっても、俺はレベル1だし、ステータスは……ほら、こんな感じだぞ?」
リーシャにステータスカードを見せると、彼女は驚いた様子で目を見開いた。
「……な、なんでこんなに低いの? さっきジョンが戦った人たちは1500くらいあるって言っていたわよ?」
「そうか……相性でもよかったんじゃないか?」
とはいえ、同時に『おまえはステータスの低い相手を見て油断しないように』と何度も釘を刺されたものだ。
「あ、相性って……確かにスキルやジョブの相性で有利不利はあるけど……そんな圧倒的にステータスが離れた相手に勝てるようなことなんてないわよ?」
「……じゃあ、俺も運が良かったんだな」
どちらにせよ、助けられてよかったな。
ただ、これだけステータスが低いとなると、俺と一緒に冒険者をやるという話もなくなってしまうかもしれないな。
……そこは仕方ないな。
「とりあえず、だ。……リーシャには悪いが、俺は今日一日の生活費を稼ぐ必要があるんだ。他にも依頼を受けたいんだ。だから……リーシャは一度ギルドで待機してもらうことはできるか?」
ここなら、職員や他の冒険者もいるし、多少安全だとは思うが。
「……生活費?」
「ああ、そうだ。俺は今日ここに来たばかりでな、金がないんだ。宿に泊まるくらいの金を稼がないといけないからな」
「……それなら、私の部屋を貸すわよ?」
「え? いいのか?」
突然の申し出だった。リーシャはこくりと頬を赤らめながら俯いていた。
「ええ……今日助けてもらったお礼もあるし、冒険者のことも話したいわ。だから、特に用事がないのなら一度家に戻らない?」
「……あ、ああ分かった」
俺は依頼達成の報告を済ませた後、リーシャとともにギルドを出た。
まっすぐにリーシャの家へと戻り、部屋に入る。
「……お茶でも飲む?」
「ああ、頂けるのなら……」
伝えると、リーシャは微笑んで準備へと向かう。
それから、俺のほうに一つのコップを置いた。
それに口をつける。おいしいな。……俺にこのお茶が良い物かどうかは分からない。ただ、おいしいので、俺にとっては良いものだった。
「ねぇ、ジョン」
「なんだ?」
「……あなたとパーティーを組んでもいいかしら?」
その言葉に、俺は驚きながらリーシャを見た。