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第9話



 私は……ジョンを見送ったあと、部屋で一人天井を見ていた。

 納品された薬草でポーションを作らなければいけないのだが、中々手につかなかった。


 ……それは、ジョンが原因だった。

 

 店の前でこちらを伺っていたジョンを見て、私はすぐに納品者なのだと気づいた。

 ……いつもなら、裏に回ってもらうのだが、彼は初めてだったらしく、それに気づかなかったようで、声をかけた。


 ……普段ならば絶対にしない。だが、ジョンは――他の男と違って、真っすぐな目をしていた。

 だから、私は扉を少しだけ開けて声をかけた。


 ……それだけでも、近くを過ぎた男たちが私に見とれた様子であった。

 驚いたのはジョンだ。彼は私を見こそしたが、ぶしつけな視線を向けてくることはなかった。


 彼を裏に回し、それから納品を手伝ってもらう。

 小さく息を吐く。


 ……どうして、ジョンにあんな話をしてしまったのだろうか。


「……はぁ、今さら冒険者なんて」


 そう思う気持ちはあったが、それ以上に私の心は冒険者として再び上を目指したいという気持ちもあった。

 ……それは一度諦めた夢なのに――。


 私は自分のステータスカードを見た。


 リーシャ ジョブ:薬師 レベル21/30

 力1351

 耐久力1432

 器用1210

 俊敏1323

 魔力1934

 

 スキル『火属性魔法 レベル23』『剣術 レべル21』『鑑定 レべル23』

 

 ……私のジョブとスキルはあまり相性が良くなかった。

 薬師、という時点であまり戦闘能力は高くない。

 それに、剣術だ。例えば、補助に徹するのなら付与魔法などであればさらに良かっただろう。


『ただの薬師だろ? 絶対無理だろ』

『それで上に行きたいっていうのなら、他人にたかるしかないんじゃないか?』

『ある程度のものをくれないとなぁ? 例えば、その体、とかよぉ!』


 下卑た笑いが頭の中で反響する。

 ……私と組んでくれていたすべての冒険者たちは体目当てだった。

 それが嫌で、私は逃げるようにこの街へと来ていた。


 だが、ジョンは違った。

 ジョンはただ真剣に仲間を探している目だった。

 ……それさえも演技だといわれれば、彼は大した役者だ。


 私はもう何度目か分からないため息をついた。


 ……私が冒険者としてレベル100を目指す理由は簡単だ。

 治したい病にかかった人がいるからだ。

 それは、私の妹だ。


 私の妹は、とても珍しい病気にかかってしまった。

 それは、生止病せいしびょうと呼ばれるものだ。

 まるで、糸の切れた人形のように、私の妹の時間が止まってしまったのだ。


 意識はあるし、脈もある。心臓もしっかりと動いている。ただ、動いてくれないだけなのだ。


 ……それを治療するには、レベル100の薬師しか作れないと言われるレジェンドエリクサーしかないのだ。

 ……だから、私はどうしても、レベルを上げたかった。

 レベルが上げられれば、なんでも良いと思った。


 私は自分を犠牲にしたって良い……そういう覚悟を持っていたつもりだったけど、ダメだった。

 ――私は結局、冒険者たちの要求を拒み、こうして逃げてきてしまった。


「なんで……また希望を見せるのよ……」


 私は小さく息を吐き、私は部屋に飾ってある剣を見る。

 ……今でも素振りや魔法の練習は怠っていない。

 だから、ステータスもスキルレベルも確実に成長していたが、それでも私は所詮ただの薬師だった。

 

 薬師ができることは、ポーションの製作や、簡単な治癒魔法の使用だけだ。

 ……治癒魔法に関しては僧侶と比較して遥かに劣るものだ。

 剣士や戦士のように、攻撃的なスキルが使えるようになることはなかった。

 

 そのときだった。


 扉がノックされる。わざわざ訪ねてくる人間はいない。

 恐らく、ジョンだろう。

 ……一応呼び鈴があるのだが、どうやら使い方を知らないようだ。


 どのような田舎から出てきたのか。

 手のかかる弟でもできたような気分でそちらへと行き、扉を開けた。

 しかし、そこにいたのはジョンではなかった。

 下卑た笑みを浮かべる男三人だ。


「よぉ、久しぶりだな、リーシャ」

「……なんで、あなたがいるのよ?」

「オレだけじゃないぜ? なぁ?」


 にやりと笑って現れたのは……昔パーティーを組んでいた者たちだ。

 男子三人、女子二人に混ざった私だったが、気づけば女子二人はやめて、男子三人だけが残っていた。

 

 その男たち三人が、下卑た笑みを浮かべた瞬間。私は嫌なものを感じ、すぐさま扉を閉める。

 だが、男が足を入れてきた。


 背中を冷や汗が伝う。扉をこじ開けるように入ってきた男たちから、私は逃げるように後退する。

 ……部屋に剣はある。それさえ手に取れれば――。

 だが、男たちもそれに気づいたようで、私と剣の間を遮るように立ちふさがった。


「おいおい、久しぶりに会ったってのに、ひでーじゃねぇか」

「……別に、あなたたちとはパーティーを解消してそれっきりよ」

「おいおい、そんな冷たいことを言うなよな? オレたちは散々おまえのために尽くしてきただろ? ちょっとくらい見返りがあってもいいじゃねぇか?」

「……ポーションならいくらでもあげるわよ。待っていなさい、今用意するわね」

「おいおい、そんなもんが欲しいんじゃねぇんだよ。なあ? おまえら!」


 男が声をあげると、彼の仲間二人も笑みを浮かべる。


「ああ、そうだな」

「しいてあげるなら、リーシャの身体から出るポーションなら欲しいかもな、けけ!」


 気持ちの悪い笑みとともに、私の体をじっと見てくる男たち。

 いよいよ、私は嫌なものを感じていた。魔法の準備をしようとしたときだった。

 私の方へと一瞬で彼が迫ってきて、肩を掴まれた。


「……いた!? 放しなさい! 騎士を呼ぶわよ!」

「呼べばいいじゃねぇか? 声が外に届くと思ってるのかよ?」

「は、犯罪よ!? あなたたち、牢獄にぶちこまれたいの!?」

「仮にぶち込まれてもな、おまえのような絶世の美女とヤれるのなら、本望だぜ!」


 私は足を振りぬいた。だが、彼はそれを足で止めた。


「おいおい。オレたちは死に物狂いで冒険して、今じゃレベルは30だぜ? すべてのステータスが、1500近いんだ。オレたちに勝てると思ってるのかよ?」

「……なっ!」

「この街にいる冒険者なんざ、高くてもレベル20程度だろ? てめぇの悲鳴が聞こえたって、みんなビビッて助けになんかこねぇってわけだ。へへ、精々涙でも流してな」


 にやり、と男が笑った瞬間だった。

 こちらに一つの声が響いた。


「……リーシャ。納品を終えたんだが……彼らは客か?」


 困惑したようなジョンの声だった。



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