第1話
すべての人間はジョブ、スキル、ステータスを持って生まれてくる。
ジョブの数は一つ、だがスキルは人によって数が違う。
スキルの数は多い方が優秀とされている。
だが俺はジョブは大ハズレ、そしてスキルは一つしか与えられなかった。
だから俺は家から追放されてしまった。
捨てられた俺は運良く冒険者に拾ってもらい、なんとか生活していた。
だから俺は早く自立したかった。
だけど……。俺はため息をつきながら、自分の胸に手をあて、ステータスカードと念じる。
すると、手にステータスカードが出現した。
ジョン・リートル ジョブ:テイマー レベル1/10
力10
耐久力11
器用9
俊敏8
魔力7
スキル『正拳突き レベル1』
……テイマー、正拳突き。この二つはどちらもハズレだった。
理由は簡単だ。
テイマーは、魔物をテイムできるかどうか分からない。正拳突きは、ちょっと威力の高い素手でしか使えないスキル。そんなスキルを使うより、剣で斬った方が強いからだ。
俺の結果を見て、幼馴染三姉妹が笑った。
「ジョン、ぷぷっ! またステータスカード見てる!」
「わー、本当だ! 落ちこぼれだもんねジョンは!」
「弱いんだから、無理しちゃだめじゃない!」
彼女らは三人とも血のつながりがあるそうだ。
確かに三人とも顔がよく似ている。
今彼女らが違う部分といえば、ショートヘアのフィア、サイドテールのティオナ、ツインテールのシャルロットそのくらいだ。
……彼女らは俺と違ってみんな才能にあふれていた。
だから、こうしていつも俺を馬鹿にしてくるのだ。
それがたまらなく悔しかった。
〇
六歳。
俺が暮らす孤児院には、全部で四人の子どもがいる。
孤児院を管理しているのは、ゲイルさんという人だ。
あまり表情を表に出す人ではないが、優しく、そして強い人だった。
俺たち四人が将来生きていけるようにと、今日も冒険者としての訓練を受けていた。
ゲイルさんはなぜこんな田舎の村にいるのかわからないくらい腕がたつ人だった。
そんな俺は、ちょうどフィアと剣を打ち合っていた。
フィアは余裕そうな表情で俺の木剣を捌いていく。
「ジョンよわーい!」
……くそっ! バカにされて悔しかった俺は、思い切り木剣を振りぬいたが、その一撃はすかされてしまう。
そして、あっけなくフィアの反撃で倒れてしまう。
俺たちを見守っていたゲイルさんが立ちあがる。
「ジョンは一度休め。次はティオナとシャルロットだ」
「はーい」
……くそぉ、今日も勝てなかった!
悔しくて拳を固めていると、三人姉妹がこちらにやってきた。
くすくすと馬鹿にしたように笑っている。
「ほんとジョンは弱いよね」
「弱いんだからあんまり無理しちゃダメだよ」
「そうそう、ジョンは弱いんだから無理に鍛えなくていいんだよ」
「ほんと、ほんと。困ったら私たちが面倒みてあげるからね」
「うんうん、ペットみたいにね!」
その罵倒が悔しくて、俺はさらに鍛えていく。
けど、結局俺が彼女らに剣で勝つことはなかった。
〇
俺が七歳になったとき、転機が訪れた。
それは、俺がテイマーとして魔物をテイムしたのだ。
村近くの森に行ったとき、俺は倒れていたフェンリルの子どもを見つけた。
……まあ発見したときはただのウルフの子どもだと思ったんだけど。
拾ったばかりの時のフェンリルは酷い傷だった。すぐにフェンリルを保護して、村に戻った。
必死に看病した結果、フェンリルは俺に懐いてくれた。
「キャン!」
名前はフェリルだ。犬のように鳴く可愛い子だ。
頭を撫でると、人間のように微笑み、嬉しそうに体を摺り寄せてくる。
夜は一緒に寝て、起きるときはフェリルが起こしてくれる。
俺たちはいつも一緒だった。
何より――フェリルをテイムしたことで、俺の能力は格段に上がったのだ。
――スキル『伝説狼の嗅覚』を獲得しました。
――スキル『伝説狼の一撃』を獲得しました。
さらにいえば、フェリルを使役したことでステータスが大きく跳ね上がった。
……テイマーは、魔物と契約さえできれば強くなれる、というのは聞いたことがある。
だが、魔物の大半が人間に心を開くことがない。
テイマーの半数以上は魔物を使役できず、その人生を終えるらしい。
……それからの俺は無敗だった。
「キャンキャン!」
体が軽い。幼馴染たちが、止まってみえた。
散々バカにしてきた幼馴染たちにだって負けることはない。
これまで、木剣で殴られた分の仕返しをするように模擬戦で彼女らを倒しまくった。
俺は完全に調子に乗っていた。
ゲイルさんに言われていた約束を、破ってしまったのだ。
ある日。天気が悪い中俺は村を抜け出した。
今の俺なら、魔物だって狩れる! そう思っていたからだ。
そしてそれは、事実だった。
「キャンっ!」
フェリルが倒した魔物をこちらへと運んでくる。俺はその頭を撫でながら、森の中を歩いていく。
だが――その時だった。
木々がなぎ倒され、一体の魔物が迫ってきた。
――ドラゴン。
銀色の鱗をまとい、黄色い目がぎょろりとこちらを捉えた。
頭の中が真っ白になる。逃げなければと思うも、体は動かない。
その時だった。
「キャンキャン!」
フェリルが吠え、俺の手を噛む。……それでようやく正気に戻れた。
すぐに背中を向けた。
だが、空腹だったのかドラゴンも死に物狂いで追いかけてきた。
……逃げきれない。
俺が絶望に震えていたときだった、
「ガルル!」
フェリルが俺の体を突き飛ばした。
それから、フェリルはいつもの可愛らしい鳴き声ではなく、威嚇するような雄たけびをあげ、ドラゴンへと立ち向かった。
――勝てない。フェリルは伝説の魔物であるフェンリルだ。だが、まだ子どもで……ドラゴンとは圧倒的な力の差があった。
フェリルが傷だらけになっていく。弾き飛ばされたフェリルは、俺を見て吠えた。
「ガルル!」
早く逃げろ。そう言われた気がした。
威嚇するようにもう一度フェリルは鳴き、ドラゴンへととびかかる。
……俺は、逃げた。
フェリルが傷だらけになっていく姿を後ろに、俺は涙を堪えて走るしかなかった。
村に戻ると、普段表情を変えないゲイルさんが慌てたようにこちらへとかけてきた。
彼に俺は、自分がしたことを伝え、すぐに助けてほしいと頼んだ。
ドラゴンと聞き、村の人々も怯える。だが、ゲイルさんはいつもの調子で俺の頭を一度撫で、それからドラゴン討伐のために村の外へと出た。
ゲイルさんは――戻ってきた。
フェリルの頭だけを抱えて。
俺はショックで、部屋にふさぎ込んでしまった。
俺のせいだ。
勝手に村を抜け出して、フェリルを死なせてしまった。
毎日泣いた。
泣いていたばかりだった俺の部屋に、ゲイルさんがやってきた。
そしてゲイルさんは、一つの魔石をこちらに渡してきた。
それは、フェリルの体内から回収した魔石だった。
その魔石とともに、ゲイルさんはこう言った。
「テイマーを極めしものは、契約していた魔物を生き返らせることができる。その魔石さえあればな」
……テイマーを極める。
それはつまり、テイマーのレベルを100にするということだろう。
俺のような才能なしに、そんなことができるのだろうか?
「後悔ばかりしていても時間の無駄だ。死ぬ覚悟があるのなら、鍛えてやる。ここで泣き続けるか、それともフェリルのために戦うか、どうする?」
そうゲイルさんが言って、俺は決意した。
俺を守ってくれたフェリルを生き返らせるために、俺は最強を目指す決意を。
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