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【短編】VRMMOがもたらす未来の可能性

作者: 影薄燕


 どことも知れない場所。そこで、煙が上がる。

 タタタタ! と、連続して銃声が響く。

 あちこちから爆発音が、怒声が、悲鳴が、聞こえてくる。



 一般人が漠然と思い浮かべるだろう“戦場”がそこにあった。



「だあああああ! クッソ! こんな時に弾切れかよ!?」


「……オマエは最初にばかすか撃ちすぎだ、新入り」


 崩れた建物の裏。

 そこに背を預けている、2人の男がいた。


 自衛隊所属、熊倉くまくら啓二けいじ

 同じく自衛隊所属、西久保にしくぼ英樹ひでき


 日本国民を守るため存在する自衛隊。その象徴とも言うべき迷彩柄の軍服を土埃で汚した所属1年目の熊倉がぐちり、所属3年目の西久保が冷静にその原因を指摘する、というやりとりが行われていた。


「そうは言いますけどね西久保さん、相手がいきなり銃をぶっ放した時に弾が真横通過して冷静でいられるんすか!? 寿命が縮まりましたよ!」


「まあ気持ちは分からなくもない。だが、お喋りする暇がある内は問題なしだ。本当に戦場で死にかけりゃあ、口を開く気も起きなくなる。さあ、さっさと移動するぞ。オマエが愚痴った時間分、敵はこちらを包囲する」


「ちょ、待ってください!」


 身を低くしながら2人は移動する。

 最初に襲撃を受けてしまったせいで仲間が散ってしまったのが特に痛かった。周囲への警戒を2人でしなければならないため、どうしても遅くなる。


 敵味方の双方が銃器を所持している場合、遭遇戦では先に相手を見つけた側が圧倒的に優位になる。2人と同じ歩兵が所持しているもの程度ならば、命中精度よりも連射性を優先している分、初撃さえしのげれば望みはある。

 問題はスナイパーだ。

 連射性を犠牲にした代わりに命中力を極限まで上げ、1発の弾で急所を打ち抜く。それもこちらが視認できない距離から。

 それは戦場で最も会いたくない“死神“である。


 そのような理由から慎重すぎるぐらい慎重に足を進め、目的地までの距離を縮める熊倉と西久保。

 西久保から叱られながらも、予備弾薬を譲ってもらった熊倉は気を引き締め直す。焦ってしまうと素が出てしまうが、何だかんだ言っても自衛隊所属なのだ。落ち着けば一端の自衛隊員に戻る。



 その時だった。



「――チィッ!」


 西久保は物陰からこちらを狙う銃口を見つけた。

 対して熊倉はまだ気付いていない。


 相手の引き金が引かれる直前、熊倉を突き飛ばす。


「熊倉ぁ!!」


「うわっ!?」



――タタタタタタッ!!



 銃声が辺りに響き、


「ぐ、う……」


 西久保の苦しげな声が聞こえる。


「西久保さん!!」


 突き飛ばされた熊倉の行動は迅速だった。

 頭で考えるより早く、手に取った手榴弾のピンを外し、相手が潜んでいるだろう場所へ投げつけた。



――ドカアアアアアアアアアアンッ!!



 手榴弾がその役目を果たして爆発する。

 相手が潜んでいた場所はガラガラと音を立てて崩れていった。確認のしようは無いが、恐らく下敷きになっているだろう……


「西久保さん! 西久保さん!! しっかりしてください!」


「……そいつは無理だな。致命傷ってやつだ。オレはここで退場さ」


「何で、オレを庇って……!」


「後輩を守るのも先輩の仕事なんだよ」


 西久保は満足そうに微笑み、


「後は任せたぜ」


 ポリゴンとなって・・・・・・・・消えていった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



【1時間後】


「――で、結局オマエもあの後すぐ退場かよ」


「すんません」


 ここは日本にある自衛隊基地の1つ。その食堂。

 先程まで戦場にいたはずの熊倉と西久保はピンピンした状態で、食堂のカレーを食べながら反省会をしていた。

 ちなみにメニューは、みんな大好きカレーライス。


「はあぁ、それにしてもすごいですよねー」


「何がだ?」


「VRMMOの技術ですよ。さっきまでいた戦場が限りなく現実に似せたゲームの世界だなんて、今でも信じられません」


「今更だな。世界初のVRMMOゲームが発売されて約50年。オレだって子供の頃から遊んでいたんだぞ。今も実家に機材がある」


「オレはガキの頃、野球ばかりでゲーム自体していなかったんです」


「あぁ、だから手榴弾を投げるの上手いのか」



VRMMO。

 主に大規模オンラインゲームのことを指す言葉。

 使用者の意識をゲームに移し、仮想空間実際にその場にいるような体験をすることができる、現在のゲームの主流。


 半世紀以上前は、あくまでも現実に存在しない小説の中だけの話だった。

 しかし、人間というのは明確な完成形を目指すと技術の発展がかなり進むもので、数多の挫折と失敗を繰り返し、ついにVRMMOを完成させた。


 初期のVRMMOは人々からの熱烈な支持とニーズに応える形で、異世界冒険モノが多くを占めた。最初の発売から熱が冷めてくると、オフライン系や変わりモノ系なども発売されるようになる。


 そして現在、初期に発売されたタイトルの半数は歴史の中に消えていったが、残り半数は未だに人々から愛されていた。

理由としては、VRMMOこそがゲームの到達点とも言える技術の結晶であり、それ以上の進化がほとんど無いことから経年劣化以外で機種変更をする必要もなく、長く遊ぶことができるからであった。もう1つは、ある程度ゲームの世界観がしっかりして自由度が高ければ、制作会社のがんばりによって客を飽きさせないようアップデートやイベントを繰り返す形で満足させられるからだ。

中には会社が不況の波から倒産せざるを得ない状況に陥り、その会社が制作した超人気VRMMOも存続の危機になってしまったことで、多くの客が発狂する事態になる件もあったという。幸いにも他の大企業がそのゲームの権利・データを大金で買うことで、客にとって最悪の展開にはならなかったが。


 ちなみに、後出しで発売された似たような世界観・設定のオンライン系のモノで生き残ったタイトルは数えるほどしかない。

 これは単純に客層が分散して中途半端だと、運営するためのコストと合わなかったからであった。なので余程の自信がない限り、新たなオンライン系VRMMOは世に出ない。今のVRMMO制作会社が発売するのはもっぱらオフライン系となっている。



「オレが1番驚いているのが何かって、そのVRMMOを自衛隊が訓練の1つとして採用していることです」


「日本じゃ自衛隊が、他の国じゃ軍が、それぞれ導入している。今の爺さん婆さん世代が若い頃にそんなことを言っても、誰も信用しなかっただろう。こっちはゲームの中とは言え、大マジメに取り組んでいるんだけどな」


「実際、それで自衛隊の練度が上がりましたしね」


「ゲームの中だったら無茶もできる。自衛隊が採用しているのは、限りなく現実に似せたシステムだ。オマエも感じただろうが、五感を含め初期のVRMMOモノでは実現が難しかった息切れ・心臓の鼓動・汗をシステムとして取り入れたことで本当の意味で“もう1つの世界”を作り出した。それによって、ゲームの中の活動と現実での活動にほとんど差が無いから、“その差”さえ埋めれれば現実の練度も自然と上がる」


「……オレは身をもって“その差”を実感しましたよ」


「アレは新入りの約半数が体験する通過儀礼みたいなもんだ。仮想空間の中でした動きと同じ動きをして、現実の肉体はその動きに慣れていないから筋肉痛になったり、脚をつったり、普通にしてればしないようなケガをする。まあ、オマエの顔面ダイブは傑作だったが」


「……アレ、未だに同期からネタにされるんすよね」



 ゲームの中でなら実際の戦争を想定した訓練ができる。

 2人がやっていた仮想空間内でのシミュレーションは『紛争地域にて現地調達した武器での戦争』を想定したものである。ちなみに、対戦相手はずっと離れた場所にある自衛隊基地の者たちだ。自衛隊限定のオンラインシステムを使用することで可能な対戦となっている。



 VRMMOが開発されて半世紀。

 その技術はゲーム以外でも需要が高まった。


 特に利用されているのが、人を救い、護る仕事だ。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 辺り一面真っ赤。

 それが新人消防隊員である火野ひの浩二こうじが抱いた感想だ。


 どことも知れない住宅街、そこに佇む10階建てのマンション。その7階を中心に激しく炎が暴れ狂っていた。炎の勢いは強く、6階と8階にまで火が回っている。

 地上では大量の最新式消防車が放水をし、野次馬が群がり、ベテラン消防士がせわしなく動いていた。


(先輩……)


 火野は少し前に逃げ遅れた住民を救助しに向かった、世話になっている先輩の身を案じていた。


 長いようで短い時間が過ぎていき、



「男の子が救助されたぞー!!」



 周りから歓声が上がった。


 火野は人を押しのけて駆け寄る。


「先輩! ご無事で!!」


「よぉ火野。救助成功、仲間も全員無事だぞ」


「それじゃあ……!」


「あぁ……特別訓練は合格だ!」


 先輩消防士はニカッと笑顔を見せる。

 小さな男の子の人形を抱えながら。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「先輩、訓練合格して良かったな。オレも、あんな風になりたいや」


 消防署のロッカーで火野は1人、先程までの『VRMMO式特殊救助訓練』のことを思い出す。


「それにしても緊張したな。入社前の説明会で聞いていたけど、VRMMOを使った特殊訓練、やるかやらないかでそりゃ生存率も変わってくるわ」



VRMMOが実装された公的機関は何も自衛隊だけでは無い。

 警察の凶悪犯への対処に、海難救助隊の大規模海難事故を想定した訓練に、天皇などを護るSPの教育に、医者の高難度オペの練習に、様々なやり方でVRMMOは導入されている。もちろん、火野の所属する消防署でも。


 VRMMOを使うことによって、本物さながらの状況を体験することで現実における迅速な対応を可能とし、混乱による謝った判断を限りなく無くす助けとなった。

 それは助ける側・助けられる側、両方の生存率を上げることに繋がる。事実、ここ数十年で世界の事件・事故による死亡は単純な比率にすれば大した違いが無いとはいえ、確実に減少傾向にあるのだ。それは全体の技術の進歩だけでなく、助ける側の大きな成長もあるから。


 そのVRMMOを使った訓練で特に多い救助訓練では、法的に決められてはいないが必要だろうと暗黙の了解がある。



 救助される人を――人形にすることだ。



 最初は外見も本物に近い高度なAIによって動く“救助される役”が実装された。

 しかし実装されてすぐ、ある問題が浮上する。


 様々な事態を想定するVRMMOの訓練かつ、良くも悪くも“人”がする以上、救助の成功があれば逆に大失敗もある。そうなってくると、救助される側があまりにも人間に似ている言動をプログラムされいていたことで、失敗して目の前で救助される側が死ぬ(実際はポリゴンになったりする)と非常に精神的ショックが大きいのだ。

 そのため当初は仮想空間の出来事とはいえ、自分の判断ミス・実力不足のせいで救助される側を死なせてしまったショックから精神科に通う人も少なくなかった。ニュースでもこのことは取り上げられ、VRMMOを限りなく現実に近くしすぎるのもそれはそれで問題が発生する、ということを世に認識させる切っ掛けとなった。


 そういうこともあり、救助される側は少し重めの人形で代用されることとなる。

 他にもいくつか細かい取り決めがあるが、ここでは割合する。



「あ! そうだ。そういや今日はVRMMOサッカーをテレビで放送するんだった。ヤバい……録画するの忘れてたかも」


 昼に放送されたのでもう後の祭りだと、肩を落とす火野。

 現実のサッカー中継もかなり好きな火野だが、最近はVRMMOで行われるスポーツの中継も好きなのだ。


 なぜ、わざわざVRMMOでスポーツをするのか?

 現実でスポーツをやったほうがいいと言う人もいるだろうが、VRMMOスポーツというジャンルは一定の需要があった。


 そう、とある事情を抱える人々にとって、救いになるから……




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




『さあ! 中学生の部VRMMOサッカー日本1位決定戦の決勝も残り僅か! これまでで3対3という接戦となり“関東ジャイアンツ”と“関西タイガーズ”の戦いもヒートアップ!!』


 スタジアムに歓声が響き渡る。

 フィールドで戦う中学生たちも、その子たちを客席から見守っている親も、その中学生たちの試合をチケットを買って直接仮想空間内にまで見に来た観客も、一進一退の試合にヒートアップしていた。


『“関東ジャイアンツ”の鈴木すずき翔太しょうた選手がボールを奪取! 残り時間は1分を切った! これが最後の攻防となるか!? 決まれば“関東ジャイアンツ”の優勝! 決まらなければ延長戦! さあ、どうなるぅっ!!』


“関東ジャイアンツ”所属の鈴木は焦る気持ちを必死で押さえてボールを蹴る。

こういう状況での焦りは些細なミスを多くしやすいので。


(この2人を抜けばゴールキーパーとの対決……!)


 周囲の味方を頼りたかったが、位置的にボールを渡しにくく、また残り時間の問題からも勝敗は鈴木に託されることとなった。


「止めろー!」


「延長戦に持ち越せー!」


 鈴木の行く手を阻むよう相手側のディフェンスがボールを奪いに来る。


(足を止めるな! これまでの練習を信じろ!!)


 止まればそれだけ時間をロスする。

 鈴木は失敗してなんぼじゃ! とばかりに勝負に出た。



 1人目のディフェンス。

 自分の体でボールを隠すよう、相手とぶつかるギリギリで回転するように体の位置を入れ替え、そのまま抜く。



 2人目のディフェンス。

 勢いをつけたスライディングを仕掛けてきたのをボールごとジャンプすることで回避する。



 最後にゴールキーパー。

 ゴールを決められるかは賭けになる。相手の目線・位置・これまでの攻防から予測して、ボールを叩き込まなければいけない。

 フェイントを取り入れるのもありだが、それを考える時間はもう無い。


(なら、オレにできるのは……!)


 鈴木は脚に力を入れる。


(真っ向勝負だけ!!)



――ボールは力強く蹴られ、



 ――相手キーパーは全力で止めに行き、



 ――観客は息を飲む。



 そして、勝負は一瞬でついた。



『ゴォオオオオオオオオオオオオオオルッ!! 鈴木翔太選手! 見事ゴールを決めました!! 優勝は“関東ジャイアンツ”です!!』


「いよっしゃああああああああああああああ!!」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「翔太おめでとう!」


「すごかったぞ翔太!」


「兄ちゃんカッコよかった!」


 試合を終えた鈴木翔太が公共施設にある『高性能VRMMOダイブマシン』から目覚めると、先に目覚めていたらしい家族が笑顔で出迎えてくれた。


「ありがとう。みんなが応援してくれたおかげだよ……おっととと!?」


 鈴木は家族に近づこうと装置から起き上がろうとして、バランスを崩す。


「ああもう、危ないわよ翔太……」


「あはは、ゴメン。まだ試合の感覚が残ってて」


 今度は大丈夫と補助具を使って車椅子・・・に乗る。



 心配する母親に苦笑いで返す鈴木の脚は――無かった



(諦めてたサッカーをできるようになったのも、VRMMO技術のおかげだな)



 鈴木は今から5年ほど前に交通事故で両脚の大部分を失った。

 医療技術が半世紀前に比べて上がったとして、不可能なこともまだある。

 幼い頃からサッカー選手に憧れていた少年の絶望は計り知れないだろう。


 だが、VRMMOスポーツが希望となる。


VRMMOができたことによって救われた者――それは先天的・後天的な体に障害を持つ人々だった。


 現実では手足が無い者、目が見えない者、その他なんらかの障害を抱える者たちにとって仮初めとはいえ、“普通”の体で動けるのは夢のような話である。

 無論、単純にVRMMOスポーツだけに走る者だけではない。

 手や腕に障害を持った者、または年齢や病気などで仕事の継続が難しい者が仮想空間の中で現実と同じような仕事(プログラマーや電子書類作成、ゲーム内の案内役など)をできるようになったことで、一時期右肩下がりだった世界の雇用問題が僅かながらも改善するに至った。


 ちなみに、このような身体的な障害を抱えた者たちはVRMMO技術を使った仕事に対する熱意が強く、当初考えられていたよりも評判がいい。



「じゃあ、この後は病院で軽い検査の後で帰宅?」


「ええ、そうよ」


「う~ん時間的にお爺ちゃんに会えるかな?」


「どうだろうな……今から行って検査してってなると、難しいかもしれないぞ? 確か今日は仮想空間の中で大きな集まりがあるって話だ」


「そっかー。そうなると、次に会えるのいつかな?」



 VRMMO技術によって救われたのは身体的な障害を持つ者だけではない。


 今や一部の高齢者にも救いをもたらしていた。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 とある仮想空間の中。

 広々としたログハウスのロビーで1人の老人が笑っていた。


「ふっふっふふふ……!」


「おや、どうしたんだい鈴木の爺さん?」


「おう、前田の婆さん。たった今、ニュースで孫の翔太が所属してるとこがVRMMOスポーツのサッカーで今年の日本一になったって速報が入っての!」


「はー! そりゃあ、すごいじゃないか! お孫さんっていうとアレだろ? 事故で脚無くしたっていう、あの」


「はっはっは! VRMMO様々だな! 孫は笑ってこそだ!」


 老人は大きく笑いながら目の前の空間にあるディスプレイを動かして、動画投稿サイトに早速アップされた孫の勇姿をを見る。


(本当にいい時代になったもんだ)


 老人はここ数年で体調を大きく崩し、病院で寝たきりの状態になっていた。

 現実では笑うことも少なくなる。まともに起き上がることもできず、食事も禄に取れず、下の世話も看護婦任せだ。元気だった頃を思い出すと泣きたくなるのが当然だろう。半世紀前までは老人の何割かは通りたくなくても通ってしまう道だった。


(それがどうだ? 仮初めだろうが今のワシは元気だ)



 VRMMOの技術が発展し、公共施設などでも多く取り入れられるようになってから国はとあるサービスを始めた。

 それこそが高齢者入院患者のVRMMOによる精神治療サービスだ。

 これは月に一定金額を払うことで使用できる。


 VRMMO技術を使った仮想空間の中なら子供も高齢者も、スポーツ選手も寝たきりも関係ない。等しく平等である。

 意識さえあればいいのだ。

 それさえあれば、仮想空間で自由に行動できる。


 老人がいるのも都内にある大病院が提供している仮想空間だ。

 この場所にログインすれば、同じ県内にある病院全てからVRMMOシステムによって同じようにログインした似た境遇の高齢者が集まる。


 仮想空間内は広く、いくつかのエリアに分かれている。

 ゴルフなどができるスポーツエリア、囲碁・将棋などが行える娯楽エリア、好きな食事を食べられるフードエリア、そして老人がいる談話エリアなどなど。

 ログインした高齢者は最初に訪れる広場から転移門(ということになっている移動用ゲート)から各エリアに行き、同じ境遇の者たちと交流を深める。

最近の研究結果では、自由な体で生き生きと多数の同世代と交流することでボケ防止にも繋がっているとか。

 ちなみに、1番人気なのはフードエリアだったりする。行けばほぼ確実にステーキを豪快に食べる高齢者たちに会えるそうだ。



(ワシも寿命は残り数年だと思うが、何も怖くない。現実で寝たきりならともかく、仮想空間の中で若い頃のように良く食べ、よく遊び、良くも悪くも自由に活動できる。大事なのは今、この時を全力で楽しむことだ)


「さて、せっかくだ。将棋で勝ってから現実に戻るか!」


 老人は軽い足取りで娯楽エリアへと歩いて行った。






 VRMMO。

 その技術がもたらす恩恵は計り知れない。

 当然、良いことばかりではない。

 中にはその技術を悪用する者もいる。割を食う者もいる。

 それでも、大多数にとって救いとなる。

 問題・課題も多いが、人類は一歩ずつ技術の壁を越え、小説の中の話だったVRMMO実現に近づいてきている。

 いつの日か、このような未来が訪れることを願う。






 某人気小説から始まったVRMMOモノのブーム。

 数年前と比べると圧倒的に作品が増えましたね。


 今回は「もしもVRMMOができたとして、その先にあるものは?」をテーマにオムニバス形式で書いてみることにしました。

 実際、VRMMO=ゲームっていうのが一般的ですけど、本当に現実で小説に出てくるような仮想世界を作れるなら様々なことに利用されると思うんですよね。それで今回はマジメに考えて執筆してみました。

 もちろん作者はド素人ですから細かいことは分かりません。あくまでも「こうなるかもしれない」という妄想です。


 以下は蛇足。

 考えた結果、短編では書かなかったもの。


1.サイバー犯罪

 当然増えると思います。

 VRMMOを利用したものとかだと、初期はマッドサイエンティストが“洗脳できないか”とか研究するかもしれない。闇取引の受け渡し場所の指定・条件などをゲームの中でコッソリするかもしれない。

 警察はより忙しくなるでしょう。


2.性的なもの

 少々アレな話になりますが、五感を限りなく現実に近づけるなら、そういうのも出てくるかもしれません。某人気小説でもちゃっかりしてましたし。

 まあ、未成年の問題やらその他の理由で公式では出せないでしょうが、裏ルートでオフライン系は出るかも?

 もしくは暗黙の了解として出すことで性犯罪の減少に繋がるかな(仮想空間の中でAI相手に発散するから)? そうなると、風俗業界が大打撃くらいそうですが(笑)。


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