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第4校

 「智也のバカ」

アキにそう言われた朝からあれこれ三日が経過した。その間に何があったかというと、何もなかった。というか、次の日の朝にはまた、いつもの通りの道をいつも通りの時間に、いつも通り一緒に登校していた。

 一見するとそれはいつも通りの日常ではあるのだが、俺の脳内では、三日前のやりとりが鮮明に何度も再生されていた。


——結局俺はあの時どうすることが正解だったのだろうか。


 やりとりを思い返すたびに、そう自分に何度も問いかけるが、答えにはいっこうに辿り着けない。

 そんな悩める俺へのせめてもの救いは、アキが例のやりとりを引きずっていない、そんな様子であることだ。だから俺は普段通りにアキに接する事が出来る。

 無論、今、こうやって一緒に登校しているこの瞬間だってそうだ。


「やっぱり、部活に入るの不安だなぁ」


 普段通りの何気ない会話から、ふと、今日が本入部の日だったことを思い出すと、そうボヤいた。

 するとアキは、


「新聞部に入るって決めたんでしょ。だったらシャキッとしなさいよ、シャキッと。まったく、先輩が怖かったんだか何だか知らないけど、それだとみっともないよ」


 そうやって俺に話す。まるで母親のような返答だ。


「まぁ確かになぁ。でも違うんだ」

「んん、何が違うの?」

「先輩達は怖くは無いというか、すごくいい人達なんだよ。でもあまりにも仲よすぎて、そこに割った入ることに罪悪感を覚えるし、馴染めるか不安だし……」


 そんなことを話しながら、ふと、仮入部の時に居たイケメン部長に儚げな印象の副部長を思い返す。そういえば、あの時俺は、放課後の部室が二人の空間を作るためだけに存在しているようだったなぁ。そんな事も話すと、アキは、


「……まあ、それはしょうがないんじゃないの? だってそもそも、部活動に入る前から馴染める人はそんなに多くないと思うし」


 悩んでいる俺に明るく言った。しかし、俺はというと、うんそうだな、と、中身のない返事をするのみであった。

 すると、そんな様子を見かねてアキはこう話した。


「だいたい智也は色々と気にしすぎ。もう少しポジティブになってもいいと思うよ」


「はぁ、俺が考えすぎ……」

「そう、考えすぎなの。私はね、別に考えること自体は悪くはないとは思うけど、智也ぐらいになると、物事を先に進めることが出来なくなっていると思うよ」


 何とも鋭い指摘だ。確かに、自分のことを思い返すと思い当たる節がいくつもある。


「なるほど、考えすぎなのかぁ」

 

 俺はそうやって、やや実感のこもった話し方になる。するとアキは、これとばかりに


「そう、だからもう少し考えすぎずにいれば、もっと楽しい事も多いと思うよ!」


 と言うと、文句の付けようのない可愛い笑顔で俺の方を見つめた。

 俺は、そんなアキに圧倒されていたが、それと同時に、さっきまで悩んで気が重っかったのが、だいぶ楽になったように感じた。

 そしてその変化と同時に、この頃のアキと俺との様子を思い返すと、俺はこう思った。


——まったく俺は最近、アキに助けてもらってばっかりだな。


 と。

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