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最終校

 柏座に背中を押されてから、俺は急いでアキのところまで追いついた。


「どうしたの? そんなに息を上げて、しかも顔赤いし」


 俺を見るなりアキはそう話しかけてくる。


「ああ、ちょっと急用が出来てね、アキに話したいことがあるんだ」

「それはとても大事なこと?」

「そう、俺たちの今後にとって大事な話だ」


 俺の雰囲気で何かを感じ取ったのだろうか、アキは真剣な表情になる。


「わかった。じゃあ山頂に着いたら訊くよ、その大事な話」

「ああ、そうしてくれると有り難い」


 アキはそれを訊くと今度は笑った。


 山頂までの道のりはそう長くはなく、アキに追いついてから五分もせずに着いた。ただ、展望はとても優れており、相模湾から丹沢山地、遠くには富士山を望むことができる。


「ああ、綺麗だ……」


 自然と言葉が漏れた。しかも今は夕暮れ時。紅色に染まる空も海も山も町もそして雲間から漏れるいくつもの光も、その全てが美しく映る。大袈裟だし勘違い野郎かもしれないが、その景色は俺たちを歓迎してくれているようにも感じた。


「ホントこれは最高だね」


 横にいるアキはそう話すと俺は、


「うん……」


 と答えた。

 しばらく二人でその夕陽の沈む景色を眺めていると、アキが思い出したように切り出す。


「それで……大事な話っていうのは……何?」

「ああ……」


 その言葉で俺はハッとする。そうだ、きちんとしなければと。俺ほ大きく深呼吸をすると、アキの方に向き合う。アキもそれに気がつくとこちらを向く。 


 無論、目が合う。


 俺はここでふと、こう考える。

 この想いをいつか君に伝える、ずっとそう思っていた。口に出せずにいた。誤魔化していた。ヘタレだった。現状で満足していた。何も始めようとはしてこなかった。

 

 でも今は違うんだ。


 俺は何かを始めたいんだ。

 

 知らないアキをもっと見たいんだ。


 だから俺は一歩前に踏み出す。その一歩をしっかりと噛みしめて。



「俺は……——」



 

 五月の初め、温かく静かな夕陽が、向かい合った二人の頬をほのかに赤く照らしていた。

 


【完】

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