07 人を恋う
子供たちは男の子と女の子で別々の部屋に寝ている。
アンナ達の部屋に入ると、ベッドの上でソフィーが泣きじゃくっていた。
「ソフィー」
フランカの声にソフィーはその顔を上げた。
「……ぅ…ママぁ…」
ベッドの傍へ行くと、フランカはしがみついてきたソフィーをギュッと抱きしめた。
六歳のソフィーは一年前に家族を事故で亡くし、ここにやって来た。
その時のショックや悲しさで、時々泣き出す事があるのだ。
ソフィーの身体を包み込むように抱きしめると、フランカはその小さな背中をぽんぽんと優しく叩いた。
ゆっくりと、赤子にするように叩いていると、やがて落ち着いたのかソフィーは寝息をたてはじめた。
「ソフィー…だいじょうぶ?」
泣きそうな顔でじっと見つめていたエミーが言った。
「そうね、もう大丈夫よ」
背中を叩いてた手を止めると、フランカはソフィーをベッドへと寝かせた。
「エミーも」
抱きついてきたエミーを膝の上に乗せ、ソフィーと同じように抱きしめると背中を撫でる。
「アンナもおいで」
声をかけるとアンナは嬉しそうにはにかんだ。
フランカは隣へくっつくように座ったアンナをぎゅっと抱きしめた。
幼いエミーはもちろん、普段はしっかりしたお姉さんとして他の子たちの面倒を見ている十二歳のアンナも、ソフィーが泣いているのをみると自分たちも不安になったり親が恋しくなるらしい。
だからフランカは、誰かが泣いた時は、他の子供たちも同じように抱きしめてあげる事にしていた。
そのまましばらく二人を抱きしめていたフランカは、ハルムがこちらをじっと見つめているのに気づいた。
フランカと視線を合わせたハルムは、困ったような、辛いような表情を浮かべた。
「ハルム…?」
「僕も、そっちに行っていい?」
「ハルムもぎゅっとする?」
エミーの言葉に頷くと、ハルムは伺うようにフランカを見た。
———先刻触れるなと言ったのを気にしているのだろう。
フランカは心の中でそっとため息をつくと、ハルムに笑みを向けた。
それを見たハルムは顔をほころばせるとアンナと反対側のフランカの隣に座り、エミーごとフランカを抱きしめた。
フランカの首元にハルムの鼻が触れた。
「ハーブティーよりもいい香りだね」
フランカにだけ聞こえる声でハルムは呟いた。
「ハルムはフランカの事が好きなのね」
一緒に朝食を作っていたアンナの言葉に、フランカは手にしていたレードルを落としそうになった。
「そう…かしら」
「だってさっきだって…」
パンを切りながらそう言って、思い出したのかアンナは少し顔を赤くした。
「…今まで独りきりだったから、誰かがいるのが嬉しいのよ」
「でもフランカの事ばかり見てるわ」
「———エミーが私の事を母親のように慕うのと同じよ」
「えーそうかなあ」
「そうよ」
きっぱりとそう言って、フランカは鍋の火を止めた。
「ハルムはエミーと同じよ、家族を知らないから愛情が欲しいんだわ」
「フランカって、そういうところ鈍いよね」
はあ、とアンナは大きくため息をついた。
「ハルムがフランカを見る目はスヴェンと同じなんだから」
「スヴェン?」
唐突に出てきた名前にフランカは首を傾げた。
「どうしてそこでスヴェンが出てくるの」
スヴェンは二十歳になる粉屋の息子で、孤児院にもよく配達をしに来る。
彼がフランカにかなり好意を抱いている事を子供たちは気づいていたが、肝心のフランカには全く伝わっていないようだった。
「もう、本当にフランカは…」
呆れたようにもう一度アンナは大きくため息をついた。