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04 孤児院

「ハルム!いた!」

「フランカー」

家に戻ると子供たちが駆け寄ってきた。


「みんなもう起きていたの?」

「ハルムの事が気になって早く目が覚めたんだ」

ベックが答えた。

「でもいなかったから、昨日の事は夢だったんじゃないかって」

「そうだったの。一緒に朝の散歩に行っていたのよ」

フランカは抱きついてきたエミーを抱き上げると子供たちを見渡した。

「朝ごはんを作るから手伝ってくれる?」

「はーい」

元気のいい返事を返すと揃って家の中に入っていった。


フランカ達が暮らす孤児院は、町の端にある教会から少し歩いた場所、かつて修道院だった、森に囲まれた二軒の建物の一つだ。

隣の建物には神父夫妻が住んでいて、こまめに様子を見に来るが基本、家の事は子供たちで全てやるようにしている。

———十五歳になったら孤児院を出て行くので一人でも生活できるようになるためだ。


五歳の時に孤児院にやって来たフランカも、三年前にここを出て行くはずだった。

けれどその頃、子供たちの面倒を見ていた神父の妻が体調を崩し、面倒見が良く最年長だったフランカがその代わりに孤児院を任されるようになった。

以来、子供たちの姉として、また母として、そして〝仕事〟としてフランカはこの孤児院に住んでいる。


昨日突然現れたハルムは、最初神父の家で預かろうとした。

けれど子供たちが離れたがらなかったのと、本人の強い希望で孤児院の方に泊まる事になったのだ。


十歳のベックと十二歳のアンナは台所で料理の手伝い、八歳のクルトと六歳のソフィーは食卓の用意、ハルムにはまだ眠そうな四歳のエミーを預けて皆で朝食の用意をする。

庭で育てた野菜を使ったサラダに豆のスープ、それに神父の家から届けられたパン。

椅子に座り、女神への感謝の言葉を唱えると食事の時間が始まった。



「ハルムは食べないの?」

スプーンにすくったスープを冷ましていたクルトが首を傾げた。

昨夜の夕食の時間は神父と話をしていていなかったハルムだったが、今は食卓から離れたソファに座ってこちらの様子をにこにこしながら眺めている。


「うん、僕は食べ物はいらないんだ」

「ええーお腹空かないの?」

「いいなあ」


「でも美味しいものが食べられないのはつまらないわ」

エミーのためにパンをちぎりながらアンナが言った。

「神父様が焼いたパンも食べられないなんて」

クルミの入った甘みのあるパンは子供たちの大好物だった。


「そうだね。食べ物の美味しさは分からないけど、皆でそうやって食べるのは楽しいんだなって事は分かったよ」

ハルムの言葉に、一同は顔を見合わせた。


「…うん、みんなで食べるのは美味しいね」

「みんなで作ったご飯だもんね」

「野菜も作ってるんだよ」

嬉しそうに言い合う子供たちに、フランカもその頬を緩めた。


ここにいる子供たちは事情は様々だが、皆幼い頃に家族と別れている。

家族の愛情を失ってしまったけれど、神父夫妻やフランカは代わりに愛情を沢山注いでいた。

食事を皆で作るのも、誰かと生活する楽しさと家族の温かさを知ってほしいからだ。


家族の愛を得られなかった子供たち。

———それはずっと独りでいたハルムも同じなのかもしれない。



「ハルムもこっちにおいでよ」

「ここに座って」

ソフィーが小さな手で隣の空いている椅子を指した。

「でも僕は食べないよ」

「食べなくてもおいでよ」

「一緒に座るだけでも楽しいよ」

子供たちの声に、ハルムは立ち上がるとソフィーの隣へ腰を下ろした。


「…ハルムは、飲み物もだめなのかしら」

フランカはティーポットを手に取ると尋ねた。

「ハーブティーと言って、植物を乾燥させて煮出したものなのだけれど」


「植物についた朝露は舐めたことがあるよ」

「じゃあ試しに飲んでみる?」

フランカは小さめのティーカップに少しハーブティーを注ぐと、それをハルムに手渡した。


「熱いから気をつけてね」

「熱い?」

「フーフーってするの」

ソフィーが自分のマグカップを持って息を吹きかけると、それを真似してハルムもティーカップに息を吹きかけた。

それから恐る恐るそれを口元へ運ぶ。


こくん、と白い喉が動くのを一同は心配そうに見つめた。


「熱い?」

「美味しい?」

「いい香りだね」

ティーカップから唇を離してハルムは言った。

「これが美味しいっていうのかな」


「フランカのハーブティーは美味しいんだよ!」

「身体にもいいの」

「じゃあこれが〝美味しい〟んだね」

ハルムは笑顔で言った。

「それに、みんなと同じものを飲めるのは楽しいね」


少しずつ飲んでいたハルムは一杯を飲みきるとお代わりを望んでそれも飲み干した。

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