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天使は歌を望む  作者: 冬野月子


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19/25

19 渇望

静かになった部屋でフランカはひとり息を吐いた。


———ハルムが自分へ抱く感情が、スヴェンのいう通りだったとしたら…


けれどハルムは…彼は、天に帰らなければならない。

彼は———ここには長くは居られないのだから。



「フランカ」

ドアの所に少し不機嫌そうな顔でハルムが立っていた。


「あいつが来てたの」

「…スヴェン?ええ、お見舞いに来てくれたの」

露骨に不快な表情を見せると、ハルムはベッドの傍へ立った。


「フランカはあいつと番になるの?」

ハルムの言葉にフランカは瞠目して———視線を逸らせた。


「……そうね」

結婚など、するつもりはなかった。

一生この孤児院で子供たちの面倒を見ていこうと。


けれどハルムがもしも自分の事を、本当に〝そういう〟心で見ているのだとしたら……彼には諦めてもらわないとならない。

自分の歌のせいでハルムが天から落ちてしまったのなら、自分がハルムを天に帰さなければならないのだから。




「どうして…僕は人間じゃないんだろう」

フランカを見つめてハルムは言った。


「ねえフランカ。どうしたら僕はフランカとずっと一緒にいられるかな」

紫色の瞳が悲しげに揺れた。

「僕は天には帰りたくない。…でも、消えたくもない」

フランカは息を飲んだ。


「天から離れた天使は女神の加護を受けられない。そうなったら天使はやがて消えてしまう。———だけど僕は、フランカの側にいたい」

ベッドの傍で膝をつくと、ハルムはフランカの手を握りしめた。

「フランカ…フランカ」

ぐ、と手に力がこもる。

「嫌なんだ。独りでいるのも…消えるのも」



ああ———知っていたんだ。

このままではハルムは消えてしまう事を。

フランカは縋るような紫水晶の瞳を見つめた。


「ハルム…」

「僕は人間になりたい」

握りしめたフランカの手を、ハルムは自身の胸へと押し付けた。

人間よりも体温が低いハルムの、けれどそこからは確かに彼の温度と鼓動が伝わってきた。




「ハルム」


フランカはハルムの手を握り返した。

「あなたは…天に帰るべきだわ」

ハルムは目を見開いた。


「祭りの日は、女神の力が強くなって天と地が繋がるの。きっと、その時に天に帰れるわ」

「嫌だ」

「でもこのままだと消えてしまうのでしょう?だったら…」

「あそこにはフランカがいないじゃないか」

「だけど…」

「嫌だ!」


「ん…」

ハルムの叫び声に、エミーが身動いだ。


「エミー…ごめんね、起きちゃった?」

とろんとした瞳でフランカを見上げたエミーの頭にキスを落とすと、緩んだような笑みを浮かべてエミーは再び目を閉じた。


「エミーは、ずるい」

フランカに頭をすり寄せるエミーを見てハルムは言った。

「エミーも、あいつも。みんなずるい」

「ハルム…」

「僕だって、フランカと一緒にいたい」

痛いほど、ハルムはフランカの手を握りしめた。


「フランカの側で、フランカの歌を聴いていたいんだ」

フランカはただ手を握り返すしかできなかった。

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