12 幼馴染
フランカはぼんやりと海を眺めながら昨夜の事を思い出していた。
自分の歌で一時的に翼を取り戻したハルム。
その彼の最初の記憶———歌を聞いたという…あれは。
「まさか…会っていたなんて」
フランカは波を見つめて呟いた。
女神に仕え、彼女や天使たちのために歌う。
それがフランカの役目だった。
天使の樹の下で歌ったのも、女神の代わりに生まれてくる天使たちに祝福を贈るためだった。
歌を捧げる者は何名かいたが、歌に女神の力を宿す事ができるのはフランカだけだった。
その力を持っていたために本来ならば女神に仕える事のできない立場だったフランカが女神の側にいる事を許されていたのだ。
力がなければ、フランカはハルムと同じように、今でも天の片隅で独り生きていたのかもしれない。
———そう、あの地の美しさも寂しさも知っている。
ハムルがこれ以上ここにいたらどうなるかも。
知っている、けれど……
「フランカ」
名前を呼ばれてフランカは振り返った。
「スヴェン…どうしたの?」
「孤児院へ戻る道と違う方向に行くのが見えたから」
スヴェンはフランカの隣へ来ると、同じように壁に寄りかかり、フランカの足元の荷物に視線を落とした。
「町へ行っていたのか」
「ええ、買い物に」
「言ってくれれば代わりに買ってくるのに」
「…たまには町に行きたいもの」
町に買い物に行く事は気分転換になる。
活気のある町の様子を見るのがフランカは好きだった。
「じゃあ次からは一緒に行くから、声をかけて」
「一人でも行けるわ。重いものは配達してもらえるし…」
「一人で行かせたくないんだよ」
スヴェンはフランカの顔を覗き込んだ。
「変な男に声を掛けられたり絡まれたらどうするんだ」
「…そんな変な人は町にいないし、会った事もないわ」
「お前、自分の見た目の事分かってるか?」
大きな手がフランカの頭に触れる。
柔らかな栗毛は毎日の家事や子供たちの世話に追われていても輝きを失う事なく、その肌は白く滑らかだ。
化粧をしていないのに唇は赤く艶やかで、大きな青い瞳は見る者を惹きつける。
元々可愛い少女だったフランカは大人になってますます美しくなったと町でも評判になっているのだ。
「…私は…」
「他の男にフランカを見せたくないんだ」
毎日の粉挽きと配達で鍛えられた力強い腕がフランカを抱きしめた。
「スヴェン…」
「昨日の奴は何なんだ?」
「…ハルムの事?」
「随分と親しいようだったけど」
「ハルムは…ずっと独りで生きていたの」
フランカはスヴェンを見上げた。
「人恋しくて仕方がないのよ」
「それだけか?」
「それだけよ」
「キスしていたってクルト達が言ってたけど」
スヴェンの言葉にフランカは思わず息を飲んだ。
「まったく、人がずっと我慢してきたのに。あんな突然現れた奴に先駆けされるとはな」
「っあれは親愛の表現で…」
「ここにキスさせるのか」
フランカの唇を骨ばった指がなぞる。
「フランカ」
耳元でスヴェンの声が響くと、頬に刺激を感じた。
「スヴェン…!」
「親愛のキスならするんだろ」
チュ、と音を立ててフランカの頬に再び口付けると、スヴェンはフランカの身体を抱きしめ直した。




