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第6話 検問が終わるまでモンスター退治といくか!



 どうやらクリスが片道1時間かかると言ったのは歩きの場合のようだった。

 アーデルベルトに乗った俺たちはものの数分で目的地、中央都市セントラルバーンについた。

 空に輝く太陽のような天体。その位置から察するに、そろそろ日が暮れ始める頃だろう。


 めちゃくちゃアーデルベルトの足速かったし、さすが馬系のモンスターだなって思ったけど……マジで死にそうだったんだぜ。

 途中何度、魂抜けるかと思ったわ。


 草原というなだらかで障害物も少ない場所のせいか、どうやら飛ばしてしまったようだ。

 クリスが申し訳なさそうに言っていた。


 フート草原の温厚な魔物たちは、基本こちらから攻撃しなければ襲ってきたりしないらしい。

 すいすいとモンスターを避けていくのは、ひどく爽快だった。

 

 一度じっくりあのモンスター達もモフモフさせて頂きたいところである。

 ……まあ、その前に襲われるだろうから叶わない願いだけど……。


「ここがヤミノ連合国、中央都市セントラルバーンの検問所だ」

「お、おう」


 闇の連合国?

 はじめて自分の転移された場所の国名を知ったが、なんだか不安を煽る名前すぎる。

 連合国名乗っているからには、沢山の国が集まって一つになったということなのだろうか。


 俺はクリスから預かってもらっていたバトルアックスを手渡され、礼を述べる。

 乗馬だけで手一杯だったからな。重かっただろうに……すまんなクリス。


 こいつは明日、筋肉痛になるに違いないとひどいことを考えていたことは秘密だ。


 俺はクリスにこれからのことを教えてもらいながら、検問所へと向かう。

 検問所とはいっても建物ではなく、ただ屋根のついたテントのようなものだった。


 話によると、どうやら検問を通るには識別ナンバーを都市を守る獣士隊の兵士とやらに告げなければならないらしい。

 その識別ナンバーはスキルボードの名前の左に書かれている数字で、個人の特定をするのに役立つのだそうだ。


 ……というか獣士隊って、騎士団みたいなものなのか?


 番号を告げるまではいいのだが、俺はどうやらしばらくそこで足を止められるらしい。

 初めて都市に入るためだ。

 そこで何やら入国するための入念なチェックが行われるという。


 ……俺、そういうの引っかからない? マジで大丈夫っすか?


 世界の異物とも言える異世界人の俺のスキルボードとやらは、果たして普通なのか。

 分からない。


 疑問も湧くが、あの手紙の内容からしておそらく大丈夫だろう。いや、大丈夫だと言ってほしい!

 心の中でそう願いながら、いざという時のために逃げ出す準備もしておこうと誓う。


 いや、俺に自給自足の生活なんて出来るのか……などと考えている間に、兵士の前まで来てしまった。

 ちなみに兵士は検問所に3人ほどいた。


「はい次の方。識別ナンバーを教えてください」

「あ、はい」


 俺は自分のステータスボードを出し、番号を確かめる。


 ちなみに今この場にはミーコがいない。

 クリスの助言で先にカード化していたのだ。

 はじめてのカード化ということで興奮している俺とは対称に、ミーコは少し不機嫌そうだった。

 こればかりはミーコの安全のためにも仕方がないことなのだ。


 番号を告げるとセントラルバーンを訪れたことは初めてなのか確認された。

 兵士は手元にあった道具のようなものに、何かを打ち込んだようだった。

 おそらく識別ナンバーだろう。


「それでは登録が終わるまで半刻ほどかかりますので、しばらくお待ちください。ここで待っててもいいのですが、もし暇ならばフール草原でモンスターを倒していてもいいですよ」

「……え?」


 俺は気安く話しかけてくる兵士を見つめる。


 なんだ? ここはモンスター退治を全力で推奨する世界なのか!?


 そんな内心が顔に出ていたのであろう。

 兵士は焦った様子で言葉を紡ぐ。


「ああ、実はですね! ここに来る貴方くらいの若者はみな、一攫千金を狙うテイマー志望ばかりなんです。そういう子たちって、田舎から出てきたことを舐められたくないみたいで。空いた時間に少しでもレベル上げしてから正式にテイマー登録したいとうずうずしているんですよ」

「はあ」

「だから貴方もそうなのかなと思い……」


 兵士は苦笑いを浮かべながら、頭を掻く。


 兵士が言うにはフール草原のモンスターの攻撃は余程当たりどころが悪くない限り、死ぬことはないのだという。

 さすがは初心者向けのテイムドレベル上げスポットだ。

 だからこそ、彼も勧めてきたのだろう。


 俺自身の防具や武器について問うたところ、テイマーは主にほとんど武装することがないという。

 勿論人によって異なりはするが、機動力重視で軽装な者が多いらしい。

 ……さすがにパーカーとスキニーパンツで戦うような人間はいないのだろうが。


 そんな奴がいたら、全力で腹抱えて笑っちゃうよね? ……うう、なんか自分で自分にダメージ与えてるな、俺。


 ただ、兵士と話しているうちにわかったことがある。

 このような超軽装で旅をし、中央都市まで辿り着いた俺を、田舎でそこそこ鍛え上げた実力者だと勘違いしているということだ。


「あとそうですね……実を言うと、最近フート草原に出てくる魔物が急増してまして。……少しでも数を減らしていただけたらなんて、そんな打算的な狙いもあるわけです」

「そうなんですか……」


 兵士はため息をつきながら、草原に視線を移した。

 男の目元は疲れのせいか疲労感を伺わせる。


 大変なのかもしれないし、時間もあるので少しくらいなら力になれると思った俺は了解の意を示した。


「……はい、それじゃあ少し戦ってみます。お仕事、なんといいますか……お疲れ様です」


 日本でも、こういう人は見たことあった。つまりはアレだ……社畜ってやつ。

 仕事に生命力を奪われるのは日本も異世界も同じなのかもしれない。

 ……実に世知辛い世の中だ。


 兵士の近くでじっとしているのも気まずいほどこの上ないので、半刻経ったら戻ることを約束する。

 そして俺は今日二度目の戦闘を行うべく、フール草原へと繰り出した。





 俺はミーコのカードを持ち、呼び出す。

 すると見覚えのある真っ白な猫が勢いよく飛び出してきた。


 うん、薄めの青色と琥珀色のオッドアイも健在だ。

 ちなみにミーコの瞳は右が青で左が琥珀だった。……実に美しい!


 俺はミーコの下顎を撫で、今から本格的にモンスター狩猟をすることを伝える。


 俺としては別段狩猟がしたいという訳ではない。

 兵士の打算的な狙いを叶えたいというわけではないが、協力してもいいと思ったのは確かだ。

 けれど、どちらかといえば金の問題が心配の種だった。

 出来る限り手札になるものを増やしておきたい。


 なんせ俺は無一文なんだから!


 ついでに隙があればモンスターの生態についても知りたいんだけどな!

 だが、理性的に考えてさすがにモフモフすることは衛生的な面でやめておこうと思う。

 野生だし、変な病気にかかるのはご遠慮被りたいからな。

 ……エイティのときは思わずモフモフしたくなったけれども。


「あ、クリスの言ってた羊……たしかスリープゴートだ」

「にゃー」


 赤い羊毛に凶悪なツノ。

 俺たちのいる数メートル先にターゲットがいた。

 地球にいる羊とは異なり、かなり醜悪で凶悪な面構えをしている。

 スリープゴートという種族名なのだから、おそらくなんらかの方法で眠らせてくるのかもしれない。気をつけねば。

 俺は緊張気味に唾を飲み込んだ。


 周囲を見渡し、目撃者がいないことを確認する。


 ミーコじゃなくて俺が物理攻撃しかけてるところを見られたら、何か言われそうだしな。うん。


 日が落ち始めているせいか、レベル上げに来ていた初心者テイマーたちはすでに撤退し始めたのだろう。

 ここにくる途中、俺とそう変わらない装備で戦闘を繰り広げているテイマーらしき人間もいたが、目撃したのはたったの二人だった。


「……よし、やるか」

「みゃっ」


 ミーコと俺は目を合わせ、頷きあう。

覚悟を決め、持っていたバトルアックスを地面に置いた。

 敵を前にするまで武器を使うべきか思案していたが、素手の方が戦いやすい気がしたのだ。


 まずはミーコがゆっくりと近づき、俺はターゲットの奥へと回り込む。

 ……よし、挟みうち成功だ。


 そして俺たちは一斉に飛びかかった。


「ビィ!」


 スリープゴートが驚いたのか鳴く。

 ミーコがスリープゴートの顔の上に乗り、視界を塞ぐ。

 俺は赤い羊毛に覆われた胴を押さえつけた。

 そしてとにかく力を込めたグーパンで殴る。


「ビッビイイィィィィ!!!」


 ターゲットの骨がバキバキに折れた感触が拳に伝わる。

 後味の悪いそれに、俺は顔をしかめた。


 そのままスリープゴートは大きく吹っ飛ぶ。

 ミーコは俺の拳と同時に地面へと降り、難を逃れていた。

 しばらくターゲットは体を痙攣させ、やがて動かなくなった。


 ……何度やってもあまりいい気持ちはしないもんだ。

 でも、俺は牛や豚、鶏だって食っていたのだ。


 自分で手にかけたときにだけ罪悪感を覚えるのは身勝手極まりないだろう。

 ……かといって、すぐに割り切ることなど出来そうにもないが。


 俺はスリープゴートが黒いもやにつつまれ、やがて消えていく様を眺めた。

 あとには一枚のカードとどうやら赤い羊毛の一部が落ちている。

 カードはエイティのものと一緒にポケットへとしまい、ドロップアイテムはパーカーの前ポケットにしまった。……クリスに一時的に適当な袋でも借りとけばよかったかも。


 そのあと、少し前に見かけたうさぎ型のモンスターであるラピットや、透明でぷよぷよとしているスライムなんかを見つけた。

 もちろんミーコと協力して退治し、カードを得ることが出来た。


 そろそろ30分経ちそうだなと思いら検問所へ向かう途中、もう一度スリープゴートを見つけた。

 その際にはミーコのスキルである《魅了》を使い、楽に撃退することができた。


 予定の半刻が過ぎるまでモンスターを倒しまくった俺はどうやら少し無理をし過ぎたらしい。

 今はなんだか体が重く感じていた。


 実をいえば、俺は肉体的な疲労はあまり感じていない。

 それでも体が重く感じるのは、多分精神的な疲労によるものだろう。


 ……そういえば、今日は一日飯を食うことも出来なかったんだ。

 そりゃ、体だるおもだわ。


「ミーコは元気だなあ……」

「みゃーおっ」


 俺はいつもの撫で方とは志向を変え、肉をつまむようにモフモフした。

 幸せだ。癒される……。

 コストゼロでこんなに優しい気持ちになれるのなら、世界中の人々もミーコをモフモフするべきだろう!


 そんなことを思いながら、ようやく目的の場所までたどり着いた。

 ミーコは安全のためにカード化しておく。


 検問所のお人好し兵士は精神的に疲れ果てた俺をみて、よくわからんブロック型の非常食をくれた。

 あんまり美味しそうには見えないけど、その心だけで十分に涙が出るぜ! ありがとう。


 正直この疲れではこのままギルドに行って手続きするなんて、気力が続く気がしない。

 とりあえず飯と……その前に金をどないかせんといかんぞ!


「ドロップアイテムは、赤羊毛と羊のツノ。うさぎの前歯に、あとはスライムの核だな」


 俺はパーカーのポケットを軽く叩く。

 無理やりパーカーのポケットに詰め込んだから、ぎっしり重たい。

 それを見たか優しい兵士さまがまたも「ずだ袋だがやるよ」と袋を恵んでくださった。

本当に感謝だ。


 どうやら兵士の名前は、ダルさんというらしい。……金が出来たら差し入れでも持ってこよう。


 ポケットから袋に入れ替えるときに思い出したのだが、俺って検問所に向かうときは通れるかどうか不安でいっぱいだったよな。

 ……普通に忘れていた。


「あ、あのダルさん……俺ってちゃんと都市に入れますか?」

「はい、大丈夫ですよ。そんな心配することはありません。むしろ逆に検問に引っかかる人の方が稀なんですよ」


 俺は心の中で安堵の息をついた。

 そして貰ったパサパサの非常食を食べながら、検問所を抜けたらどうしようかなと考える。

 ……あ。く、口の中の水分全部持ってかれた。み、水くれ。


 固形の非常食は珪藻土(けいそうど)のバスマット並みに吸水性が高いということをこのとき俺は知ったのだ。



・・・


【本日の狩猟モンスターカードの成果】


◇ No.1 スライム

◇ No.4 ラピット

◇ No.6 スリープゴート×2

◇ No.12 エイティ


 以上。


・・・


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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