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第14話 新たなスキルとおかしな死闘



「こ、これ……やべえぞ! めっちゃモンスターに囲まれてるんだけど」

「みゃーおっ!」


 弱気な俺とは対照的に、ミーコは力強い声で鳴いた。

 周囲には十……いや二十を超えるモンスターがこちらを伺っている。


 既視感のある巨大ウサギや赤羊、デブ狐や針でかハリネズミに加え、見たことのないようなモンスターまでいる。


 蜘蛛の体に鉄砲のようなものが付いているモンスター。

 めちゃくちゃ大きなサソリ型モンスター。

 一言で言えばおばけキノコのモンスターなど多種多様だ。


 モンスターたちは10メートルほど離れたところから、俺たちを観察している。


「ミーコの《誘引》スキル、かなり効果あるんだな……」


 おそらく、木々の周辺に隠れていたモンスターたちはミーコのスキルによって飛び出してきてしまったのだろう。

 すぐに襲ってくる気配はないが、俺は臨戦態勢をとった。……敵意を感じ取ったためだ。


 俺は心の中でステータスボードを呼び出し、ミーコのMPを確認する。


「30/50か。さっきまで40/50だったな。ってことは、これもまたMP10消費なのか」


 ステータスを見ながら考える。

 一つ、試したいことがある。

 この数を一度に相手するのはいくらなんでも大変であるし、俺もまだ戦闘初心者だ。

 うまく捌き切れるか不安だ。


「ミーコ、あのな……」


 俺は肩に乗っているミーコに小さく作戦を伝えた。

 ミーコは「みゃっ」っと了解の意を示し、俺の頰をペロリと舐める。


 くすぐったくて俺は片目を閉じた。……内心、テンションが上がって全力で飛び跳ねたくなったのだが、我慢したぜ!


「それじゃ、頼むぞミーコ」


 俺がそう囁いた瞬間。

 ミーコは先ほどとは打って変わって、大きく周囲に響き渡らせるよう鳴いた――いや吠えた。

 モンスターたちは一斉にミーコに注目する。


 そう、まさしくエイティ戦と同じように初めから持っていたスキル《魅力》を使用したのだ。


 周囲のモンスターたちは、皆一様に動きを止める。

 いきなり体の自由が利かなくなり、戸惑っているのが伺える。


 ミーコの《魅力》スキル。

 この効果は『敵を硬直状態にする』ということと『レベル差によって使用可能時間が変化する』ということだけだった。

 つまり、『敵の数』については書かれていない。


 俺の予想であるが《魅力》というスキルは敵単体と戦うことを想定したものではなく、対多数戦でその力が発揮されるものなのだろう。

 そう考えた俺は、この想定を確かめるのにぴったりな状況を利用することにした。


「ありがとなミーコ。……んじゃ、ここで待ってろ。いくぞ!」


 俺は全身に力を込め、身動きの取れないモンスターらに向かって走る。


 ――早かった。自分の足じゃないように思えるほど、スピードが出た。


 これは《瞬足》の影響に違いない。

 これなら、地球のオリンピック男子100メートルで金メダルが取れそうな気がする。

 疾走による向かい風が息苦しく感じるほど、早く動くことが出来た。


 俺は力を込めた拳を次々とモンスターたちに当てる。

 驚くほど簡単に吹っ飛び、まるで風船に全力パンチを繰り出しているように手応えがない。


 1分も経たないうちに周囲を囲むモンスターは消え、残すのはカードとドロップアイテムだけだった。


 見守っていたミーコは楽しそうに鳴く。


「終わったのか……」


 全くの無傷で、20匹以上のモンスターをあっという間にやっつけてしまった。


「モンスターのスキル……すごいな。だけど、これはテイマーの戦い方じゃないよな……」


 テイマーとは、主にテイムドモンスターを使って敵対するモンスターに攻撃を与えるものだ。

 消してテイマー自身が武力を行使し、勝利を掴むものではない。

 ……いや、国中を探せばそういう人間もいるかもしれないが。ほら、力自慢のプロレスラー的な人とかさ!


 俺は遠い目をしながらも、周囲に散らばったドロップアイテムやカードをかき集めようとしゃがむ。


 今だけは、カード化される世界でよかったと思う。

じゃなきゃ、スプラッタな現場になっていただろうから。


《ピロン!》


 いきなりけたたましい電子音が聞こえ、俺は肩を揺らす。


 う、うわっ! いきなりびっくりした……。

 ん? この聞き覚えのある音は。


《テイムドモンスターのレベルが一定に達しました。よって、天啓によりスキルの取得が可能となります》


 その声を聞き、戦闘によってまたミーコのレベルが上がったことを理解する。

 今度は10レベル以上になったということだろうか。

 これだけいっぺんにモンスターを倒せば経験値もかなりのものだろう。


 俺はそそくさとドロップアイテムをショルダーバッグに詰め込み、カードを纏めて右手に持つ。

 ステータスボードを呼び出すと、レベル上昇とともにMPやHPの最大値も上がっていた。

 喜びながらも早速、本日二度目のミーコのスキルを得るために【取得】ボタンをタップする。


 同じように天から光が差し、それが消えたあと俺はステータスボードを確認する。


「お、《俊足》か。……ん? 俺の《瞬足》と漢字が違うようだが」

「みゃ?」


 疑問に思った俺は、即座に《俊足》の文字に触れる。

 いつもと同じように、スキルの説明ページが現れた。


・・・


スキル《俊足》

受動的(パッシブ)スキル。

足の速さ、瞬発力が上昇する。スキル《瞬足》の下位互換。レア度は中の上。


・・・



 やはり、言葉通りスピードに関するスキルだった。

 だが俺はレア度の文字を目で追い、額に人差し指を当て、考え込む。


 レア度が中の上ということは、俺の《瞬足》は最低でも中の上はあるわけか。


 レア度が気になった俺は、確認するためにページを開いた。

 すると、どうやら《瞬足》は上の中らしい。


 まるで俺自身の都合がいいように、良スキルばかり増えていく。

 これはなんというか……。


「もしかして、これもまた魔物大好き(モンスターマニア)のせいなのか?」


 このギフトは、まだ誰にも相談できていない。

 クリスに伝えてみようかと一瞬迷ったが、彼はまだ駆け出しのテイマーである。

 説明を求めても答えられない可能性の方が大きいだろう。

 ツテはありそうだが、あまりおおごとにして広めて欲しくもない。


 ……ならば、やはりギルド受付のおっさんに帰ったら聞いた方が良さそうかもな。


 俺はそう決意を固め、持っていた狩猟モンスターカードの束を無理やり麻のズボンのポケットに押し込んだ。


 先ほど見たが、どうやらミーコはレベルアップしたことでHPやMPの最大値も増えていた。

 モンスターはすでに20匹以上倒したが、まだまだ時間はある。


 俺はミーコを肩に乗せ、より深く木が茂っているところへと足を踏み入れる。

 フート草原といいながらもはや草原とはいえない、林のような光景が広がっている。


「ここならまた多くのモンスターを呼べそうだな。――大丈夫そうか、ミーコ?」

「にゃーおっ!」


 先刻と同じように、ミーコは《誘引》でモンスターを誘い出す。

 新たに増えた《俊足》のおかげで、ミーコの危険度は格段に低くなっただろう。……多分。


 だが、俺がミーコを必ず守るから、心配する必要はないがな!

 ……っとこれこそ、何かしらのフラグになりそうだ。やめよう。


 そんなことを考えていると、周囲からモンスターたちが近づいてきている気配を感じ始めた。


 目を細め、いつでも動けるように攻撃の構えをとる。


「グゥゥオオ!!」

「……っ!」


 ついに木の陰から犬型の黒いモンスターが飛びかかり、俺に噛み付こうとする。

 速度がかなり遅いため、避けることは容易い。

 俺は咄嗟にしゃがみこみ、黒犬モンスターの懐に潜り込んだかと思えば腹に一発グーパンを決めた。


「……おりゃっ」

「グァァァッ!!」


 なんとも気の抜けた声とは反対に、モンスターは口から緑の血のようなものを吐き出し、そのまま拳の力を受けて木にぶつかる。

 そして衝撃を受けたモンスターはそのまま小さく呻き声を上げたかと思うと、微動だにしなくなった。


「さっ……次だ!」


 モンスターは次から次へと姿を現し始めた。

 人型のモンスターでファンタジーの定番中の定番であるゴブリンやコボルトもいる。


 俺は腰を低くし、ちらりとミーコの様子を伺いながら敵に向かった。



 ――五分後。

 結果を言えば、すべて5分も経たないうちにに討伐することが出来た。

 先ほどよりも数は少ないが比較的体の大きなモンスターが多く、2割程度のパンチ一発ではお亡くなりにならない奴もいた。

 本気で撃てば、おそらくバラバラでグログロになるため制限をかけていたのだ。


 ただのろまなモンスターばかりなので、さすがは初心者向けのレベル上げ地といったところだろう。


 小さく息を吐き、額に浮かんだ汗を拭う。


 そのとき。


「…………っ!?」


 背中に嫌な気配を覚え、俺は大きく前へと飛び退いた。まるで、エイティと邂逅する前と同じような――。


「クゥゥゥゥアッ!!」


 ヘンテコな鳴き声が背後から聞こえ、急いで振り返る。

 そこには――恐ろしく奇妙なバケモノがいた。

 不意打ちで左手に握っている剣。

 それを俺にめがけてを振り下ろしたが、空振りに終わったのは――。


「………………スパゲッティのバケモノ?」


 そう見解を述べるのはおそらく俺だけではないだろう。

 目の前のバケモノ――モンスターはまるでナポリタンを毛糸玉のように丸め、そこから同じ麺のような手足を生やしたような風体をしていたのだ。


 ナポリタンと言ったのは、その麺の塊のような体にソーセージやピーマンといった具材さながらの“なにか”が絡みついていたからだ。

 そして全体の色も、ナポリタンスパゲッティの色合いと同じ赤橙。


 俺はその意表をつくモンスターを見て、困惑した。

 こめかみに汗が流れ落ちるとともに、鼻腔をくすぐるナポリタンの旨そうな香り。


 ……って、マジでなんなんだ!! お前は本当にナポリタンスパゲッティのモンスターなのか!!


 心の中で叫ぶと同時に、ナポリタンモンスターは勢いよく剣を振りかざし、俺に斬りかかってくる。

 スピードは今までのモンスターに比べて格段に早い。


「……やっべ」


 間一髪避け、ミーコの位置を探る。

 どうやら木の上に避難していたらしく、無事のようだ。

 安堵の息を吐き、目の前の敵を見据える。


 ()()は剣を持ち、攻撃手段が拳ひとつである俺にとってはかなり不利な相手だ。

 エイティのようにスピードが遅いという弱点はなく、ミーコの《魅了》にかかるかも謎だ。

 今までほぼ動きのない敵ばかりに使っていた《魅了》。

 先の戦闘の考察から、敵と目を合わせることでその真価を発揮できるものなのだろうと予測していた。

 ミーコが使用前に鳴くのは、敵の注意を引きつけて己に視線を向けさせるために違いない。


「……あのスキルがダメなら、やっぱり俺がどうにかするしかないな! ……ミーコ、一応《魅了》をよろしく頼む」


 俺はぎゅっと唇を結び、そばに落ちていた木の棒を手に取る。

 多少、ミーコのスキルがかかったのか、モンスターの動きがぎこちなくなった。

 だがそれでも、先のモンスターたちより動きは格段に上だ。


 斬りかかってきた剣を木の棒で受け止めるが、あっさりと真っ二つにされてしまった。

 俺は武器にもならなくなった木の棒を投げ捨てる。


「初心者用のレベル上げの場所? ……そりゃ、うそだろっ!」

「クゥゥゥアアァッ!」


 ナポリタンモンスターは気味の悪い奇声を上げ、俺に向かって飛びかかる。

 武器を持っている相手と戦うという不利な状況の中、俺は生きるために敵を見据える。


 ぜってえ生きて、勝つ!


 ――二人……いや一人と一匹の戦いが今、幕を開けたのだ!


 ナポリタンのモンスターは右手に持ちかえた剣で大振りに薙ぎ払った。

 俺は反射的にしゃがみこむ。頭上を通り過ぎた剣。


 俺はすかさず硬い麺のような足に力強い蹴りを入れる。するとモンスターはぐらりと体勢を崩した。

 地面に倒れるかと思えば、剣をわざわざ地面に突き刺して堪える。――隙だらけだ。


 俺はその隙に強めのグーパンを腹に決めてやった。


 よしっ! ……にしても、見た目は麺なのに鋼鉄みたいに硬い足と腹だな。

 ……ん? だが……どうして隙を見せてまで倒れないように踏ん張ったんだ? 地面に転がって避け、体勢を整えた方が早く反撃できるはずなのに。

 そのための球体の体なんじゃないのか?


 俺はナポリタンのモンスターの不自然な行動に疑問を覚えた。

 ミーコのスキルで少々のろまになったそいつは、地面に突き刺した剣を抜いた。


 もしかして……地面に体を接触させたくない理由でもあるのか。


 俺はその疑問を解決するまえに、追撃をかけ始める。

 考察は戦闘をこなしながら出来るようにならなければいけないのだ。

 敵の視界(目があるのかはわからないが)を塞ぐため、地面の土をとにかく投げつけ始めた。


「クゥゥゥッアッ!!」


 モンスターは鬱陶しいとばかりに奇声を上げた。

 苛立っている様子の敵は無差別に剣を振りまわす。


 とにかく頭に血が上っている状態で、体についた土を必死になって落とそうとし始めた。

 ……どうやら自慢のナポリタンスパゲッティの体に異物が付着することが嫌なのかもしれない。


 しめた! これは大きなチャンスだ!


 俺はそこに勝機を見出す。


「このっナポリタン野郎! 隙を見せたな」


 俺は近くにあった俺の腕の2倍ほどはある枝を《怪力》で折り、未だ土を落とすことに夢中であるモンスターにめがけて振り下ろした。


「クゥゥゥアッアアアアアアアァ!」


 振り下ろした枝が折れるほどの力。

 モンスターは悲鳴を上げるのと同時に、べチャリと床にスパゲッティをこぼしたように倒れた。


「……勝った……」


 俺はひとり、ポツリと呟いた。

 近くで「みゃあ」とミーコが鳴く声が聞こえた。

クレイジーパスタシリーズのモンスターは、今後も度々登場する予定です。……決して作者がふざけているわけじゃありませんよ?(クレイジーなのは作者の頭だなんて言わないで……)

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