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第12話 初クエストと誘惑に勝てない俺



 金と聞いて気が抜けそうになった俺を見て、おっさんは苦笑いを浮かべていた。


 でも改めて考えてみれば、地球でも資格を得るための試験ではきちんと金を払っていたし、当然といえば当然なのだろう。


「まあ一応、簡単な初心者向けのクエスト……とも言える試験をこなしてもらう必要があるが」

「へえ! 認定試験みたいなもんか」


 ギルド認定のテイマーになるためには、きちんと段取りがあるらしい。


「……どうだ? 今から受けてみるか? この時間からなら昼くらいまでには終わるだろう」

「は、はい。ぜひ、お願いします」

「ちなみに金は先払い。……銀貨1枚だ」


 俺はテイマー認定のための初心者クエストを受けることに決め、銀貨を渡す。


 金はそろそろやばいかもしれない。

 服やバッグ、さらにその他生活用品、宿の宿泊代と今の受験(?)料。

 ドロップアイテムを売った金からそれらを差し引いて残り――5,300ルブだ。


 全財産5,300ルブっていうのは結構厳しいところがある。


「銀貨1枚確かにいただいた。……それじゃあ早速、クエストの説明に入りたいんだが……その前に」

「……?」


 おっさんはごそごそと机の引き出しから資料のファイルのようなものを取り出した。

 それ開くと、中にはカードが2枚入っている。

 1枚は赤いカード、もう1枚は黄色のカード。

 それぞれ中央には黒い蛇の模様が描かれている。


「えっと……これは」

「パーカーさんも一応分かっているとは思うが、クエストの前に説明しなければいかんことになっている」

「……はあ」


 俺はコクリと頷き、おっさんの手元に収まる二枚のカードに視線を移した。


「こっちの赤いほうが【狩猟モンスターカード】、黄色いのが【テイムドモンスターカード】だ。裏の色が違うから、すぐわかるだろう?」

「はい」

「それじゃあパーカーさん。ステータスボードのバインダーを開いて、可視化してくれ」


 俺はおっさんに言われた通りにする。


「パーカーさんは、【狩猟モンスターカード】を持っているか?」

「はい、数枚持ってます……ちょっと待ってくださいね」


 俺はショルダーバッグから、昨日戦ったモンスターたちのカード5枚を取り出した。


「え、お、おお! これはエイティのカードじゃないか! 中々手に入らないし、遭遇率も低いレアモンスターじゃないか」


 エイティのカードを目にしたおっさんは声高に驚く。

 どうやらクリスのいう通り、エイティはかなりのレアだったようだ。


「おっと、失礼した。【終焉の森】を通ってきてセントラルバーンにやってきたってことか?」

「そう……ですね」


 詳しく言えば、連れてきてもらったのだが。


「……パーカーさんはテイマー認定こそされてないが、もしかしてかなりの実力者なんじゃないか? あの森をレアなエイティと出会うくらい長い時間歩いたってことはだろ?」

「違いますよ。たまたま遭遇しただけで、実力なんてさらさら……」


 テイマーとして実力があるかといえば、それはないだろう。ただ、魔物のスキルを持っているということを知られるのは個人的にまずい。

 変に疑われて、拘束、そしてそのまま処刑なんてことになるのは嫌だ。

 それに、そこまではいかないとしても下手に注目されるのは性に合わないし、行動制限をかけられる可能性も否めない。


 ……俺はテイマーになって世界中のモンスターを知りたいし、愛でたいんだ。

 まあ、倒さないといけないことの方が多いのだろうが。


「そうか? ……それじゃあカードは……5枚、4種類だな。これからバインダーにカードを収納する作業を一緒にやろうと思う。パーカーさんのこのカードを収納してもいいか?」

「はい、大丈夫です。……もし、収納するカードが一枚もなかったらどうするんですか?」


 俺はふと疑問に思ったことを尋ねる。


「そういう場合はギルド所有のカードを買い取ってもらっている。銅貨5枚でね」


 おっさんはそう言って、資料ファイルに入っていたスライムが描かれているカードを見せた。


 スライムのカードはギルドで500ルブで売られているんだな。


「じゃあ始めるぞ。まず、このスリープゴートのカード。バインダーの表紙の裏、その中央の窪みに入れてくれ」

「分かりました」


 俺はカードを手に取り、その大きさぴったりの窪みに入れる。


「……おお!」


 その途端、カードは一瞬のうちに消えた。

 そして、その隣のページ――1ページ目の収納ポケットに新しくカードが現れた。


「スリープゴートは……No.6。ページごとに9枚ずつ、ナンバー順に収納される。だから、スリープゴートはこの一番初めのページに登録された」

「すごいですね。一瞬で移動した……」


 俺はそういいながら、登録されたスリープゴートのカードに触れようとする。


「……ん? あれ」

「言っただろ? 取り出せなくなるって」


 おっさんのいう通り、カード触れることは出来るが、掴もうとすればふっ、と消えてしまう。


 一度収納すれば、二度と取り出せなくなるってこういうことか。

 ……一応、覚えておかなきゃな。


「もう1枚スリープゴートのカードあったはずだろ? 今と同じようにやってみろ」

「えっと……こうか」


 同じようにカードを窪みに入れるが、今度はビクとも反応しない。


 カードが一種類1枚ずつしか登録できないというのは、こういうことか。


「これでバインダーへのカード収納の仕方はわかったな。他のカードは自分でやってみろ」

「はい、あの……このスリープゴートみたいにすでに登録済みのカードは……」

「そいつはMonster(モンスター) Card(カード) Shop(ショップ)で売れるから、持っていくといい。一応ギルド二階の買取エリアでも売ることは出来るが、こっちは安いなからな。売るなら断然MCSだ」


 俺は一度モンスターカードが溜まったら、MCSに行こうと決意する。


 持っていた残りの未登録のカードを収納し、俺のカードバインダーには4種類のモンスターが登録されることになった。


「さて、それじゃあクエストの説明に入ろうか」

「お願いします」

「今回のクエストは正直クエストと呼ぶにはおこがましいものだ。――制限時間内に出来る限り多くのモンスターを倒してくる。ただそれだけ」

「制限時間内に出来る限り多く……」


 俺はおっさんの言葉を輪唱する。


 ……あれ? これ、結構悩みどころ多いんじゃないか。

 倒すモンスターの数も決められていないし、色々と不鮮明なクエストだ。


 昨日、クリスに言われたが、あまり多くのモンスターを倒しすぎるのも危険だ。

 俺は細々とテイマー稼業に打ち込んでいきたいからな。


 けれど、おっさんはそんな俺の考えを見抜いたが如く、口元に怪しげな笑みを浮かべた。


「力抜こうなんてこと、考えるんじゃないぞ。パーカーさんの実力がどうなのかは分からないが、手を抜いたかそうでないかくらいはクエスト終了後会ったらすぐわかる。こう見えて、俺はこの仕事を15年やっているからな」

「ぎくり」

「……お前さん、いまどき口に出して『ぎくり』とかいう奴なんて見たことないぞ。……まあいい。簡単な話だ。――全力で挑め」


 おっさんは鋭く挑戦的な笑みを浮かべ、俺を見た。

 俺はぎこちない笑みを返す。


 ……全力で挑む、ね。

 何もわからない俺に仕事とはいえかなり親切に教えてくれたおっさん。

 その恩に報いるためにも、さすがに手を抜くわけにはいかないだろう。


「ええと、分かりました。俺、頑張ります」

「おう、期待してるぜ」


 おっさんは白い歯を見せてニコリと笑った。


 どうやらお世辞だとしても、一応期待されている(?)ようだし全力を出しきらなきゃな!


 俺はそう思ったところで、ふと昨日から不思議に思っていたことを口にする。


「テイムドモンスターのご飯って人のものじゃダメなんですよね? 俺の分を分けようとしても、いらないって拒否するし。でも、ご飯食べなくても元気そうで」


 俺は戸惑っていたのだ。

 昨日の晩も取っておいた飯の一部を与えようとしたが、いらないと断固拒否された。

 そのわりに元気そうで、もしかしてモンスターはご飯を食べないのかもしれないと考えていたところだったのだ。


 不安だったから、モンスター病院(あるかは分からないが)にでも連れていった方がいいのか悩んでいた。


 ラノベ如く、空気中に漂う魔素を食べている! ……みたいな可能性もないわけではないが。


「ああ、モンスターに飯を与える必要はないよ。テイムドたちはカード化することである程度自分でエネルギーを作り出せる。戦闘して他のモンスターを倒せば、より多くのエネルギーを生み出せるという寸法だ」


 なるほど、自家発電か。

 省エネだな。

 食べてエネルギーを生み出す人と、体の作りは全く異なるわけだ。


 おっさんの参考になる話に相槌をうった。


「それじゃあ、そろそろクエストやるか」

「は、はい!」


 柄にもなく緊張してきた俺は、精一杯力を込めて返事をする。


「これを渡しておく」

「……? これは?」

「――移動石。制限付きのな」


 おっさんは直径5センチほどの黒くて丸い石を俺の掌の上にのせた。


 移動石? ……聞いたことがない名前だな。


 状況が飲み込めない俺は、駐車場に落ちてる石と差異はないように思えるそれをじっくりと観察する。


「なくすんじゃねえぞ。なくせば罰金、金貨一枚だからな」

「き、金貨一枚!?」

「識別ナンバーも分かってるし、持ち逃げしようものなら獣士隊に追い回されるのがオチだからな。10,000ルブを持ち逃げして犯罪者になるのもアレだろうし」


 俺は困惑した面持ちで、おっさんに目を向ける。


「この石でフート草原まで一瞬で転移し、一時間したら勝手にこの場に戻ってくる。それまで、思う存分に戦ってくれ」

「す、すごい石だ……い、いや! 盗みませんよ」

「分かっている。その石は位置情報も読み取れるようになってるしな。それよりも落とすなよ」


 なるほど……GPS付きなのか。


「それじゃあ、テイムドのカードは……手に持ったな」

「はい」

「一応全員に(おこな)っているのだが、この認定クエスト。10匹倒せばそこそこの実力者だ。そして狩猟数20匹を超えたやつは皆素晴らしいテイマーになっている。近頃、野生のモンスターも増えていることだし、大台の30匹を目指してくれ」


 おっさんは実に楽しげな様子で笑っている。


 30匹か。

 制限時間が一時間だとすれば、2分で1匹倒すペースだな。


 不可能ではなさそうだが、結構キツイかもしれない。……獲物を探し回らなければいけないという意味で。


 一応努力はするが、そこまで頑張る必要はないかななどと考えていた俺。



 そこに、特大の爆弾が落とされることとなる。



「――いい記録だせたら、MCSに()()()【たまごカード】回してもらえるよう口利いてやるから」

「……っ!?」

「一応これでも長年ギルド関連の仕事やっているからツテはあるんでな。……レアなモンスター、欲しいだろ?」


 レア……。

 俺は唾を飲み込み、唇を噛みしめた。


 育てたい。

 レアなモンスター……滅多に会えないような希少生物……是非ともこの手で育ててみたい。


「頑張ります!!」

「お、おう……そ、そこまで気合い入るのか。さっきとは大違いだな」


 まんまとおっさんの口車に乗せられてしまった自覚はあったが、()()の誘惑に勝つことなんて不可能だ!


「そ、それじゃあ――移動石を握りしめろ」


 俺は黒い石を握りしめる。


「初クエスト頑張れよ。――応援してるぜ」


 おっさんの言葉を皮切りに、石は強く発光しだす。


 そして光はそのまま俺の体を包み込み、視界は白く閉ざされた――。


やる気になったパーカーさん!

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