第11話 モンスターカード収集とは
俺は受付のおっさんの顔を見ながら尋ねる。
「すごく気になってたんですけど、この一つ目の『意図して譲渡する』っていうのは……」
「ああ。それはほとんどの場合、MCSに適応される規則といっても過言じゃない」
「やっぱり」
俺が頷くと、おっさんは青々とした顎をさすりながら開口する。
「疑問はいくつか湧いているかもしれないが、まずお前さんには『どうしてテイマーにとってカードが大切なのか』という説明をするべきやもしれんな」
「……?」
どうしてカードが必要なのか、か。
俺にとってこの異世界に来てからの最大の謎は『どうしてモンスターがカード化するのか』ってことなんだが。
だっておかしいだろう! 人間と同じように生きているのに、たった一枚の紙にも変身出来てしまうだなんて!
だが、それはひとまず置いておくことにした。
この質問自体、世界の根幹を揺らがせる話題のような気がしたから――。
「えっと、どうしてテイマーにとってカードが必要なんですか?」
「そりゃあ簡単だ。……テイマーはこのカードで【バインダー】を埋めるために冒険するんだからな」
そう言っておっさんは俺の識別ナンバーなどを聞いた際に触っていた機械を弄り始める。
そしてようやく終わったかと思うと、俺に言った。
「パーカーくん。ステータスボードを開けてみてはくれないか」
「あ、はい」
俺は心の中で「ステータスボード、オープン」と唱える。
すると眼前にはこの世界に来てから見慣れた透明な板が現れた。
「開けました、けど」
「ボードの右斜め上に、書物のマークがないか? ……それに触れてみてくれ」
「こうですかね」
触れた途端ステータスボードが左にずれ、正面には何かを収納するためのバインダーが現れた。
大きさはA4サイズで、地球でよく慣れ親しんだ形だ。
「これが、テイマー登録された人に与えられるモンスターカードのバインダーだよ」
俺は目を見開き魔法のような、ゲームのようなその光景を目に映す。
バインダーの表紙はスタイリッシュ感溢れる黒で、蛇のようなモンスターの文様が描かれていた。
あ、これ既視感あると思ったらカードの裏にも書かれているやつだ。
「それじゃあ、バインダーをめくってみてくれ。……ちなみに、そのバインダーは人に見せようという意志さえあれば実体化する。けれど、それ以外の場合は人から見えないからな」
「そうなんですか。それじゃあ……見えろ〜見えろ〜…………おっ! 出来た、か?」
「おう、見えるようになったぞ」
おっさんの言葉に安堵し、俺はバインダーの表紙をめくった。
「1ページ目。表紙の裏の中央に、カードと同じサイズの窪みが出来ているだろ?」
「はい」
「ここに、新たに見つけた【狩猟モンスターカード】を当てるんだ」
「えっと、新たに?」
俺は首をかしげる。
見つけたカードを片っ端から入れていくのは、いけないことなのだろうかという疑問が浮かんだからだ。
「そう。それが、このバインダーの一番重大なこと。このバインダーはな、獲得した【ナンバーズモンスター】はそれぞれ一枚しか収納できないんだ」
「一枚しか……それは、ダブってはいけないということですか?」
「ああ。まずこのバインダーは【ナンバーズモンスターカード】を全て集めるということを前提として作られているんだ」
……ん、ということはナンバーズモンスターを全て倒してカードにし、バインダーに集まれば俺の勝ちってことか?
頷きながら、おっさんに目を向ける。
「ナンバーズモンスターは現在のところ全138種類が発見、登録されている。パーカーさんはその全てのモンスターと出会って、倒して、カード収集をする……というのが当分の目標とも言えるか」
「138種……」
この世界には最低でも138種類はモンスターがいるらしい。
そのモンスターたちとこれから出会う。
そう考えると生き物大好きな俺の胸に、言いようもない高揚感が生まれた。
冒険か……今更だけど実感湧いてきたぞ。なんかワクワクするな!
「だが忘れちゃあいけねえ! ユニークモンスターの存在を」
「ユニークモンスター?」
俺はおっさんの言葉を繰り返した。
「まず、【狩猟モンスターカード】ってのは3種類に分けられるんだ。一番メジャーな【ナンバーズ】、特殊な環境に身を置き生体変化した【ユニーク】、そして現在この世界で11種類しか確認されていない【ボスモンスター】だ」
「ユニークとボス……」
「ユニークモンスターっていうのは、ある意味テイムドモンスターに一番近い存在だ」
俺は眉をひそめ、おっさんに対して大きく頷く。
「ユニークモンスターには種族名がない。だから、バインダーに登録をどんどんしていけ」
「え……? 逆じゃないんですか? 種族がないなら、登録できないんじゃ……」
「それが違うんだな。逆を言うと、ユニークモンスターは新しいナンバーズモンスターになる可能性を秘めている。ナンバーズモンスターも、元を辿ればみなユニークモンスターだったんだ。それが増殖した結果がナンバーズ……ということになる。結果、ユニークモンスターは新たな139種類目となる可能性のあるモンスターとしてバインダーには認識されるわけだ」
俺はそうなのかと納得し、詰め込まれた情報を整理しようと深呼吸した。
つまり、ユニークモンスターはどんどんバインダーに収納してけって話だな!
「だがここで注意点! ……バインダーに収納したモンスターはな、二度と取り出すことはできねえんだ!」
「……え? それじゃあ、ミーコをバインダーに入れてしまったら二度と会えないってことですか!?」
俺はこれまでで一番重大な情報に、思わず前のめりになりながらおっさんに迫る。
「いや……まて。そんなに近づくな! 暑苦しい。…………ごほん。それはない、ありえないことだ」
「どうして?」
「【育成モンスターカード】はバインダーに収納出来ないからだ」
「……え? ……あ……」
俺はようやく気がついた。
たしかにテイムドのカードを収納出来てしまえば、際限なく収納できるカードの種類を増やせてしまう。
育てて収納して、また育てて収納して――だなんて、非人道的すぎる。
「あとは、ボスモンスター。こいつは今のお前が知る必要はない。まず、出会うこともないからな」
「……え?」
「出会っても、バインダーに収納する以前にお前は殺されるだろう。きちんと対策を立てて挑むか、はたまた死んでも死なないような上級テイマーになれば話は違うが」
……つまり、ボスモンスターというのは今の俺には関係ないということか。
気になるっちゃ気になるが、まだまだひよっこの俺が関わることもないだろう。……これ、フラグじゃないからな!
さて、そんなこんなでおっさんのいうことを整理すれば、収納できるのはナンバーズモンスターとユニークモンスターだけだということだ。
「えっと、大体は分かりました」
「おお、あと一つ。これは皆知っているだろうが、10種類登録ごとにスキルが天から与えられるからな。モンスターはレベルが10上がるごとにスキルが増えるが」
…………。
スキルが……与えられる? それも天から……。
「…………ん? え、えぇ!? そうなんですか!」
「……あ? あ、ああ。パーカーさんは知らんかったんだな。言っといてよかったよ」
天から与えられるってなんだよ!
一体どんな仕組みだよ!
バインダーのなかにモンスター登録したらって!
盛大なツッコミを入れたかったが、残念なことにここはギルド内部なのだ。
変人極まりないという目で見られても困るので、ぐっとここは抑える。
「お、教えてくださってありがとうございます」
「いやいや、大したことはない」
おっさんはそう言って首を横に振った。
「さて、ここまでのモンスターカード関連についての質問はあるか?」
正直、ここまでの説明でかなり頭が混乱している。
のちのち疑問や質問したいことなど浮かぶかもしれないが、今は特にない……と思う。
俺のいうことだから、当てにはならないだろうが。
……カードの破壊ができないとか、他人が触れることのできない仕組みとか、意味不明だけどな。
おそらく、システム的なものなので体験した方が早いのかも。
「じゃあ、今からはテイマーのランクについての話にうつるな」
「はい」
「テイマーには無級からS級までのランクがある。無級っていうのは、今のお前の状態な」
無級……なんか最高に最低だな。
「無級の次はG級だ。級を獲得するために、まずテイマー認定を受けなければいけない」
「認定? 登録とは違うんですか?」
「ああ。登録っていうのは、ギルドで誰でも出来る。だが、認定を得るためにはそれ相応の対価が必要になる」
対価……とは。
ごくりと俺は唾を飲んだ。
なにか、大変な事態に足を突っ込まなければならないかもしれない。
俺はおっさんを覚悟して見据えた。
「すばり…………金だ」
…………。
か、ね?
金金金……金か!
ずるっと倒れそうになるが、堪える。
「えっと、ちなみにおいくらくらい?」
「銀貨1枚。ちなみに登録費用込み」
「や、やっす!?」
銀貨一枚1,000ルブ。
なんと、宿屋一泊よりも安かった。
【狩猟モンスターカード】
・ナンバーズモンスターカード(レア低)
・ユニークモンスターカード(レア中)
・ボスモンスターカード(レア高)
【育成モンスターカード】
・テイムドモンスターカード
・たまごカード etc...
という感じになります。矛盾など気づかない点も多いので、気になった点がありましたらご指摘くだされば嬉しいです!