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1日目・伝令

 あるある世界観であるあるな話を書きます。

 絶対エタる(確信)


「たたたたたたた大変ですボス!」


 阿呆が一人、俺のモーニングティーを邪魔しに来やがった。

「どうしたジョン。」


 部下は冷や汗ダラダラ顔面蒼白に肩で息をする。


「ボス、『奴』が、いえ『奴ら』がこちらに向かっているとの伝令が!!」


 とうとう来たか。俺はその言葉に眉間を揉みつつ立ち上がる。どうやら朝の優雅な一時はお預けのようだ。


「人数は変わりないか?」

「約一名エルフが増加!」

「女か?」

「女です!相変わらずのハーレム○ァッキン野郎です!」


 男の僻みほど醜いものはない。冷やかな視線と共に質問を続けた。


「状態は?」

「至って良好!例の馬無し車に乗っております!」


 今日の温度と湿度を確認。ふむ。この陽気ならカント葉のアイスティーがいいだろう。


「ジョン。皆に伝えろ。『ネールトールは落ちた』と。」

「正気ですかボス!?奴は規格外とはいえ冒険者。そんな扱いをするなど……。」

「ダーダリアンの名が廃る、か?」


 俺は鼻で笑った。


「おいおい俺をあんまりがっかりさせてくれるなよ?『ここをどこだと』思ってる?そして『奴を誰だと』思ってる?」


 心底理解できない、という顔をする目の前のふがいない男。全くこれでは先が知れている。どこで教育を間違えたのだろうか?だが今説明している暇はない。宿題だ、とだけ告げて目の前の便箋にペンを走らせ、そのままそれを伝令魔にチップと共に託す。


「おいどうした。もう『戦争は始まっている』んだぞ。」


 そのまま突っ立っていた部下を焚き付け、俺はパイプに火をつけ、青空を睨んだ。そう、今日は恐らく俺の一世一代の大戦になることだろう。


「待っていろ『神の落とし子』ヤマダ・タカシ。このライア・ダーダリアンの名にかけて、貴様にマイトラスの羽を見せてやる。」


 異世界から来たりし彼の者は、その強大な力と群を抜いた発想力で巨万の富と名声を得た。そんな全てを手中に納める彼に一体、自分はどこまで通用するのだろうか。

 ああ。考えるだけで震えが止まらない。こんな気分になるなんて久々だ。自然に恍惚とした笑みが浮かんでくるのが分かる。


「さあ来いタカシよ。『全てを与える者』よ。俺が貴様の温い人生を変えてやる。刺激を与えてやる。お前に生きる価値をくれてやろう!」


 ここは『娯楽都市』ダーダリアン。来た者全てが熱狂の渦に飲まれる場所。極上のサービスとアミューズメントを以て俺はかつてない最強の敵……未知の高度に発達した文明より来た人間を完膚なきまでにもてなし潰してやるのだ。


「く、くくく。くわはははははははははは!」


 こんなに楽しみなのは初めてだった。ああ、やはり人生は最大の娯楽だ。



  ・・・・・・・・



 夕焼けが綺麗だ。


「ボス。」

「なんだジョン。」


 長い長い沈黙の末、部下が口を開いた。


「あいつ、来ませんね。」


 俺は答えた。


「来ないな。」


 静寂。ゆっくりと空は赤みを失ってゆく。一番星が見えた。綺麗だ。


「ボス。」

「なんだジョン。」


 また愚図が話しかけてきた。


「なんでですかね。」


 俺は答えた。


「なんでだろうな。」


 無音。星明かりにつられるが如く、徐々に街の灯もともってゆく。やはり綺麗だ。当たり前だ。ここは観光都市ダーダリアン。第三次産業の街ダーダリアン。景観にも気を配っている。うむ。今日も我が子は美しい。


 終業のベルが鳴った。


「ボス。」

「なんだジョン。」


 後ろに控えていた彼は言う。


「終業ですよ。」


 俺は何も答えなかった。ぎぃー。椅子の軋んだやけにうるさい音が代わりに鳴った。これはあんまり美しくない。買い換え時だろうか。


「奴が来るまで残業しますか?」


 ぎぃー。


「ボス?」


 ぎぃー。


「起きてますか?」


 ぎぃー。


「万年独身くそ野郎?」

「それはお前だ。」


 ちゃんと返事してくださいよ。なんて悪びれもしない億年慢心カス野郎に告げる。


「今日はもう終わりだ。取り寄せた茶菓子はお前らで分けて食っとけ。」


 返事も待たずに外へ出た。何故だかずっと視界が悪かったが、ぼやけていても街の夜景はやはり素晴らしかった。道すがら色々な人に心配されたが、決して奴が来なかったから泣いていたわけではない。我が子の成長ぶりに感涙を流していただけである。

 うむ。つまらん。

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