第5章――王女と試練と――
――第5章――
「王女と試練と」
通された大広間には、またも人の波だった。
ただし今度は雰囲気が違う。
街中の和気あいあいとした感じではなく、空気はひりついていた。
当然だ、これから冒険者の資格を取るために集まった、戦人達がここに集っているのだ。
「すごい……ですね」
メイは相変わらず空気に飲まれている。
扉が開いた瞬間、皆がこっちを向いて、一瞬見たかと思うとすぐに視線をぷいと戻し、また張り詰めた空気になってしまった。
本当に、大丈夫なのか?
俺は急に不安になって来たが、ここまで来たらもう何も変わらない。俺はやれる事をやるだけだ。
と、自分に言い聞かせると壇上に一人の人間が現れた。
「今から王女様がお見えになる。皆の者、粗相のないよう静寂にされよ!!」
張り詰めた空間にその声は響いた。
王女? 王女と言ったか、確か。
この国を治めていたのは王女だったのか……と自問自答していると白いドレスをふわりと遊ばせた、王女が現れた。
その顔立ちは遠くからでもはっきりわかるほど綺麗で、整っていた。
一瞬のざわめきの後に、王女が玉座に座り語り出した。
「今、世は乱れております」
「その中でこの混沌を救い出す冒険者を、我は今求めております」
淡々と言葉が連ねられる。
その中で俺は一つの言葉に反応した。
「我はまず聞いております……この中に勇者は、光さす勇者を志望する者はおるか、と」
勇者、と聞いて一瞬場がまたざわついた。
静粛に、と大臣らしき人物が場を収めようとする。
そして王女は再び問いただした。
「我こそは、という勇者はおるか? おらぬのか?」
その言葉が消え、王女が諦めかけたであろう瞬間、俺は玉座に向かい走り出していた。
人混みを掻き分け、俺は、俺は……叫んだ。
――スラッシュ・ウィル! 勇者になる男です!――
場が、また……ざわついた。
中には嘲笑う声も混ざっているようだった。
が、俺は何も気にしない。
王女は再び問う。
「……勇者志望者、か」
くすり、と王女は笑う。
「我は名など覚えぬ、その身、その命、我が預かる」
一瞬、何を言っているのかが分からなかった。
しかし大臣に何か耳打ちすると、すぐに大臣から言葉が発せられた。
「スラッシュとやら、その者本当に勇者になる覚悟はあるか?」
「……はい」
「例えそれが命に関わる試練であっても、か?」
「はいっ!」
一度は消えそうになった命だ。今更惜しくなどない。
「うむ……その覚悟しかと聞いた。ならばコロシアムへと赴くが良い。そこで試練を与える」
コロシアムは城の裏にある闘技場の事だと説明を受ける。
俺たちは早速向かうと、係りの者がもう俺たちを待ち構えていた。
門を通され俺たちは……コロシアムの中央、いわゆる闘技場に立っていた。
空が開けいつのまにか観衆が俺たちを囲み、騒ぎが始まっていた。
「あれが今回の勇者候補だとよ!」
「大丈夫なのか!?」
そんな声も聞こえた中、先ほどの大臣が闘技場の中央に現れる。
「勇者候補よ、今から汝に試練を与える。突破できた場合は勇者の肩書きと恩恵を授ける。ただし……」
「敗北は即ち死を意味する!」
なに……?
「死……だと?」
「そうだ、命の保証などせぬ。汝はもう既に戦場にいるのだ。覚悟を決めて挑むが良い」
「ち、ちょっとま――」
「試練! 開始!」
その声と共に奥から出て来たのは……大型のライオンモンスターだった。
そして背中からは蛇の頭が生えている。
「こ、こいつは……」
「ウィルさん、これはキメラです!」
「キメラ……?」
「魔導によって人工的に作られたモンスターです! 物理も魔法も秀でてないと……ダメージが通りません!」
キメラの咆哮に負けないように、メイが俺に語りかけてくる。
俺は剣を構えた。
デカイ……つい先日戦ったベアーなんかとは比べ物にならないくらいの大きさだ。
だが、震えながらも俺は自然と落ち着いていた。
死の恐怖は一度乗り越えた。
それは自分が一番よく知っている。
だからこうして剣を構え向かっていく事が出来る。
俺の足は自然とモンスターに向かい走り出していた。
「っ! 待って! 防御魔法を――!」
メイの言葉も聞かず、俺はキメラに正面から切り掛かっていた。
「うおおおおっ! ざんっげきっ!!」
「くっ……プロテクト!」
切りかかると同時に俺の身体は光に包まれる。
暖かい光だ、いける!
と思った刹那……身体に鋭い痛みが走った。
ライオンの爪が俺の脇腹をかすめていた。
出血……痛み、俺の身体は吹き飛ばされ、闘技場の壁に突き飛ばされた。
「ウィルさん!」
「ぐっ……ううっ……」
気付くと俺を包んでいた光は消え、俺は無防備な状態になっていた。
キメラの目はメイの方に向いていた。
――まずい――
メイと吹き飛ばされた俺との間には距離がありすぎる。
キメラはメイに向かって走り出す。
それと同時に俺も走り出した……が、痛みでうまく足が動かない。
「ぐっ、くそっ……! メイっ!」
「プロテクト……フィールド!」
魔法陣がメイとキメラを包む。
キメラが一瞬怯んだかと思うと、メイの身体が光に覆われているのが見えた。
その瞬間を見逃さず、メイは俺に杖を向ける。
「ヒール!」
俺の身体もまた光に包まれ、傷の痛みがだいぶ引いたのがわかった。
これなら動ける……!
俺はキメラに向かい、今度は背後から斬りつける形になった。
目標は蛇頭だ、見ると奴の頭が邪悪な光を放ちながらメイのバリアを侵食しているのが見えた。
蛇頭を撃てばライオンへの強化も止まる……!
そう思い俺は蛇頭に飛びかかっていた!
「うおおおっ! ざんっ!」
キィン、と鋭い音がする。
が、手応えはない……俺は蛇頭に攻撃が弾かれた事を理解するまで少しの時間をようした。
「キメラに普通の攻撃は効きませんっ! 魔法を……魔法剣を!」
メイがそう叫ぶが、俺の身体は再び吹き飛ばされ、また間合いが開いてしまう。
そして、次のライオンの一撃でメイを覆っていたバリアにヒビが入り出した。
「きゃあっ!」
次の瞬間メイは吹き飛ばされ、壁に激突する。
「メイ!」
メイは気絶でもしたのか、ピクリとも動かなくなっていた。
そしてキメラが目を向けたのは……メイの方だった。
鋭い爪を振り上げ、その爪はメイの頭を狙っている。
――メイが、死ぬ――
そう思った瞬間だった。
俺の身体から光が発せられ、そして……そして……。
気付くと俺はキメラの爪を剣で受け止めていた……。




