第4章――王都――
――第4章――
「王都」
「うわぁ……すごい人」
メイは思わず声を上げている。
街を行き交う、人、人、人。
あっちを向いてもこっちを向いてもどこも人だらけだ。
これが王都か……確かに、すごい人だ。
これだけ人が集まれば商売も盛ん、冒険者達にとっても情報や物資の補給も行き届く……すごいもんだ。
「ねえウィルさん、早速ですが装備を整えませんか?」
若干、俺も人の波に飲まれそうな所でメイが声をかけてきて我に帰る。
「あ、ああ、そう、だな」
少し歯切れの悪い返事が出るのは、やはり冒険者の資格試験前への緊張からだろうか?
さっきから心臓が鳴りっぱなしだ。
まだ城にも着いてないのにこんなんで……大丈夫なのか?
俺が本当に勇者になれるのだろうか?
――勇者になる男さ――
あの時は自然と言葉が出てしまった。
モンスターとの戦闘で興奮状態だったのかもしれない。
だが、いざ試験が近づくにつれて自分はただ緊張だけをしている。
「ウィル……さん?」
不安になったのかもう一回メイが自分の名前を呼んだ。
「……大丈夫だ。装備だったな、マーケットの方を見て回ろうか」
「はいっ!」
俺たちは人混みに消えないよう、慎重に歩いて行く。
メイと初めて会ったあの日から三日かけてようやく王都までたどり着いた。
その間、俺はある事をメイに教わっていた。
それは……。
「回復魔法……ですか?」
夜の草原で、メイは俺に聞き返して来た。
「そうだ、ぜひ魔導師であるメイに頼みたい」
「いいですけど……」
そこでメイは口ごもった。
魔法を使うという事が、簡単でないというのは自分でも分かっている。
ただ、これは勇者になるためにどうしても必要な事なのだ。
そもそも勇者とは何でも自分一人で出来る存在である……本来は自分の欠点、例えば戦士の冒険者なら魔法が使えない分、高名な魔導師をパートナーに選んだり、といった形である。
しかし勇者と名乗るからには攻撃、回復、攻撃魔法と一人でこなせるほどのスキルがなければ国から勇者としての冒険者の肩書きは貰えない。
つまり、現状俺が勇者を名乗るにはスキルが足りなすぎるのだ。それは自分がよくわかっていた。
だからこそ、今こうして知り合ったばかりのメイに回復魔法を教わろうとしているのだ。
「いいですけど……ウィルさんの場合は攻撃魔法を覚えた方がいいと思いますよ?」
「どうして?」
返ってきたのは意外な回答だった。
「えと……勇者の条件というのは大体ウィルさんも知ってますよね?」
それはさっき言った通りだ。俺はそれをメイに説明した。
「……その通りです、が、最悪回復魔法は私の方でサポートがききます。なので、一番パートナー間で足りないのが……」
「攻撃魔法、ということか」
「そうです。ですからそこを補えば勇者の条件を満たしやすく、試験にも合格しやすいんじゃないかと……ウィルさん、攻撃魔法は使えますか?」
「過去に、近所のじいさんに一度だけ教わった事があったな、そう言えば」
俺は故郷の事を少し思い出してしまった、が感傷に浸ってる暇はなかった。
今はじいさんの言葉を思い出すことにした。
「攻撃魔法で大事なのは、感情をそのまま魔法に変換すること、と聞いたな……」
「はい、敵を倒すという強い意志があれば魔法は自ずと答えてくれます、センスの問題もありますが、その時は戦士として応募をしても……」
と言ってメイはハッとしたように訂正した。
「……いえ、ウィルさんは勇者になるんでしたよね。どんな事があったかわかりませんが、あの言葉はとても印象に残ってますよ」
と、ニコッと笑ってみせた。
俺も釣られて笑顔を出した。
「とにかく、王都まであと数日だ。やれる事をしていくしかない……か」
俺は草原の中で一人立ち、頭の中で炎をイメージしてみた。
「……燃え上がれ、紅蓮の炎!」
……。
言葉は虚しく響き、夜の草原を風が駆け抜けただけだった。
じいさんが言っていた通り、「言葉にするとイメージが出来て魔法が出る」というのを実践しただけなんだがな。
「まだ時間もありますから、大丈夫ですよ、ゆっくり頑張りましょう?」
慰めのつもりか、メイは俺に優しい言葉をかけてくれる。
時間もあまりないのだがな、と反論したかったがこればかりは気持ちを踏みにじりそうなのでやめておいた。
俺は再び炎をイメージして剣を見つめた。
そんな事を三日繰り返したが炎は全く出なかった。
それがここ数日の出来事だった――。
――王城――
「ここが……」
「来ちゃいました、ね」
装備を整え、城の前に俺たちはいた。
そびえ立つ城……その迫力に圧倒されてる俺たちを門番が怪訝そうな顔で見つめている。
冒険者の資格を取りに来た、と告げてから数分経っている。
まだ城に入らない俺たちを怪しく見ているのだろう。
「と、とにかく行きましょうか」
とメイは俺に促す。
「ああ……よしっ!」
気合いを入れて、俺は城門をくぐる。
その時俺はまだ知らなかった。
俺の運命を変える……そんな出来事が待っているという事が……。




