表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「俺は勇者になんて就活しねえ!」  作者: 千早――ちはや――
――序章――
4/9

第3章

――第3章――

「出逢い」


「……またあの夢か」

ふと、俺は目を覚ます。

だだ広い草原の真ん中で、俺はいつの間にか眠っていたらしい。

見るのはあの日の夢ばかりだ。

俺があの襲撃事件にあってから、まだ二週間程度しか経っていないが寝る時はいつも同じ夢を見る。

今でも覚えている、あの光……優しい背中と俺を旅に連れ出したあの言葉。


「俺の物語……か」

旅を始めて二週間、俺は正式な「冒険者」になるために王都を目指して歩いていた。

そこで冒険者になれば俺もいつかはあの白髪の魔導師に辿り着ける、そしてあの二人みたいに……。


……。

そこまで考えると思考が停止してしまう。

俺なんかが本当になれるんだろうか。

そもそも自分には父から習った剣術しか取り柄がない。

しかも、年を追うごとに鍛錬の機会は減り、意識も低くなっていた時期だ。

俺が世界を救う冒険者になれるのか、そう考えながら歩いていた二週間だった。

まあ、なるようになるか……と今までの自分なら風に身を任せていただろう。

だが、今は違う。

俺には以前と違うもの……自信があった。

絶対になってやる……!


そう何度も自分に言い聞かせここまで歩いてきたのだ。

王都まではあと数日歩けば着く、そこで俺は……俺は、冒険者になるんだ!


決意を改めて固めた瞬間だった。

遠くから、叫び声のようなものが聞こえた気がした。

俺は嫌な予感がしてその方向に走り出していた。

理由なんて関係ない、これは俺の勘だった。

何もないならそれでいい、だがもしなにかあったら、黙って見過ごせはしない。


――俺の予感は的中した。

いつの間にか森に入っていた俺はそこでモンスターと……一人の少女らしき影を見つけた。

少女の周りには眩い光が照らされている、それは少女を守るように覆っているが、その光はあまりにも小さく脆いような印象を受けた。

事実、ベアータイプの中型モンスターの爪がその光に刺さる度に光は大きく揺れ今にも割れそうである。

少女は必死に耐えているようだが、余裕がなさそうだった。

俺は一気にベアータイプのモンスターに近づき、無我夢中で空中からの一撃を繰り出した。

「斬撃!はあっ!」


ザクリと、背中から奇襲を仕掛けた剣がベアーの背中を切り裂いた。

「少し浅いか……おい、大丈夫か!」

攻撃を終えると同時に、手応えの確認と少女の無事を探る。

「――は、はいっ」

若干の間の後、少女は返事をした。どうやら無事のようだった。

俺はそれを確認すると再びベアーに顔を向ける。

目の前にいるモンスターは斬られた興奮からか、鼻息を荒くしこちらを見据えている。

俺は、モンスターを睨み返し、次の瞬間走り出していた。

次は――獲る!


踏み込むと同時に、ベアーの爪が俺の脇腹を引き裂こうと伸びてくる。

攻撃の間合いなんて考えていない、ただ突っ込んでもう一撃で終わらせる……!

その瞬間、背後から光が輝いたと思うと……!


「プロテクト!」


俺の身体は光に包まれ、同時にベアーの爪を弾き返した。

「今です!」

「うおおおおっ!斬撃!」


ザンッ、と。

ベアーの心臓辺りを剣が鋭く走る。

踏み込めるだけは踏み込んだ。

ベアーはよろめき、そのまま倒れていった。

やった、のか……。


正直、心臓はバクバクしっぱなしだった。

ベアーはそのまま起き上がることもなく、しばらく痙攣したかと思うとピクリとも動かなくなった。

「やっ……た……」

背後から、気の抜けた声が聞こえる。

目をやると、赤いドレスのような魔導衣装を纏った少女がそこに立っていた。

「大丈夫……なのか?」

思わず反射的に口が出る。

「はい……どなたかは知りませんがありがとうございます」

少女はペコリと頭を下げた。

「礼なんていいさ……ただ、その、危なかったな」

すらっと伸びた黒髪に赤い魔導衣装、その華奢な身体でよく耐えられたな、と思った。

「本当にありがとうございます、あの、私一人で旅をしているんです……あなたも、ですか?」

「ああ、王都を目指しているんだ。その途中叫び声が聞こえたから駆けつけたら……これさ」

俺は冗談ぽく笑いながら言ってみた。

「そう、だったんですね。実は私も王都を目指しているんです……その、パートナーの方もまだいないものでして……」

パートナー、とは冒険者の相方の事だ。

基本旅は一人ではなくパートナーとするように推奨されている。

聞いた話だが、王都などの大きい都市ではパートナー報酬などが出るとか出ないとか。

「……」

「……」


お互い、そこで黙ってしまう。

沈黙を破ったのは少女の方だった。

「あ、あの、さっきの攻撃凄かったです。一撃でベアーを倒せるなんて、すごいですね」

「正確には二撃だけどな……でも、君の魔法、あれがなかったら俺は腹を切り裂かれてたよきっと」

「だって……守らないとって思って。そしたら、いつにも増して力が出たのを感じて……その……」

そこまで言うと少女はまた黙ってしまったが、その沈黙はわずかの間だった。


「あ、あの! もしよかったら、私と……パートナー組みませんか?」

えっ。

唐突な誘いだった。

パートナーと言うからには、冒険者の一生の友みたいなものだ。

それを今さっき助けただけの自分でいいのだろうか? と驚きながらも疑問に思った。

「……俺でいいのか?」

「は、はいっ。あなたがいなかったら私は多分死んでいました、それを助けてくれて、王都まで行くならパートナーになりたいと思って……」

利害の一致、か。

と皮肉交じりに考えてしまう自分がどこか嫌だった。

「……まだお互いの事も知らないしな」

あっ、とした表情で少女はまた話し出した。

「私は……メイ。メイ・アマデウスって言います、お願いします」

もうパートナーのつもりなのか、彼女は名前を俺に伝えてきた。

「あの、あなたのお名前は……?」

俺は質問に対して答えず、先ほどの光の暖かさを思い出していた。

白髪の魔導師から救ってくれたあの光、あれに似ていた暖かさだった。


なんだ、深く考える必要はなかったじゃないか。

心が暖かくなったあの瞬間を大事にすればそれでいい……自然と俺の口はこう答えていた。


――俺の名はスラッシュ・ウィル――


――勇者になる男さ――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ