白浜町考古学部ニ
H県N市白浜町、そこは三つの地区に分かれていた。青波台、水鳥橋、赤城谷、そこにある三つの中学校の考古学部は時々協力していた。
夏休み、卓は予定表を眺めて考え事をしていた。
「確か、去年は赤城の見学に行ったよね?」
「うん、今年はどうしよう…」
今年入って来たばかりの生田弘信は戸惑った様子だった。
「大丈夫なんですか…」
「それは、なんとかする!」
優月はそう言った時、教室の扉が開いて中から顧問である楓が現れた。
「立川先生!」
楓は社会教師で、特に歴史に関しては詳しかった。
「あの、行き先まだ決まってないのですが、どうすれば良いですか?」
すると楓はある本を取り出した。
「これって、志手山じゃない?」
それは、卓達が何度も訪れた事がある場所の写真が載っていた。
「二人は死出山怪奇少年探偵団だったから、知ってるよね?」
卓達は頷いた。
「実はね、ここには私が社会教師になったきっかけになった場所があるんだ。」
「それは…」
「『風の神殿』よ。」
卓達も、それは見た事も聞いた事も無かった。
「一体なんですか?」
「私も直接行ったことは無いんだけど…志手山にあるらしいんだ。なんでも奈良時代の事が関係あるらしいんだけど…。」
「へぇ…じゃあ卓君、そこにしようよ!私も久々に志手山に行きたいし…」
「うん、じゃあそうしようか。」
そして、卓達を始め、白浜町の考古学部の生徒と顧問の楓、それから瞬と雅人は集まって志手山町に行く事になった。
卓達はまず、冥徳寺に向かった。久々に人を見たので和尚さんは驚いていたが、その目的を聞くとまた驚いた。
「そうか…『風の神殿』か…」
「ご存知なのですか?」
「ああ、伝わった話しか無いが…なんでも風見清蓮が関係あるらしい。」
「そのお方は一体?」
「ああ、『死出山』を守った奈良時代の陰陽師だ。この山は別名『死出の山』と呼ばれ、死んだものが冥界に逝く時に通る道とされている。その為、この地は魂や霊が集まりるので、本来ならば人が住むべき場所ではないんだ。」
「そうだったんですか…」
弘信はその話についていけてなかった。
「それでこの町は滅んだのですか?」
大地がそう言うと、和尚さんは頷いた。
「しかし、名字が『風見』とはね、卓君の名字と同じだね!何たる偶然…」
「そう、かな?」
卓がそう言って頭をかくと、和尚さんが強い口調でこう言った。
「いや、それは偶然じゃないんだ。」
「偶然、じゃない?」
「卓君達や私は風見清蓮と死出山の力を受け継ぐ『風見』の一族、卓君が能力者なのはそれのせいなんだ。」
「そうだったのですか……」
その後も、風見についての話が続いた。卓はその話を懸命に聞いていたが、何処からか『風』が吹いているのを感じた。
「なんだろう、これは…」
卓は立ち上がってそれが何処に吹いているか、感じようとする。
「卓君?」
「俺、行かなきゃいけない気がする。」
そして、卓は冥徳寺を出て、山の方へ向かってしまった。
「あっ…」
「卓、ひょっとして何か感じたのか?」
優月達も冥徳寺を出ていった、奥の方に安置されている仏像が静かにそれを見守っていた。
「この『風』、一体なんだろう…」
卓は確かにそれを感じているが、服や木は揺れていない。
それもそのはずだ、卓が感じている『風」は魂や力の流れだったりするのだ。
山は霧がかかって先が見えないが、卓がそこを通る度に、どんどん開けていった。『風』は卓を導くように吹いていく。
しばらく歩いていると、目の前に立派な建造物が現れた。それはずっと昔からそこにあり、所々崩れかかっている場所も合ったが、当時の美しさが伺えた。
卓は何の躊躇いもなく、その中に導かれるように入って行った。周囲は白い光に包まれ、何処からか懐かしい気を感じた。
「卓君、何処にいるの?」
優月や楓は何度も呼んだが、気配すらない。
「やっぱり、連絡した方が良いんですかね…」
楓は携帯電話を取り出したが、瞬がそれを止めた。
「待て、何か感じないか?」
優月達はそれを感じようとしたが、変わった事はない。
「やはり、僕と和尚さんにしか分からないのか、ひょっとして、卓もそれを追って?」
瞬は何の迷いもなく登山道とは違う山道を通って行った。
「俺達も続こう!」
大地や亮也もそれについて行った。
あまりもの光の眩しさに、思わず卓は目を閉じたが、やがてゆっくりと開いた。
すると、さっきまでの崩れかかった建造物とは異なり、所々に美しい装飾が施されている神殿が現れた。
「これが、『風の神殿』?」
卓を導いていた『風』は奥の方に吹いている。卓はそれに向かって歩いている。
卓は最初、自分の能力で場所の記憶を見ているものだとばかり思っていたが、それなら自分の意識はないはずである。それなら、これは何なのだろうか。
奥まで行くと、自分よりも身長が少し高いくらいの銅像が二つあった。そして、その先に人影がある。卓はゆっくりとそれに近づいて行った。
優月達も『風の神殿』に向かって行った。
「どうして、お寺の敷地なのに神殿があるのですか?」
穂香がふと、こんな疑問を投げかけた。
「今は分かれているが、昔は神仏習合というものがあったのだよ。それに風見家は元々豪族で、様々な文化を大陸から取り入れるのが好きだったらしい。」
「へぇ…」
すると、瞬が足を止めた。目の前には崩れかかった建造物がある。
「ここが、『風の神殿』ですか…。」
「古文書通りだな…。」
一同は中に入ろうとしたが、瞬がそれを止めた。
「確かに卓はそこに居る…だが今は入れない。」
「えっ?」
一同は卓の帰りを入り口でずっと待っていた。
その人は卓の存在に気づくと振り向いた。現代の服ではなく、黒い袍に艶がある高い靴、頭には頭巾がある。
そして、何もかも見通すような真っ直ぐな目に、卓は目を離せなかった。
「君は一体…」
「我が名は風見清蓮、死出山の魂の循環を護る陰陽師だ。」
「清蓮…、まさか、さっき冥徳寺の和尚さんが言ってた?!」
卓は驚きのあまり、開いた口が塞がらなかった。
「我は既にこの地に居ないが、意志だけはこの死出山に遺している。…風見卓、」
「どうして、俺の名前を……」
「我が持つ『風見』の能力、それは『風』により過去、現在、未来を見渡せる能力…、君がこうして来るのも分かっていた。そして卓、君もこの能力を持っているんだ。」
「俺にそんな力があっただなんて…」
卓は自分の手の平を見つめた。
「この『風の神殿』は、我がずっと死出山に登る魂達を見守っていた所だ。また、彷徨える霊を導き、そして悪霊や妖を浄化していた。後は…」
清蓮は目の前にある石を見つめた。それは力を失ってるのか輝いていない。
「これは要石だ。死出山の霊がこの地以外に行かないようにこうして霊水晶を置いているのだが、力を失っている。そこで、卓の地によって、もう一度要石の力を取り戻して欲しいのだ。我と同じ力を持つ君ならば出来る。だが、この『風見』の力は強大だ。それで今まで使えなかったのだろう。」
すると、清蓮は自分が持っている霊水晶の数珠を卓に手渡した。
「これは『風見』の力を強め、抑制する力を持つ。この力は強大だが、君なら使いこなせるはずだ。」
卓はそれを左手に着け、要石にかざした。すると、それは再び輝きを増していった。
その時、卓の目が青く光った。
「その目、やっぱりそうなんだな。大丈夫、君ならその力を上手く使ってくれるさ、現代の事、よろしく頼んだぞ…」
「あっ、清蓮………」
すると周囲は眩い光に包まれ、卓は思わず目を閉じた。
気がつくと、卓は優月達の所にいた。
「どこいってたの?」
「俺…、清蓮の所に行ってたんだ。」
「えっ、清蓮…ひょっとして『風見の始祖』のか?!」
「うん…」
卓の左手には霊水晶の数珠がしっかり握られていた。




