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死出山史実譚集  作者: 無名人
3/9

由香 〜狭間の片翼〜

…私には双子の姉が居た。名前は千香といって、産まれた時からずっと側に居た。見た目は一緒なのに性格は正反対で、活発な私と違って、千香は大人しかった。

そんな千香は交通事故の時、私を庇って死んでしまった。

それから、真海さんや瞬君達に出会って二人だけだった世界はどんどん広がっていった。

そんな日々も楽しかったが、苦しくて寂しい時は、千香の事を思い出してしまう。どんなに願っても、思いを馳せても戻って来ないのは分かっているのに…。


そんな日々が続いた中学一年生の夏、私は地の果ての世界で千香と再会した。そこで千香に意外な事を言われた。私が千香を寂しがって心配すると同時に、千香も私の事を寂しがって心配していたのだ。

私がもう心配しなくて良いよと言うと、千香はしばらく考えてから笑って、白い翼を広げて何処かへ飛んでしまった。

霊には普通は羽根は生えないらしい。しかし、千香は思いの力が強くて具現化したようなのだ。

私と千香、二人で一つの翼、双翼。だが、千香は今の私には超えられない所へ行ってしまった。

狭間の片翼、千香が居なくなっても私は永遠の双子の妹だ。


しばらく経って私は瞬君と結婚して、息子の卓が産まれた。

嬉しかった、だがそれと同時に寂しくもあった。卓には兄弟が生まれる事は無かったが、兄弟を失った悲しみというのは大きい。そこでまた、私は千香の事を思い出してしまった。


そんな時、不思議な夢を見た。私は真っ白なワンピースを着て、地の果ての世界に立っている。澄み渡る空、地平線までの草原、だがその中に人影は見えない。

私は、また千香に会えるかも知れないと思い、名前を呼びながら歩いて行った。

「千香〜、何処に居るの〜?」

だが、返事どころか姿すらも現さない。

「もう、居なくなったのかな…」

私が座り込むと、その横に人の気配があった。

「あなたは…」

その人はお祖父さんで、私の顔を見ると真っ先にこう言った。

「君は、草壁さんの娘さんかな?」

「どうして分かったのですか?」

お祖父さんはその問いに答える代わりに、こう言った。

「君が探してる子はもうここには居ないよ。この前、もう行くって行ってから…そのまま来なくなった。」

「えっ…?」

「さぁ、僕もそろそろ行こうかね。」

お祖父さんは立ち去ろうとする。

「どうしてですか?」

「僕にも会いたい人が居るからね…別にここで別れたといって終わりではない、始まりなんだよ。次の世界でまた会える。」

「あっ…」

「瞬の事、よろしく頼んだよ」

お祖父さんが去る姿が見えたと同時に、私は目を覚ました。


「あの人、誰だったんだろ…、そういえば瞬さんの事言ってたような…」

普段は夢の事など全く気にならない私だが、今回は妙に気になった。

そこで瞬さんに聞くと、意外な答えが返ってきた。

「ひょっとして、僕のお祖父さんかも知れない。」

「えっ、どうして分かったの?」

「お祖父さんは『夢渡』の能力を持っているんだ。それが死んでも残ってて、予知夢で何か知って由香の夢に入ったんじゃないかな。」

「そっか……」

すると瞬さんは誰かに電話をした。

「友也の娘さんが産まれたって知らせだった。一緒に見に行く?」

私は病院に行った。


友也さんは奥さんである信乃さんに付きっ切りだったが、私達をみるとこっちにきた。

「赤ちゃんは、何処に居るの?」

すると信乃さんが、看護師さんを呼んでくれた。

看護師さんの案内で私は、赤ちゃんが寝かせられてる部屋に来た。

大勢の赤ちゃんがお母さんの名前が書かれたベッドで寝かせられてる。目を覚ました子も居るが、ずっと寝たままの子も居る。


その中に、信乃さんと友也さんの赤ちゃんも居た。

「名前はもう決めたんだ。風見梨乃、いい名前だろう?」

その子は髪の毛は赤みがかった茶色をしている。

「抱いて良いですよ。」


私はその子を抱いた。

友也さんや卓に似てると思ったが、それ以上に千香の面影を感じた。

「お帰り、千香、今度は一人で来たんだね…」


部屋からでて窓の外を見ると、白い羽が一つ舞っていた。

生命は廻り続ける。何処かで別れても、次の世界でまた再会するのだ。

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