友也 〜風見の弟〜
僕のお父さんとお兄さんには特別な能力を持っている。生まれつき死にかけた事が多い僕はよくそれに助けられていた。
幼稚園の時、一人で公園で遊んでいると、突然周囲が暗くなって、寒くなった。砂場から離れようとしたが、立ち上がれない。僕はしゃがみ込んで、晴れるのを待ったが、空の雲は思ったよりも分厚い。
突然何処かから笑い声が聞こえたと思うと、僕の影が形を変えて、足を掴んだ。振りほどこうとしても、振りほどけない。
あまりもの恐ろしさに、泣くことも忘れていた。
そこから抜け出せない状況に居る僕を嘲笑うような声が聞こえ、それはどんどん酷くなっていく。
「どうしよう…、僕、このまま……」
どうしようも出来なかった。その時、何処かから聞き覚えのある声が聞こえたと思うと、お父さんが駆けてきた。
「友也!大丈夫か?」
「お父さん!」
お父さんは僕を抱えると、影を解いた。
「この状況になっている事は分かっていたんだ、だが用事が長引いてな…。ごめんな、友也…」
「うん…、ありがとう…」
僕は状況が上手く飲み込めてなかった。こういう死にかけた時、いっつもお父さんやお兄ちゃんに助けられている。
だけど、その時二人は何を見てるのか、何を思っているのか、僕は分からない。
そして、僕が三年生になった。友達の横山康成と遊んでいた時、あの時と同じように空が暗くなった。
「もう、帰ろうよ」
「えっ、まだ遊びたいのに…」
その時、康成の身体が突然動かなくなった。
「康成、どうしたの…?」
「友也、何かに掴まれた、助けてよ!」
「えっ…」
僕はあの時のお父さんみたいに地面の影を掴もうとしたが、どうやっても掴めない。
「友也、首掴まれた、息出来ないよ!」
「えっ?!」
僕は康成の首を触ったが、何の異常も無い。
「そんな、どうすれば良いの…」
お父さんとお兄ちゃんも今日は助けてくれない。
康成はしばらく悶えていたが、やがて声を発さなくなった。
「そんな…僕のせいだ…、僕が能力持ってないから、康成を助けられなかったんだ……。」
康成は息を発さなくなっていた。
どうする事も出来なかった、ただ、それのせいで友達を亡くしてしまうなんて…僕は嫌だった。
目の前で助けを求められてるのに、僕は助けられなかった。僕はずっと助けられてたのに、助ける方はどうしたら良いのか分からない。
僕はその事を今の今まで誰にも言わなかった。
そんな僕にも大切な人が出来た。妻の信乃とその間に産まれた娘の梨乃だ。その二人のお陰で、僕も能力が無くても大切な人を守れるって気づいたんだ。
今の僕には守るべき人が居る。そんな僕は明日へと突き進んで行かなければいけないんだ。