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死出山史実譚集  作者: 無名人
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瞬 〜風見の少年〜

……その地にはかつて『死出山』と言う町があった。そこではたくさんの人が死に、悲劇は繰り返されるばかりだった。

その町は今、その姿を消し、面影も無い。だが、僕達はその事を決して忘れないだろう。

思いはいつもそこにある。



僕達『風見』の一族の長男は『風見の少年』と呼ばれる。

それは生まれつきなんかしらの能力を持ち、自分が死にかけた時に目覚めるのだ。僕が持ってるのは『霊視』とよばれる強力な霊感と極端な霊媒体質を持つ能力だった。

もちろん、僕の父さんや祖父さんも能力を持っていた。だが、僕は自分の能力について誰も信じてくれない経験があったので、友也以外の家族には明かさなかった。神隠しに遭った時、家族が誰も助けてくれなかった事について怒っていたし、言った事を信じてくれない事に関しては憎んでもいた。だが、それは違った。



『風見の少年』として死出山で産まれた宿命なのだろうか、産まれ付きよく死にかける事は遭ったし、死にかけた人を見る事も多かった。

僕は風見守、長男坊だったし、その後子供が産まれる事は無かったから大切に育てられた。だが、それでも守りきれない所はあるのだろう。それだから僕にもまた能力が目覚めた。いや、目覚めてしまった。

僕は『命察』という生物の寿命を察する能力を持っている。

それに気づいたのは幼馴染の奈緒を助けた時だった。あの時は何が何だかさっぱり分からなかったが、自分の中の何かが叫んでいた。

その後は誰かを見る度に分かったり、夢に出てきたりもした。それを見る度に自分だけ分かってしまう事が辛かった。

だから僕はそれを人を助ける為に使ったのだ。


また、死にかけた人の側には稀に死神が現れる事も知った。隣のクラスの廉という子が何度も話し掛けて来たのだ。

名字とか詳しい事は忘れたが、廉が初めて死神として僕の目の前に現れた時、不思議そうな顔をしたのを覚えている。

「お前、人間なのに寿命が分かるのか?」

「僕もよく分からないんだけどね。」

「…『風見』か、聞いた事がある。確か昔その名の人と死神の姫が結婚したんだ。」

僕はふとある事を聞いてみることにした。

「僕がその能力を使って人を助ける事についてどう思ってる?」

「死神だって無闇やたらに命は奪わないからな。それに…、人を救うのもまた死神の役目だって思ってる。

悪霊とかを浄化するのは、この世の人間に危害を加えさせない為だからな。」

廉は僕と同級生とは思えない程に芯がしっかりした子だった。


その後も僕は自分の能力を隠しながら、それを使って人を助けた。そんなある日、夢の中で学校の桜を見た。

僕の小学校は分校が合併されていて、そこに桜の木が植えられたのだ。

その桜が咲いていた。満開のはずなのに見に来る人は居ない。それもそのはずだ、何しろ季節は秋、桜は本来咲かないはずなのだ。

夢から覚めて、いつものように学校に来ると、夢と同じように桜が咲いていた。

周囲の風が妙に冷たかった。桜は満開なのに誰も気づかない。

美しかった。ただ、それと同時に胸騒ぎがした。

『桜の狂い咲き』、聞いた事がある。桜は命を散らす直前になると花が咲く事があるのだ。

命というのは、なんて儚いんだろう。それだからこそ散る寸前の命に人は心を奪われる。

その後、桜は花どころか葉もつかなくなった。父さんがいうには桜の木には魂を溜め込む性質があるから死出山では育たないというのだ。

だが、他の子はそれには気づかない。恐らく幻を見ているのだろう、あの桜は今も咲いているという。

それと、あの桜の木には死体が埋まっているのだ。誰かがそこに埋めたらもう一度その人に会えた、っていう話をしたからだろう。


しばらく経った後、僕と奈緒は結婚して、二人の息子が産まれた。二人とも可愛かったが、よく死にかけていた。そういう時、あの能力を使うのだか、一回だけそれが使えなかった時があった。それは、瞬が『風見の少年』として目覚めた時だった。

瞬はその時、自分の能力に戸惑うと同時に誰も信じてくれないといっていた。

その時、僕にも能力があると伝えるべきだったのだろうか、だが能力の事についてだけは奈緒にも伝えてなかった。

瞬は友也にはよく喋っていたが、僕にはあまり話してくれなかった。両親よりも、兄弟や友達の方が近いのは分かっている、だけど頼ってくれないっていう事が辛かったのだ。


父さんはそこまで話した後、僕の方を向いた。

「それであの時、助けてくれなかったんだね。」

今の僕は両親に対して憎しみというものは抱いてなかった。

「卓も能力を持ってしまったのか、『風見』として生まれた宿命というのか…。」

父さんは僕の目を見つめていた。

「瞬はやっぱり奈緒に似てるな?」

どうして、って僕が聞こうとすると

「見たものしか信じないって目をいっつもしてるからな。」

と、言って肩を叩いた。

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