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Blaue Kopfhörer

 僕がいつも使っているヘッドホン。白いヘッドバンドと水色のハウジングがとても気に入っている。これを首にかけてオーバーサイズのパーカーの前ポケットに手を入れるのが、僕のいつものスタイルだ。

 短い黒髪と三白眼に不愛想がかけあわさって、今では誰一人として僕に話しかけようとする猛者はいなかった。ただ一人、麻木先輩を除いて。

「あ! 東雲くん! 今日も学食?」

 お昼過ぎ、午後一の授業が休講との掲示を見て、ゆっくり昼食を取ろうとした矢先のことだった。その麻木先輩が僕を見つけ、断りもなく僕の向かいの席に座ったのだ。

「はあ、いいじゃないですか。貧乏苦学生ナメないでくださいよ」

「あはは、別に深い意味はないない。遠慮せずに食したまへ」

 笑いながら、すっきりとした細いメタルフレームの丸眼鏡の位置をなおす麻木先輩。

「言われなくても。だいたい、一番コスパがいいんですよ、これが」

 定番メニューのカツ丼を容赦なく頬張りながらも、先輩が次に何を口にするのか、そればかりが気になっていた。しかし、その心配も杞憂のまま、麻木先輩は僕の食べっぷりには目もくれないで、腕に抱えていたノートをめくりながら、ページを行ったり来たりしている。そのたびに、アップスタイルにした先輩の茶髪からこぼれた巻き髪の束が揺れていた。

「それ、ゼミのですか」

「そ。東雲くんは、んー、来年? 同じような研究課題が出るんじゃないかな」

 小さなあごに細い指をあてて軽く考える麻木先輩の仕草は小動物を彷彿させた。そして次の瞬間、不意に彼女の眼鏡の奥のつぶらな瞳に射抜かれた僕は強い庇護欲に駆られて、盛大にむせてしまった。

「東雲くん! だ、大丈夫?」

 返事する余裕もなく箸を丼ごとトレイの上に置いて、左手の掌を先輩に向けながらまた強く咳込み、そばにあった水を一気に飲み込んだ。

「え、はい。大丈夫です」

 返事もそこそこに喉を整えるための短い咳払いをして、一口だけ水を飲んだ。それから、心配する麻木先輩をよそに、僕は再び食べかけのカツ丼に手を付け始めた。

「あんまり焦って食べると、またむせちゃうよ?」

 口にご飯を含んだまま「らいじょうぶれふ」と言うと、先輩は呆れたようにクスクスと笑っていた。意味が伝わったかどうかよりも、意思が伝わっていればそれでいいのだ。

 一呼吸おいて、麻木先輩がどこからか取り出したファッション雑誌を開いて僕に見せた。

「ここ、これ、分かる?」

 僕は手を休めることなく、視線だけを開かれた雑誌に向けて、先輩が可愛らしい手で指し示した箇所に注目した。それからすぐに視線を外し、丼のなかに散らばった米粒を集めて口にかきいれた。

「先輩。そこは『マフポケット』って言って、手を温めるための袋なんですよ」

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