Gelber Rock
高級感のあるショルダーバッグのベルトに、濃紺のノースリーブのトップスから出した細くて白い腕をひっかけて、辺りを見回す女性がいた。動くたびに揺れる黄色のロングスカートの裾に見え隠れする足首もまた細く透き通っている。
やがて何かを探すことをやめたその女性は、通路脇にあったちょうど良い高さのガードレールに腰を落ち着けて、軽く溜め息をついた。そしておもむろに左手首の黒いバンド、おそらく時計が付いているであろう部位に視線を落とす。
「あー、姉ちゃんお待たせ。わるいわるい」
仏頂面をあげた彼女の前に、左手にファストフードのドリンクを持った、短い黒髪をワックスで跳ねさせている弟が現れた。
「おっそいわ! 時間みて!」
小さいが怒気のこもった声色の姉が、自分の左手首をトントンと叩く。しかし、弟は時計や電子端末を取り出す素振りも見せずに笑っていた。
「いいじゃん少しくらい。それよりさっき買ったコレ美味しいよ、ってちょっとっ」
痺れを切らした姉が弟の横を通り過ぎるようにして歩き出し、すれ違いざまに弟の肘を掴んで引っ張ったのだ。
「はいはい、行きますよー。誰かさんが遅れて来たせいで、時間が押してまーす」
危うく転びかけた弟はすぐに踵を返して、姉の隣に並んだ。
「強引すぎない? ちょっと遅れたくらいで」
「ちょっと? いや、ちょっとじゃないから。すごく、遅れてんの!」
そう言いながら姉はまた弟の肘に手をかけて、彼を牽引し続けた。
「はい! きびきび歩いて! 今日はアンタの奢りだからね!」
「え? は? マジで? 聞いてないんですけど」
隣でうろたえる弟をよそに、小さい背丈に反して彼よりも半歩先を早足で歩く姉は鼻歌を歌って上機嫌のようだ。それに気付いた弟も、諦めたように姉の横に並んで歩きはじめた。
頭二つ分は身長差のある二人は、しばらく会話もなく歩き続け、不安になった弟が口を開いた。
「えーと、それで、今日はどちらまで?」
「あれ、言ってなかった? こないだテレビで特集されてから、予約してもなかなか入れなかった、念願の高級フレンチだよ! だから超楽しみ!」
「あ、あー……」
弟の項垂れる姿は、もちろん姉の視界に入るはずもなく、懐具合に思いを馳せる彼の耳には、輪をかけて上機嫌になった姉の鼻歌が響いていた。
力なく起こした弟の目の前には、さっきまで感極まってバレリーナのようにくるくると回りながら踊っていたはずの姉が、いつの間にかそこにいた。
「な、なんだよ」
苦し紛れに悪態をついた弟の頭を、姉はにやにやと笑いながらくしゃくしゃにした。




