Gelbes Hemd
「今日は、これ」
黒い短髪と、アンダーリムの眼鏡。シャツとジャケットにデニムのパンツ。いつもどおりの服装で、尻ポケットから取り出したスイーツ特集のパンフレットを指差して言った。
「ふむふむ、お兄ちゃんにしては良チョイス」
「え、はい。ありがとうございます」
冗談めかしてペコペコお辞儀する俺に、苦しゅうない、といった態度で対応する妹。明るい色のカラーリングをしたロングヘアを風になびかせて、紺色のフレアスカートからすらりと伸びた白い足を大の字に広げていた。騒がしい駅前で待ち合わせていたせいもあって、道行く人が度々こちらを振り返る様子が恥ずかしい。
「じゃ、行くか」
「うむ! あないせい!」
「へいへい」
いい加減、付き合いきれなくなって返事もおざなりにして、目的地に向かって歩き出す。
「ちょっと、待って」
少し駆け足をして隣に並ぶ妹から、ふわりと香る匂いに何とも言えない気持ちになる。
「あれ? そういえば眼鏡は?」
「ん、昼間、外ではかけてない。似合わないし」
話題をふってはみたものの、毛先をもてあそびながら一刀両断されてしまった。
「あー、そうなの。でも見えなくない?」
それでも食い下がってみる。
「あんまり見えないけど、別に平気」
平気なわけあるか! と思ったが、もうこの話題に広げるところがないと判断して、脳内をケーキのことで埋め尽くすよう心掛けていると、地図の載っているパンフレットを妹に取り上げられた。
「ちょっと見せてー」
「あっ、ちょ」
「あー、値段もリーズナブルなんだ。この、こっちのほうが店内の雰囲気は好きかな」
そう言って妹が指差していたのは、今日の目的地ではない。そして、ケーキセットは俺が紹介した場所の倍だった。
「お、ま、え。いくら働いてても無駄遣いが過ぎるんじゃないの? これは高すぎ──」
「いいの! 甘いものならお金に糸目は付けないって決めてるの!」
怒ったような笑ったような顔で頬を膨らませている妹。彼女とそんな他愛のないやりとりをしているうちに、俺たちは件の店の前まで来ていた。
「ここ、だね」
「うん」
風情のある喫茶店といった感じの佇まいで、俺はベルの付いたドアをゆっくりと開いた。