夕刻に彼女は想いを遂げる。
その花に込められた言葉を、意味を知った時に私はこれを彼にプレゼントしたいと思った。
その花の名前は、スノードロップ。
小さくて頭を垂れた花弁は、まるで雪の欠片のようはかなげなのに、寒い冬の中でも花を咲かせる強くて愛らしい花だと思った。
愛しさと強さを兼ね備えたスノードロップに憧れて、この花を上手に咲かせられたなら、意気地なしで想いを遂げられないでいる私の背中を押せるような気がして育て始めたんだ。
私の身勝手な願掛けが成就してくれたのか、冬の寒い頃には真っ白な花が咲き誇っていた。
そんな小さくてもしっかりと咲いているスノードロップを見て、私は今日想いを遂げようと彼を公園に呼び出したんだ。
赤く染まる公園の中に彼がいなかったらどうしよう、そんなことも考えたけれど、彼はちゃんと来てくれた。だから私は頑張らないと。
彼にあげたスノードロップを見つめ、決心して私の気持ちをしっかりと伝える。
「あなたのことが好きなのです。私と付き合ってくれませんか?」
緊張してしまっているのか、顔がとても暑かった。
「僕でよければ」
返事が返ってくるまではそれほど時間が掛からなかったはずなのに、異様に長く感じて鼓動が早くなっていた。
「よかったぁ」
もしも断られた時のことなんて考えてもいなかったから、心の底から安心できた。だけれど、ここで満足してしまっては私の想いが伝わりきらないから、あとひと踏ん張りしないと。
「もう一つ渡したいものがあるのだけれど、一つだけお願いしてもいいかな?」
ポケットに入っているそれの感触を確かめながら彼に訊いてみる。
「うん、いいよ」
優しく微笑みながら答えてくれた。
「あのね、後ろを向いて欲しいの」
「えっ、それだけでいいの?」
私の願い事が思っていたよりも簡単で拍子抜けしたのか、彼は少しきょとんとした表情をしていた。
「うん、お願い」
彼にたったそれだけをしてもらえば、あとは私の手で望みが叶うから。
「わかったよ」
ゆっくりと振り返り、彼の背中が私の方を向いた。
さっきの告白よりもすごい緊張感が込み上げて、ポケットから出した右手は小刻みに震えていた。
左手を彼の肩に乗せ、目一杯に力を込めて右手で握る銀色のそれを彼の背中へと突き立てた。
「大好きだよ」
自然と身体も近寄り、溢れてきた感情を伝える。
背中からあふれ、私の手を伝う夕焼け色の雫がとても暖かかった。
ガタリと膝から崩れていった彼の背中、それに私のありったけの想いを告げる。
「これであなたは私だけのものだね」
死を意味するその花に、希望と共に乗せた想いは。
スノードロップに託した想いは――
――愛しているので、死んでください。
どうも337(みみな)です。
この度は『スノードロップに託した想いは――』を読んでいただきありがとうございます。
本小説は冬童話祭2018に向けて書いたものとなっております。
今回で私がこの企画に参加するのはなんと七回目になるようです。自分でもよく続けて参加しているなぁ、と思います。
さて、今回題材にしたスノードロップなのですが、花言葉は「希望」と「慰め」だそうです。ですが、イギリスの一部地域ではスノードロップが「死」を象徴する花でもあるそうです。
この「希望」と「死」が合わさって、あなたの死を望むと受け取られてしまう花のようです。
題材をスノードロップにしようと決めて、意味を知ったときは少しお驚かされました。
そんなこんながあって、できたのがこれです。
ここのあとがきに長々と書くのも好きではないので、この続きは今夜あたりに活動報告の方に書きたいと思います。
最後に、過去の冬童話祭で投稿した『うそつき』『僕が願った勇者の夢は――』『生きたがりの僕。』『死にたがりの僕が見つけた生きる理由。』『ハルジオン』『見えるから。』もよかったらご覧ください。
では、ありがとうございました。