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#46 ステージへの道12-決勝⑤-

 三回表、軽音部チームの攻撃。スコアは2対11。ワンナウトフルベース。七番打者、コトコ。

 バッターボックスの馬鹿は、前打席と同様に予告ホームランの構えで野球部を挑発していた。


「ふっ。なかなか笑わせてくれます」


 退場処分を食らったホウカはベンチにふんぞり返ってニヤニヤしていた。


「笑いごとじゃねーよ」


 ほら見ろよ。三橋の奴が青筋立ててるぞ。ブチブチって擬音が聞こえてきそう。


「夏目。冬村。こちらに来なさい」


 ホウカは二人を呼んで何か吹き込んでいる。声が小さくて聞こえない。


「こら、バッター。やめなさい」


 さすがに二回目なので審判からの注意が入る。

 コトコはすでに満足したようで素直に従い、バットを両手で握って構える。

 三橋が振りかぶって第一球を投げた。

 内角に強烈なシュートがくる。コトコはこれを予想していたようにバックステップで避ける。判定ボール。


「ちっ」


 三橋が唾を吐く。ちっ(外したか)って思ってそう。


「あー汗かいちゃったぜ」


 コトコはわざとらしく左腕でバットを掲げると、ジャージの脇をパタパタと扇ぐ。わざとらしくまた予告ホームランの構えだ。


「おい、やめろ。これ以上挑発すんな」


 ピッチャーが第二球を投げる。外角低めストレート、ストライク。

 三橋は投球間隔を狭めて矢継ぎ早に投げる。コトコのペースではなく自分のペースに持ち込む。

 もちろん、コトコに太刀打ちできるはずもなく、二球続けて外に逃げるスライダーを空振りした。

 空振り三振。


「スイちゃん。あのピッチャーは今すごく怒ってると思うから無理しないでいいよ。さっきみたいに三振してもいいから」


「頑張ってくるね」


 スイコは俺の忠告をガン無視して、それだけ言った。


「スイちゃん?」


 コトコからバットを受け取ってスイコが打席に入る。


「おい、てめえ。スイコに何を吹き込んだ」


 戻ってくるコトコを肩をつかむ。


「そのうち分かるぜ。黙って見てろ」


 コトコが俺の手を払いのける。

 ツーアウト満塁。依然チャンスではあるが、凡退は必至だ。


「なっ!」


 オー! ジーーーーーーーザス!

 スイコは恐る恐る、しかし確実に示威な行為を成した。

 つまり、予告ホームラン。


「タイム! タイム!」


 俺はすぐに止めさせようとタイムを要求したが、遅かった。

 三橋はすでに投球動作に入っていて、割り込む隙がない。


 スイコだって分かっているはずだ。このタイミングでそんなことをすればどうなるかってことが。

 多分上手くかわすつもりだったんだろう。しかし慣れていなければ、そうそう上手くいくものでもない。


 避け切れなかったストレートがスイコの二の腕に直撃する。

 バットが手から離れ、スイコはその場に両膝をついた。


「俺のスイコになにすんだてめえええ!!!」


 次の乱闘で没収試合になることなど埒外だった。

 俺は三橋に向かって一直線に飛び出した。奴を半殺しにする。それ以外は考えられなかった。


 しかし俺の特攻はすぐに後ろから取り押さえられる。いつの間にか両脇に夏目と冬村がいて、両腕をがっちりとホールドされる。


「離せこら! ぶっこ○すぞてめえ!」


「落ち着きなさい!」


 身体を捻って二人を振りほどこうとするが、すぐにサモハン先輩もやって来て俺の前に立ちはだかる。肩をガッチリと押さえられる。三人に押さえ込まれて、ウンともスンとも動けなくなった。

 俺は抵抗をやめて、肩で息をする。


「もう暴れないから離せ。スイコは大丈夫なのか?」


 平静を取り戻すと、サモハン先輩の脇からホームにへたり込むスイコを見る。すでにコトコが駆け寄って様子を見ていた。

 あのアマ、スイコをかどわかしやがって。後で覚えとけよ。


「大丈夫みたいですよ。球もそんなに速くなかったみたいですし」


 イケメンがやって来て、俺に報告してくれる。

 イケメンの言葉を聞いて、ようやく俺はホッとする。


「いつまで俺を拘束してんだよ。はよ離せよ。もう怒ってないから」


 取り押さえられた犯人かっての。


「お前マジこえー奴だったんすね。もう発狂するのやめるっすよ?」


 冬村は俺の豹変ぶりにまだ驚いているようだった。


「俺は元からこういう奴だよ」


 ようやく開放される。

 手当てのため一時スイコがベンチに戻ってきた。


「大丈夫?」 


「う、うん」


 スイコが俺の視線を避けるように下を向いた。


 あれ、もしかして引かれた?


「普段はそんなに怒ったりしないんだよ。これでも仏で通ってるから」


「いや、嘘はよくないっす。さっき元から狂犬だって言ったっすよ」


 黙ってろホウカの犬。


「本当に大丈夫? 病院行こうか。なんなら入院しよう」


「キモいんだよ。あたしがデッドボール食らった時と態度が違いすぎるぜ?」


 スイコを介抱していたコトコが胡乱な表情で俺をねめつける。


「違うに決まってんだろ。そもそもお前は食らってすぐピッチャーに突っ込んだだろうが」


「あ? 差別か?」


 話きけよ、こいつ。


「何をしている。早く塁に出なさい」


 俺らが下らない言い合いをしていると、審判がしびれを切らしてやってきた。


「代走出すから待ってろハゲ」


 スイコはもう出ないほうがいいから、軽音部の先輩に頼むか。あんまり運動は得意じゃないって言ってたけど、仕方ない。


「私出ます」


「は?」


 スイコが世迷言を言い始めた。


「待ってよ。重症だよ。すぐに病院行った方が良いって。演奏出来なくなったらどうするのさ?」


「大げさだって。お父さんみたいなこと言わないでよ。子どもじゃないんだから」


 スイコは駆け足でファーストに行ってしまう。

 スイコの腕に手を伸ばそうとして空をつかむ。


「諦めたまえ。伊庭君も何か役に立ちたかったのだろう」


 いつの間にかランナーの阿法が隣にいた。

 そうか。スイコのデッドボールで押し出しになったのか。

 スイコはスイコなりにチームに貢献しようとしたのか。ステージのために。


「早くしろよ、軽音部の雑魚ども!」


 ベンチから野球部の野次が飛んでくる。それをきっかけに観客の中や守備ナインからも文句が噴出する。


「あの平民がやりそうなチンケなことです」


 ブーイングの中でホウカは平然と足を組んで微笑んでいる。

 俺らを煽るようにチンが仕組んだのか。効果があるのはイケメンと軽音部の先輩くらいだけど。


「行きたまえ。君の出番だ」


 阿法からバットを受け取る。


 3対11。ツーアウトフルベース。九番打者、俺。

 三橋の変化球は凄まじくキレがある。経験者や特別に運動神経の良い奴ならまだしも、六番以降の下位打線では当てることすらままならない。


 デッドボールを狙う策はない。

 それでは駄目なのだ。ひっくり返すことの出来る点差ではない。


 なんとか前に転がしたいところだが、ただ転がすだけでは駄目だ。状況が満塁なので、バントなどでチョロっと前へ転がすとすぐにホームフォースアウトになってしまう。

 狙うべきはこれしかない。


「お前は予告ホームランしないのかよ? 見てたぜ、二回戦」


 どうやら教師チーム戦を見ていたらしい。三橋がマウンドから挑発してくる。


 俺は奴を相手にせず打席に立つ。特に挑発するようなこともせず、普通に構えた。

 三橋は俺のノーリアクションに舌打ちすると、振りかぶって第一球を投げた。


 予想通り。ほぼど真ん中。三橋は俺が打てないと高をくくっている。

 ボールを見送る。カウントストライク。


 うん。打てる訳がない。


 三橋はニヤニヤと俺の無様な見送りを鼻で笑っている。

 矢継ぎ早に投球二球目。コースは先ほどとほぼ同じ。

 よし。

 俺は狙い澄ましたようにフルスイングする。バットは空を切り、ボールはミットに収まる。


「ちっ」


 今度は俺が舌打ちをした。

 俺が放った『バット』はかなりのスピードで三橋の脇を掠めてセカンド近くまで飛ぶ。

 飛んだ場所がもう少し良ければ三橋に直撃していた。

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