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#44 ステージへの道10-決勝③-

 やっと騒動が収まり、いつの間にか観戦者が三倍くらいになっていた。


 コトコのデッドボールに端を発した乱闘は、双方入り乱れて激しい殴り合いになった。

 俺といえば、乱闘する振りしてコトコが殴られないようにフォローするくらいだった。もっともフォローする前に教師軍団が乱入してきて両チームは引き離された。


 阿法と俺は何発かもらったが、幸いコトコは乱闘で怪我することはなかった。良かった。ステージに支障が出たら本末転倒だ。

 相良先輩? 凄まじい強さだった。腕力にモノをいわせて、向かってくる野球部の猛者を投げ飛ばしていた。


「お前ら、今度やったら全員停学にするからな!」


 両チームの前で主審のハゲ教師が説教を始める。最初は試合を中止しようという流れだったが、塁審の千川、堂島の強い後押しがあり、試合を再開する運びとなった。

 当然この二人には事前に根回しをした。試合を成立させないと俺の口が滑る、と。


「さすが相良先輩だ。腕をへし折る手際はなかなかのものだった」


 生徒会チームはこの乱闘で二人の怪我人を出した。一人は阿法が膝蹴りで肋骨を粉砕し、もう一人は相良女史が一本背負いに乗じて右腕を折った。

 怪我した二人は控えの野球部員に連れられて病院に行った。


「校内暴力なら問題だけど、スポーツで熱くなるとこういうこともありますよね?」


 俺はにこやかに問いかける。


「貴様ぁ」


 野球部の主将はこの惨状にかなりお冠のようだった。顔に青筋を立て、歯をむき出しにして俺を睨む。


「抑えるがよい主将。試合が無効になったら賞金はパアでおじゃるよ」


 チンが慌てて間に入る。

 こいつは何が何でもホウカを土下座させたいんだろうな。


「審判。試合を再開するでおじゃるよ!」


 両チームがまた暴発しないうちに、チンが教師たちを促す。


「スイちゃん、ちょっとちょっと」


 呆然と乱闘を見ていたスイコを呼ぶ。


「相手はすこーし気が立ってるから、あんまりホームベースに近寄らないようにね。三振してもいいから」


「う、うん」


 スイコは両手でバットを握りしめ、身震いする。

 コトコのことがあったから心配だ。一応教師が釘を刺してるが、それで大人しくなるような連中でもないだろう。

 審判が再開を宣言する。


 二回表、ノーアウト一塁。八番打者、スイコ。コトコは元気にファーストにいく。肩へのデッドボールは大したことないようだ。

 ピッチャー三橋はセットポジションから第一球を投げた。外角低めストレートにストライク。スイコがバットを振っても届かない距離だ。


 スイコがもう少しホームベースに近づこうとするが、俺は声を上げてそれを阻止する。

 その後、三橋は続けざまに同じコースに同じ球種を放る。

 スイコは手も足も出ずに三振し、とぼとぼとベンチに帰ってくる。


 これでいい。


 ワンナウト一塁。九番打者、俺。

 俺はスイコのようにホームベースから離れず、普通に打席に立つ。

 一球目。内角高めにシュートボール。俺は微動だにしなかった。ボールはバットと俺の頭の間を通過する。完全なビーンボールだ。


 まるで堪えてないな、あのピッチャー。本当は阿法があいつを潰す予定だったが上手く逃げていた。

 二球目は外角にスライダー。振ったが掠りもしない。バットから逃げるような球だった。

 なんとか塁に出たかったが、コントロールが絶妙でデッドボールを狙いにいくのも難しい。

 ならせめてバントと思ったが、次球のシュートもフォークも変化が凄まじく、当てられなかった。

 結局三振。


 ツーアウト二塁。一番に還って打者、ホウカ。

 三橋はホウカにもビーンボールを放る。

 ホウカはストライクボーンの球をことごとくカットし、そのたびに三橋はホウカの身体を目掛けて速球を投げた。

 審判は一度注意したが、ホウカは楽々と避けていたのそれ以降何も言わなかった。

 ホウカはフォアボールを選んだ。


 しかし次の冬村はなすすべもなく凡退し、この回の攻撃は終わった。



 二回裏、生徒会チームの攻撃。2対0で軽音部チームのリード。


「お前、大丈夫かよ」


 マウンド上のホウカに声を掛ける。

 投球練習の様子が明らかにおかしい。完全にフォームが崩れている。


「お前ではありません。前のイニングでほぼ力を使い果たしました。このまま投げれば打たれ続けます」


 ホウカは生徒会チームのベンチを見つつ、冷静に答える。

 ピッチャーはホウカだけだ。そもそもホウカが規格外なだけで、軽音部チームにはピッチャーなんて最初からいなかった。


 ホウカが降板となったらイケメン辺りに投げさせるしかないが、ボコスカに打たれるだろう。相良先輩をマウンドに上げるという手もあるが、外野に打たれたらおしまいだ。


「見ているといいです。ただでは引っ込みません」


 俺の様子を案じたのか、ホウカが少し笑う。

 こいつのこういう笑顔は初めて見たな。

 俺は何も言わず守備につく。


 四番打者の野球部主将がバッターボックスに入る。

 ホウカはロージンバックを手で転がしながら、バッターを観察しているようだった。十分に時間を使って、ボールを手の上でポンポンと跳ねさせる。グラブの中でボールの握りを確認し、一つ息をつく。

 ホウカは振りかぶって第一球を投げた。


 今までで最速のボールが一直線に伸びる。


 バッターからすれば、その球は予想の範囲外だった。元生徒会長にして品行方正で通っている青連院ホウカが、まさかこんな球を投げるとは思ってもいなかっただろう。自分たちの行動を省みれば、当然の報復なのだが、野球部主将にはそんな考えはなかっただろう。


 右打席に立つバッターの左こめかみにボールが直撃する。衝撃で眼鏡が吹き飛び、バッターは派手に転倒した。


「貴様ぁ!」


 生徒会チームベンチがざわめいた。野球部メンバーが次々にベンチを飛びだす。


「皆のもの、止めるでおじゃる。報酬はないでおじゃるよ!」


 誰もチンの言うことなど聞いていなかった。


「うっ!」


 しかし、ホウカの前にいつの間にか相良先輩が立ちはだかると、野球部員たちは一斉に立ち止まる。

 先ほどの乱闘で、部員たちはほぼ彼女一人にやられた。


「おら! 下がれお前ら!」


 互いににらみ合っている内にハゲ教師が仲裁に来た。


「青連院は頭部危険球で退場だ」


 ハゲ教師がホウカに退場を言い渡す。

 ホウカは何も言わずに表情も一切変えずにベンチへ下がっていく。


「おら、お前らもベンチに戻れ」


 野球部員たちはホウカの退場をみて、ブチブチ文句を言いながらもベンチに戻っていく。

 つーかお前らもうちょっとデッドボールを食らった主将を心配してやれよ。

 野球部の控えたちが倒れた主将の様子を見ていたが、どうやら脳震盪を起こしたらしくしばらく自力で立ち上がれそうになかった。


「さて、どうするか」


 軽音部チームナインがマウンドに集まる。

 ホウカの抜けた穴をについて話し合う。


「私が投げます」


 ホウカの代わりに入った夏目が挙手する。


「イケメン、投げてくれるか?」


「ちょっと、私を無視するのやめなさい!」


「うるさい奴だな」


 しかし正直なところホウカ以外なら誰が投げても大差はないだろう。


「そんなに投げたいなら投げてみろ。ただし、これまでホウカがこのリードを守ったことを忘れんなよ。舐めた投球してたら即変えるからな」


 他のメンバーに異存はなかった。

 ホウカの代わりに夏目をピッチャーに据え、他の守備に変更はなし。

 夏目が投球練習をしている間に、俺はサードの栄坂と話をする。


「夏目がヘバッたら交替があるかもしれないから、肩を温めておいてくれ」


「俺はコントロールが悪い」


 栄坂はきっぱりと言う。


「知ってるよ。でもいざとなったら頼む」


 俺は頭を下げる。

 正直、栄坂は守備でもマズイところが多い。こいつにピッチャーをさせる選択肢は普通なら取らないだろう。


「分かった。全力を尽くそう」


 お前ならそう言うと思ったよ。

 さて、試合再開だ。

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