#43 ステージへの道9-決勝②-
一回表。ホウカのヒットでノーアウト二塁。
打席には冬村が入る。
実は冬村、これまでの試合で全打席出塁という結果を残している。運動神経が良いだけでなく、とにかく足が速い。これまではセイフティバントが完璧に決まっていた。
「くっ!」
読まれてた。ガチガチのバントシフトを敷かれ、内野のオールプレスでボールを転がせる場所が潰される。それでも冬村はバントするしかなかった。それしか練習してないから。
ホウカも二塁から動くことが出来ず、バント失敗。
「もう役に立てそうにないっす」
冬村は珍しく殊勝だった。彼女がバントしか出来ないのは前の二試合で完全にバレたようだ。
「後はホウカを守ってやれ」
「? どういう意味っすか」
「その場になれば分かる」
三番打者、阿法。
ピッチャーの岩本はホウカの時と同じように内角を攻める。
が、それを見越した阿法は初球内角高めを叩いた。
打球はピッチャーの脇を通り、センター前に抜ける。ホウカは三塁を蹴りホームに突っ込む。センターからの返球はホームから逸れ、悠々ホームイン。
「チッ」
ホウカは軽く舌打ちする。
「惜しかったな」
「ええ。センターがヘマさえしなければ」
ベンチに帰ってきたホウカに声を掛ける。
「何で惜しいんですか。点数入りましたよね、今?」
俺たちのやり取りにイケメンが疑問を差し挟む。
「入ったな点数。何気に先取点って初めてだよな、俺ら」
「そ、そうですね。そう言われれば」
「もっと喜べよイケメン。お前が応援すれば相良先輩は多分打つぞ」
センターからホームへの返球に間に阿法は二塁まで到達。
ワンナウト二塁。四番打者、相良先輩。
生徒会チームナインの内野がマウンドに集まっている。まさか先制されるとは思わなかったのだろう。
「良子さん、チャンスですよ!」
イケメンの声援に狂犬相良先輩の肩がピクッと動く。
守備は持ち場に戻り、相良先輩がバッターボックスに入る。
初球、外角低めのストレート。と同時に阿法がスタートを切った。
バッテリーは完全に意表を付かれる。キャッチャーはすぐさまサード送球の構えを取るが、相良先輩は投手渾身のストレートを軽々と流し打ち。チンが守備するライトに大飛球が放たれる。
ギリギリでチンの頭を越してボールは落下。エンドランの阿法は悠々ホームイン。相良先輩は二塁でストップ。
おいおい。上手く繋がってるな。出来すぎじゃないか。
ギャラリーからどよめきを起こる。
帰ってきた阿法がチームメイトとハイタッチしていく。
「噛み合わなかったな」
「なあに。これからだよ」
生徒会チーム内野が再びマウンドに集まる。
「さすがに面食らっているようですね」
夏目が得意げにマウンド上の見る。
「真打が出てくるな。ナメプなんかしてないで最初から出せよ」
エース三橋。甲子園予選は殆どこいつ一人で投げていたらしい。
「スピードは大したことないように見えるがね」
三橋の投球練習をみて、阿法がうそぶく。
「変化球が得意らしいです。球種が多いので初見では打ちにくいでしょう」
言外で「わたくしなら余裕で打てます」と言いたそうなホウカ。
2対0。ワンナウト二塁。五番打者、栄坂。
一、二球目ともにストレート。内角低目と外角高め。ストライクゾーンギリギリに配された絶妙なコントロール。栄坂はいずれも見送った。
三球目はスライダー。ど真ん中から外に逃げる伊藤智仁もびっくりの曲がり方をした。
しかし栄坂は体勢を崩しながらもこのボールをカットする。
四球目はシュート。内角に切れ込む鋭い変化だったが、栄坂はスイングをコンパクトにしてこれもファールにする。三橋はこの後、シンカー、カーブ、ストレート、カーブ、スライダーと投げ込む。が、栄坂はすべてファールでしのいだ。それも打ち気がないわけではない。
十球目はフォークだった。見事に空振り。球速はないが、あの落差は打者からしたら消えたように見えるだろう。
「済まない」
帰ってきた栄坂がうな垂れる。
「いやグッジョブだ。三橋の奴、相当イライラしてるぞ」
最後のフォークはどちらかというと、投げさせられた、という感じだ。
ツーアウト二塁。六番打者イケメン。
あっさり三球三振。ボールにかすりもしなかった。
「当たる気がしません」
イケメンが珍しく弱音を吐いた。
スリーアウトチェンジ。いきなり二点も取れたのは上々だ。
☆
一回裏。生徒会チームの攻撃。
野球部の打撃陣は正直ほぼ穴がない(チンが唯一の穴)。ホウカは、全力投球すれば余裕で抑えられます、とかデカイ口叩いていたけど怪しいもんだ。
俺らが初回で二点も取ったもんだから、やっこさん方かなり本気モードに入っていることだろう。
と思ったが、蓋を開けてみればホウカはあっさりと三人で切って取った。
いや、内容的にはあっさりではない。
ホウカはこれまでのストレート一辺倒からスライダーとカーブを織り交ぜるようになった。一イニングで三十球を要したが、要所要所でこの変化球が上手く決まり、三者三振に討ち取った。
「すげえな。変化球の練習したのか?」
「ええ。さすがに本職相手ですから」
ホウカは涼しい顔をして事もなく言う。
一回が終わって2対0。軽音部チームのリード。
二回表。軽音部チームの攻撃。生徒会チームの面々がベンチ前に集まって何やら話し合っている。さっさと守備につけよ。
「早く守備につけ、ハゲども」
バッターボックスの前で待っていたコトコが生徒会チームに向かって暴言を吐く。
思っていても口には出すなよ。しかもハゲって。
「ひ、ひーちゃん……」
俺のとなりにでスイコが唖然としている。
「あー! 今なんつったこらぁ!」
ハゲのうち一人がガチ切れする。
「いいから早く守備につけよ。日が暮れるまで作戦会議でもしてるつもりか、あん?」
コトコはバットを肩の後ろに乗せて挑発する。全校生徒が恐れる野球部に対してまったく物怖じしていなかった。
知らねーぞ、どうなっても。
コトコの煽りが効いたのかどうか分からないが、生徒会チームが守備に散らばる。
先取点を与えただけでなく、一回裏を簡単に三人で抑えられたことに危機感を覚えたのだろう。生徒会チームナインの守備に緊張感が生まれる。
コトコがバッターボックスに入る。
「ふっふっふ」
コトコが不敵に微笑んでバットを掲げると、見物人からどよめきが起こる。
あの馬鹿は何をやっているんだ。
「どうやら君の真似のようだね。実にいい」
阿法は楽しそうだった。
コトコは予告ホームランをしていた。レフトスタンドに(スタンドはないけど)バットの先を向けている。
このコトコの態度にピッチャーの三橋は明らかに気分を害していた。ここまで聞こえる舌打ちをする。
「ひーちゃん、カッコいい」
スイコがうっとりしている。
あれがいいの? 俺にはただの間抜けにしか見えないけど。絶対ハッタリでしょ。これまで全然打ててないし。
三橋が振りかぶって第一球を投げる。
コトコは掲げたバットを慌てて握り直す。やっぱ間抜けだな。
しかし、これはヤバイ。何となく予感はあった。
切れのいいシュートボールはコトコの手元でホップして、左肩に直撃する。
コトコは左腕を押さえてその場にうずくまる。
「何で止めるの!」
スイコが飛び出そうとしたので、腕をつかんで止める。
コトコの挙動から目を離さずに、後ろの秘密兵器に声をかける。
「相良先輩、出番のようです」
「てめぇーーーー!!!」
コトコがキレた。すっくと立ち上がると、喚声を上げて猛然とピッチャーに向かっていく。バットを振りかざしたまま。
それを見た生徒会チームも内野陣が集まってくる。
うちからは阿法と相良先輩がフォローにいく。
俺も行くか。
楽しい楽しい乱闘の始まりだ。




