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#42 ステージへの道8-決勝①-

「生徒会チームも消そうとしたのかよ、お前は」


「お前ではありません。青連院ほうか様です。当然です。邪魔者を徹底的に除去することが勝つための鉄則です」


 決勝戦まで後三十分。ホウカ、阿法とともに最終確認を行う。

 運動部連合チームは食あたりで葬られた。それに飽き足らずホウカは生徒会チームも同様の手で消そうとしたらしい。


「チンが作戦に気付いたのか?」


「それはないです。作戦は当日までわたくしの頭の中にしかありませんでした」


 一回戦でデッドボールを食らわせた料理研究会の女子を抱きこんで、ホウカはこの凶行に及んだらしい。あの虚弱女子はホウカを心酔しており、ホウカはそれを利用して犯罪の片棒を担がせた。


「失礼です。犯罪ではなく、勝利への橋頭堡です」


 何言ってんだ、こいつ。と、言いたいところだが、俺は心中で賞賛していた。

 こいつやるじゃねーか。まるで迷いがない。


「ふむ。では、結果として生徒会チームは青連院君の罠を逃れた、というわけか」


 阿法が話を戻す。


「はい。どうやらあの劣等種は野球部のために特製の幕の内弁当を用意したようです」


 野球部を取り込むための買収策の一環か。運のいい奴だ。


「問題はないだろう。元々生徒会チームは我々が直々に仕留めると決めていたのだから」


「ええ。食あたりで沈没すればそれで良し。しなければそれでも良しです」


 ったくよぉ。ちゃんと勝負しないと逆恨みで何をするか分かったもんじゃないって言っただろうが。


「次からはそういうことは事前に言えよ」


「覚えていればそうします」


 言う気ないな、こいつ。

 まあいいや。


「では、そろそろ行くとするかね。私もそろそろ身体が疼いて仕方がない」


 阿法がやる気になっている。決勝ではこいつにも活躍してもらう予定だから、良いことだ。

 軽音部に戻ってメンバーと合流する。


「そろそろグラウンドに行きましょう」


 俺の合図とともに、グラウンドへ移動を始める。


「あのさ」


 スイコがそっと俺に近寄ってくる。


「本当に大丈夫なの?」


「ん? 何が」


「時々フラフラしてるからさ。見てて不安だよ」


 心配してくれているのか。うーん、感動だ。

 というか、前まであった距離感が縮まってる気がする。


「大丈夫大丈夫。俺って低血圧だからさ。朝とか弱いんだよ」


「もう昼過ぎたけど」


 逆に不安を煽ってしまった。


「……うん。まあ、次が最後だから、終わったら病院行くよ」


 まだ頭痛いし、時々フラフラするのは確かだからほんの少し自重するか。


「おっ」


 グランドにはやけに人が多かった。


「実小路が宣伝したようです。勝てばほうか様を土下座させ、負けたら生徒会長を辞めると。全校生徒の前でほうか様を負かせたいのでしょう」


 夏目が憎憎しげにギャラリーを見やる。


「じゃあ完膚なきまでにチンを潰して、生徒会長はお前のボスしかいないって所を見せないとなぁ?」


「当然でしょう。腕が鳴るわ」


 いや、お前は控えなんだけどな。


「へっへっへ。てめえが軽音部で出てくるとはなぁ。ボッコボコにしてやるから覚悟しろや」


 グラウンドにはすでに生徒会チーム(ほぼ野球部)が集まっていた。

 噂に違わないチンピラの集まりだ。


「てめえ、聞いてんのか、おい!」


 いきなり胸倉をつかまれる。

 ああ、こいつら野球部だったのか。

 教室での構図そのままに、常に俺をボコボコにしている三人組が目の前にいた。名前は、えっと……。


「よう、佐藤。お前も野球部だったんだな。今日はお互い頑張ろうな」


 俺はなるべく穏便に握手を求めようと思った。


「いい加減覚えろや、俺の名前は加藤だ」


「うんうん、そうだね。そろそろ手を離してね」


 試合前のひと悶着もなんのその。軽音部チームと生徒会チームはホームベース前に整列する。

 審判の真正面に俺とチン。

 俺は野球部の面々をざっと眺める。


 野球部はこの高校で最も強い部だ。大した成績を残していない当校の部活動にあって、今年の甲子園予選で地区ベスト4まで進んだ。

 しかし、それに反して素行が悪いことでも有名だ。喫煙、恐喝、暴力で過去何度か大会への出場停止をくらっている。今年も好成績を残しているが、その裏で学校がもみ消してきた事件がいくつもある。

 こんな横暴がまかり通っているのも強いからで、他の生徒たちからも恐れられている。


 教室で俺がいくらボコられてても誰も止めなかったのは、野球部に目を付けられたくなかったからだろう。

 こいつらには教師チームに使ったような脅し作戦は通用しない。

 チンはよくこんな連中を手なずけたものだ。


「ふっ、よくここまで登りつめたでおじゃる。褒めて遣わす」


「せいぜいお手柔らかにお願いします。当方普段は楽器より重いものを持ったことがない次第でありまして、その」


 俺は低姿勢で手加減を要求する。


「それは野球部の主将に聞くが良い。まあ無理でおじゃろうがな」


 チンが隣のゴツイ主将に顔を向ける。筋肉モリモリで知能は低そうだが、眼鏡をかけている。


「金がかかっとるんでな。全力でいかしてもらうわ」


 審判である教師の前で堂々と金とか言ったぞ、この主将。

 教師はこの問題発言を華麗にスルー。

 結局野球部を金で買収したのかよ、チン。


「軽音部チーム対やきゅ……生徒会チームの試合を始めます」


 気持ちは分かるよ、審判教師。

 決勝戦のみは五イニング勝負。基本コールドゲームはないが、あまりに試合が長引いたりすると途中で終わる場合もありえるだろう。


 一回表。軽音部の攻撃。


「あれはエースではありませんね」


 夏目がレポートをめくって確認する。

 マウンド上では生徒会チームのピッチャーが投球練習をしている。


「どいつもこいつもイガグリ坊主だから見分けつかねーわ」


「あれは準エースの岩本ですわ」


 全力でいかしてもらうわ、ってさっき誰か言ってたよな。

 完全に舐められてんな、俺ら。

 舐めてくれる分には何の問題もないけどね。

 ホウカがネクストバッターサークルで素振りをしている。最初は違和感バリバリだったけど、だいぶ板についてきたな。


 俺は威風堂々とベンチに鎮座している相良・狂犬・良子の前にかしずく。


「不良の頂点である相良先輩にこの試合で是非ともお力添えを願いたいのですが――」


 相良先輩に詳細を話す。

 途中でとても嫌な顔をされたが、イケメンの晴れ舞台を実現させてやりたくはありませんか、という殺し文句にあっさりと陥落。相良先輩は作戦を了承してくれた。


 さあ、プレイボールだ。


 一番打者、ホウカが右打席に入る。

 おい、ピッチャーがくちゃくちゃとガム噛んでやがるぞ。大リーガー気取りか? 感じ悪いな。

 第一球。内角を鋭く抉るシュートボール。

 ホウカは素早く身体を捻ってボールをかわす。

 おいおい。完全にデッドボールコースだぞ。


「野郎!」


 早くもコトコが熱くなり始めた。


「落ち着けって。熱くなっても良いことないぞ」


 というか、コトコはホウカと仲悪いんじゃないのか?


「あの野郎、絶対わざと狙ってやがる。ムカつくぜ」


 それは分かる。誰の目から見ても明らかに。だってピッチャーの岩本がニヤついている。

 ホウカは内心ブチ切れる寸前だろうなぁ。そんな様子おくびにも出さないけど。

 二球目は外角に逃げる緩いカーブ。見送ってボール。

 三球目。一球目と同様のシュートだが、コースはストライクゾーン。二球目との球速の落差をつかってカウントをとりにきた。が、ホウカは完全にタイミングを合わせて引っ張った。


 鋭い打球は三塁線を抜ける。当たり的にはシングルヒットだったが、ホウカは緩慢な守備を見て一気に二塁を陥れた。

 足も速いな、ホウカの奴。

 周りから歓声が上がる。生徒会チーム(野球部)の圧倒的有利に対する声援なのかもしれないし、ホウカに対するものかもしれない。

 どちらにしろ、幸先の良い滑り出しだ。

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