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#39 ステージへの道5-2回戦②-

 さて、ツーアウト三塁。


 次は四番打者。体育教師、堂島。典型的な逆三角形の筋肉質で、パワーは坂口より上だろう。男性ホルモンの塊のような男で、腕には毛がびっしり生えている。正直、むさくるしい。秋も深いこの季節に袖なしのシャツはやめてくれよ。見てるこっちが寒くなる。


 このバッターも三番打者以上に危険だ。

 ホウカにサインを送る。三塁にランナーがいる以上、こいつとまともに勝負はできない。

 ホウカは俺のサインをチラ見すると、ストレートのフォアボールで堂島を歩かせる。


 ツーアウトランナー一、三塁。バッターはなんと東スポハゲ教師。四十八歳のバツ一。ギャンブル癖に嫌気を差され、嫁に三行半を突きつけられた。子どもの養育費を払わないといけないのに、相変わらず馬にご執心のようだ。

 このハゲが野球をやるとは知らなかった。野球賭博?


 しかし今はハゲはどうでもいい。俺の相手は一塁ベースを踏んでいるむさくるしい堂島だ。


「堂島先生。最近奥様とはどうですか?」


「何を言っているんだ、お前は」


 威圧感半端ないな、この筋肉だるま。フランク永井にさらにドスを効かせたような低音だ。普段から生徒に体罰をしているとの噂があるが、存在がすでに暴力だ。


「最近先生の帰りが遅いから奥様は気を揉んでおられることでしょう。行き付けのゲイバー通いは程々になされた方が宜しいかと――うわっ」


 堂島は話の途中にも関わらず、俺の胸倉をつかんで引き寄せる。


「ブチ殺されたいのか貴様」


 おー怖い怖い。


「暴力ですか。止めておいた方が身のためですよ。教職を追われたらせっかく金で繋ぎとめた「お友達」との関係も御破算になりかねません」


 教師チームのベンチからざわめきが起こる。


「こんな衆目の的で手を出すのは賢くない。出禁になってもよろしいんですか?」


 俺はポケットから一枚の名刺を取り出して、堂島の目の前にかざす。ゲイバー<カマロフ>のマスター尾野の名刺だった。

 堂島はものすごい勢いで名刺をひったくると、俺を突き飛ばす。


「この勝負是非とも勝ちたいので、この先はまともに守備しないで下さいね。守備がしたいのであれば、どうぞ。破滅をプレゼントいたします」


 尻餅をつきながら、堂島に追い討ちをかけた。


「何をやってるんですか、堂島先生」


 さすがに看過できなくなった先生方が一塁に近寄ってくる。

 堂島は名刺を握りつぶして、憎悪の目を俺に向ける。


「何でもありません。ただ、堂島先生の体臭がキツイので注意しただけです。以後気を付けます」


 近寄ってきた教師の一人が隠れて噴き出す。


「再開しましょう。時間もないですし」


 教師の手を借りて立ち上がると、教師共を追っ払う。

 堂島はまだ怒り心頭の様子で俺を見ていた。


「俺の希望はこの試合に勝つことだけです。その手助けをしていただければ、口外はしませんよ。さあ、次の投球でゆっくりとバレない程度に盗塁して下さい」


 守備ナインが俺たちを見守る中で、俺はケツの泥を払う。ホウカと阿法へのサインだ。

 堂島も理解しているはず。次で走らなければならない。走らねば破滅が待っている。

 かくして、堂島は盗塁した。

 阿法のスローとイケメンのカバーがかみ合い、余裕をもってタッチアウト。


「ふぅ」


 長い一回表が終わった。


「大丈夫?」


 守備から戻ってきたスイコが俺の顔を覗き込む。顔が近いよ、スイちゃん。


「大丈夫、大丈夫。全員聞いてくれ」


 皆が俺に注目する。


「千川と堂島は今日体調が悪いみたいだ。だからショートかファーストにボールを転がせ。ミスするかもしれないぞ」


「調子良さそうに見えたっすけどね」


 冬村がいらん突込みを入れる。


「お前は得意のバントでもやってろ。ピッチャーに拾われないようにな」


 正直バントが一番効果的だが、全員でバントするとさすがに怪しいから止めとく。


「じゃあ、頑張っていこうか」


 一番打者、ホウカ。二球見送った後に絶好球を叩いた。

 うーむ、おしい。サード強襲のライナー。ややショートよりでサードの坂口が横っ飛びのファインプレーをかました。


 二番打者、冬村。五球目をバントで真正面に転がす。あのアホ、ピッチャーの方に転がすなって言っただろうが。

 しかしファースト堂島が捕球しそこねて出塁。よしよし、約束を守っているようだな。


 三番打者、阿法。三球三振。

 おいおい、これで三連続三振かよ。お前スタメンから外すぞ、こら。


 四番打者、相良・狂犬・良子。ツーナッシングからファールで粘って九球目まで粘る。


「あのピッチャー、かなり出来ます」


 俺の隣でホウカがピッチャーを子細に観察している。


「六大学野球で鳴らしたというのは伊達じゃないみたいだな」


 あのピッチャーの弱みを握れれば良かったが、誰もが後ろ暗いことをやっている訳ではない。ホウカの虎の子の教師情報でも無力化可能なのは二人だけだった。SRGが崩れる前ならもっと突っ込んだ情報を得ることも出来ただろうが、今のホウカには過去の情報を漁ることしか出来なかった。


 相良先輩は十二球まで粘ったが、最後はフォークに手が出て空振りの三振。

 うおっ! 相良先輩が怒って膝で木製バットをへし折ったぞ。あれ、高かったのに。

 スリーアウトチェンジ。

 これはヤバイな。あのピッチャーからどうやって点を取ればいいのか。



 二回表。教師チームの攻撃。先頭打者はハゲ教師。クサい球は全部見送られ、フォアボール。選球眼がいいみたいだ。食えないハゲだ。


 六番打者は想定通りに討ち取った。と、思ったら、サード栄坂が暴投。ランナーはそれぞれ進塁して、ノーアウト二、三塁。栄坂は力はあるけどコントロールがやばいな。ピッチャーでホウカの代わりにと思っていたが駄目か。


 七番打者はまたしても体育教師。内野陣がマウンドに集まる。


「一塁を埋めた方が良さそうだね」


 阿法が空いた一塁を見る。


「ゲッツーを狙いましょう」


「八、九番を抑えれば何とかなる。問題は九番だけどな」


 異論はなかった。七番打者をストレートのフォアボールで歩かせる。

 八番打者は単なる数学教師。人数合わせだったみたいで、ホウカがあっさり三球三振に仕留める。

 問題の九番打者。ピッチャーの橋谷。大学時代はピッチャーだったが、打者としても優秀だったらしい。何で高校教師なんてやってんだよ。


 入念にサイン交換を行って、ホウカが振りかぶる。


「あっ」


 小気味の良い快音とともに大飛球がレフトに飛んでいく。

 やばい。今度はコトコの方かよ。しかも落下地点が悪い。フェアゾーンギリギリで相良先輩からかなり遠い。


「栄坂!」


 と言う前にすでにサードの栄坂は走っていた。


「イケメン、中継だ!」


 イケメンがホームとボールの直線上に入る。


 コトコよりはやくボールに到達した栄坂はボールをつかむと、力任せに投げた。

 ボールはあらぬ方向へ飛んでいく。って俺の方に来たよ。


「ってぇ」


 グラブ越しにボールの衝撃がビリビリくる。すぐにホームで送球した。が、すでに二人が生還していた。ファーストランナーがホームに突っ込もうとしていて、阿法によりタッチアウトにされる。その間に橋谷は三塁まで進んだ。


 ホウカは苦虫を噛み潰したような顔をしてマウンドの土をえぐる。


「ツーアウトだ! きっちり討ち取っていこう!」


 声を張り上げて意気消沈したナインを鼓舞する。


「うおおおおぉぉぉ!」


 俺の叫び声に呼応したように、外野からスイコの雄叫びが聞こえる。元気な奴だ。


 打順は還って一番千川。

 阿法が立ち上がって、千川に向かって何事か喋っている。多分、「三振したまえ」とでも言っているのだろう。

 俺の予想が当たったように、千川は何でもない棒球をすべて振った。

 スリーアウトチェンジ。0対2。

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