#38 ステージへの道4-2回戦①-
「情けないとは思わないのか、お前ら」
一回戦後。空き教室でメンバーを集めて反省会をする。
「あなたも十分情けないですわ」
「わたしは二回も塁に出たっすよ?」
「一回戦はただの肩慣らしにすぎないよ君」
「何か言ったか小僧」
「……」
「いやー面目ないです」
「うるせーぜ。てめえも三振だっただろうが」
「私はバント成功したよ!」
一斉に喋り出すから誰が何言ってるか分からん。それと相良先輩怒らないで下さい。怖いから。
「騒がしいです。勝ちましたか?」
いつの間にか居なくなっていたホウカが戻ってきた。
「はい。見事ほうか様の代役を勤めました」
確かに見事な三振だったな、夏目。
「どこへ行っていたのかね?」
「所用です。では二回戦に参りましょう」
一回戦終了後、三十分もしないうちに二回戦が始まってしまう。
俺たちは慌しくまたグラウンドに向かう。
「次って先生のチームなんだよね?」
「なんか放課後に練習してたらしいぜ」
スイコとコトコが噂している。
次の相手は教師チーム。若い男性教諭を中心に編成されたチームで前評判はかなり高い。
「では、手はず通りに動いてください。それと、夏目」
ホウカが俺と阿法にさりげなく告げると、夏目を呼ぶ。
夏目は素早く飛んでくる。
「次の相手の偵察をお願いします。相手が分かり次第わたくしに知らせて下さい」
「はっ! 畏まりました」
夏目は別会場に駆けていった。
「で、ホウカ様よ。一回戦はどこに行ってたよ?」
「あなた。一回戦は任せろと言っていましたが、料理研の会長をすでに抱きこんでいたのですか?」
阿法にしか言ってないはずだが、何でこいつが知ってるのか。
俺たちが優勝した場合、優勝賞品である食堂の食券十日分をすべて渡すことを条件に、料理研会長の二九屋は負けてくれた。とは言ってもデブがこの事を話したのは料理研の三人だけらしいので、確実に勝てるわけではなかった。
正直冷や冷やしていた。もう少し打ってくれると思ったのに。これではこの先が思いやられる。
グラウンドに着くと、すでに教師チームは揃っていた。
「これより教師チーム対軽音部チームの試合を始めます」
両チームが整列し、審判の合図とともに気合の入った挨拶が教師チームから放たれる。
うーむ。名簿通り体育教師四人が全員参加だな。東スポはげ教師もいる。あいつ野球なんか出来るのかよ。
さて、二回戦開始。打順は一回戦と同じ。
一回表。教師チームの攻撃。
「おいおい。軽音部はピッチャーが女かよ」
「軽音とかチャライ奴らの集まりだろ。見るからに舐めた連中ばっかだわ。こいつらが決勝とかぜってえ来ないだろ」
坊主頭の二人組がファーストの俺に聞こえるくらいの大声で喋っている。
野球部だな、あいつら。決勝の相手を偵察に来てるのか。
「教師チームは結構強そうじゃね?」
「軽音部とか女多すぎ。ふざけてるわ」
あ、やばい。
チラッとマウンドを見ると、ホウカが二人組の睨んでいる。
俺は慌ててマウンドに駆け寄る。
「抑えろ。後で相手してやればいい」
ホウカの視界から二人組を隠して、肩に手をかける。
「言われなくても潰します。楽しみが増えてむしろ嬉しいくらいです」
ホウカは微笑んでいた。
これは頼もしい限りだな。
一番打者。英語教師の千川。二十台後半で趣味はフットサル。スポーツ万能で社交的。爽やかな雰囲気で女子に人気。現在は三年の担当なので、俺はほぼ面識がない。
阿法とサイン交換せずに、ホウカの投球が始まる。
ストレートのフォアボール。ストライクゾーンのギリギリをつく球だったが、すべて外れた。外野から、どんまーい! というスイコの声が飛ぶ。
「彼女は緊張してるのかな?」
一塁ベースを踏んだ千川がつぶやく。俺に言ってるのか、独り言なのか分からなかった。
「千川先生はスポーツがお得意なようですね」
「ん? まあね」
俺の問いに、千川は興味なさそうに答える。
「夜のスポーツもさぞかしお得意なんでしょうね」
「ん? どういうことかな」
「千川先生は趣味のフットサルで女子小学生を漁られているのでしょう?」
俺の発言に、千川が顔をしかめる。
「きみぃ、根も葉もないことを言わないでくれよ」
「この発言は先生のものでしょう?」
俺は携帯を出して、先生に画面を見せる。
千川はピッチャーの投球を気にしつつ、画面を覗く。
「こ、これをどこで!」
俺はすぐさま携帯をポケットに仕舞う。
千川に見せた画面はとある女子小学生と千川との蜜月なやり取りだった。
「この画面がどうなるかは先生次第ですよ」
「き、きっさまぁぁ」
「取り合えず、この試合に勝ちたいので二塁でアウトになっていただけると、こちらとしては大変助かります。それと、守備はしない方が身のためですよ。私の手が滑って校長と教育委員会と文科省にこれを送信しないとも限りませんから」
千川は青ざめる。さっきまでの爽やか振りはどこかへ行ってしまった。
俺はホウカに合図を送る。
確認したホウカは投球にうつる。
八十キロ前後の棒球だが、コースがいい。
外角低目を引っ掛けた二番打者。ボールはセカンドの真正面。
「先に一塁!」
俺が声を張ると、セカンドの冬村が即座に反応する。
「ショート、セカンドベースカバーだ!」
阿法の叫び声にショートのイケメンが動く。
冬村の下投げボールを受け取ると、すでにカバーに入っているイケメンにボールを放る。
俺の投げた球はまるで球速がなかったが、それでも中途半端な千川の走塁を阻むには余裕だった。千川は俺とイケメンに挟まれてタッチアウト。
見事な連携だ。なかなかサマになってんじゃん。
うおー、すごい! と外野でスイコが騒いでいる。
さて、問題はここからだ。クリーンナップの三、四番は体育教師で、見るからにバリバリのスポーツマンだ。
三番打者、坂口。均整の取れた筋肉と百八十を超える長身は走攻守を兼ね備えたオールマイティで、年齢的にもほぼ最盛期を迎えていた。
こいつとはガチ勝負の予定。ホウカは入念に阿法とサイン交換する。
投球一球目。外角低めのストレート。ボール。坂口は微動だにしない。
次もサインに時間をかける。
投球二球目。内角高めカーブ。ボール。クローズドスタンスの坂口にとってはヒヤヒヤする球のはずだったが、全く効果はなかった。
三球目。外角低めギリギリをストライクを狙ったところ、完璧に弾き返された。
「やばい!」
打球はセカンドの頭を超えて、スイコのいるライトに飛んでいく。
飛距離はほぼホームランだが、このグラウンドにはフェンスなんてない。ボールはスイコの頭を軽々と超える。
俺と冬村がボールに向かって駆け出す。
スイコはボールを見失っていた。
まずいぞ。このままだとランニングホームランになる。
やっとボールが地面に落ちる。
快速の冬村がスイコを追い抜いてボールに至ると同時に、坂口が二塁を蹴る。
「こっちに貸せ」
相良先輩がいつの間にか冬村のすぐそばにいた。
「おらぁぁぁぁ!」
気合一閃。相良先輩が冬村から受け取ったボールをホームベース目掛けて大投擲した。ボールはレーザーのごとくホームに向かって一直線に伸びる。
三塁を蹴ってホームに向かおうとしていた坂口はボールが凄まじい勢いで戻ってくるのを見ると、ブレーキを掛ける。
ノーバウンドで阿法がボールをキャッチする。
「す、すごい」
スイコが思わずため息をもらす。
「なんつー肩してんすか、相良先輩」
やはり俺の目に狂いはなかった。この人は傑物だ。




