#35 ステージへの道1-メンバー探し-
「このわたくしが劣等種に土下座? ふざけたことをしてくれましたね」
放課後の軽音部室。軽音部員プラスαで今後の事を話し合う。
俺の話を聞いたホウカは汚物を見る目で俺を眺める。生徒会での仕事がなくなったホウカはすっかり軽音部に入り浸っていた。
「勝ちゃいいんだよ。それともあのチンに負けるのが怖いのか?」
「愚問です。このわたくしが負けるわけがありません」
こいつもちょろいな。
さて、二週間後にある球技大会。競技は色々あるが、俺らの関心事は野球のみだ。
野球は他の競技と少し違って、クラス対抗ではなく有志でチームをつくって登録する必要がある。チンと約束を交わした翌日に詳しい勝負のルールが通告された。ご丁寧に文書で。
ごちゃごちゃと書いてあるが、要約するとこんな感じ。
・直接対決以外での勝敗は順位の高いほうが勝者。
・メンバーは基本自由だが、こちらは軽音部に縁のあるメンバーを、チン側は生徒会に縁のあるメンバーそれぞれを選定すること。
・こちらが勝った場合は軽音部の文化祭ステージを確約。チン側が勝った場合は青連院ほうかの土下座ならびに敗北宣言を確約。
野球はトーナメント制で、例年三、四チーム前後が出場するらしい。つまり二回勝てば優勝。
「問題は色々ありそうだが、まずメンバー集めをしようではないか」
阿法が珍しくまともなことを言う。
「はい! はい! 私出たい!」
真っ先に手を挙げたのはなんとスイコだった。こいつは野球がどんな競技か分かっているのだろうか。
「スイが出るならあたしも出るぜ」
次に手を挙げたのはコトコだった。
おいおい。野球は基本女には不利なスポーツなんだが。
「わたくしも出ます」
ホウカが当然とばかりに挙手する。えー、また女かよ。
「僕も出ますよ。軽音部のステージがかかってますから」
「…………っ」
イケメンが挙手。それを見て後ろにいた相良女子もスッと手を挙げる。
「君は当然出るとして、私も入れてこれで七名か。先輩方はどうかね?」
阿法が俺を頭数に入れつつ、先輩に意見を伺う。
え、俺も出るの? 体力とか筋力ないんですけど。
「当然出るよ。と、言いたいけど、僕たち二人は極端に運動音痴なんだ。ギリギリまでメンバーを集めて、それでも集まらなかった時には出場するよ。もちろんそれまで最大限練習はするつもりだ」
部長がすまなさそうにうな垂れる。
いや、俺もそうしたいんですけど。
「いや、先輩方は、というよりも軽音部員は音楽の練習を疎かにしてはいけない。球技大会のすぐ後に文化祭なのだからね。音楽の気晴らしにでも練習に参加してくれたまえ」
阿法が釘を刺す。
「メンバーは最大十三名まで登録できるから、先輩たちも入れておきますよ。出るかどうかは当日考えてもいいですし。代打もありっすよ」
俺は説明の補足をする。
「ふむ。それでは後二人のメンバーを我々で探すとしようか」
阿法の言葉で話し合いは締められた。
軽音部は練習を始め、俺らはそれを見つつ、これからのことを話し合う。
「本当に余計なことをしてくれましたね」
ホウカがまたブツブツと俺の文句を言い始める。
「うるせえな、土下座くらいいいだろ。減るもんじゃなし」
「良くありません。あの劣等民の弱みは十二分に握っています。ステージを用意させるのは至極容易なことです」
「いやいや、それじゃあ余計意固地になって軽音部を潰しにくるぞ。チンからしたら青連院ほうか様の唯一の弱点だからな」
「まったく。諦めの悪い無能男はこれだから性質が悪いです」
「俺の方を見て言うな」
「会長!」
扉が開き、女子の甲高い声が部屋に響く。
うわぁ、出たよ。生徒会のモブ女子二匹。確か背の低いパッツンが夏目で、浅黒くて背の高いのが冬村。
「実小路と野球で勝負するというのは本当でしょうか?」
夏目がわざわざ俺を押しのけてホウカに問いただす。
「ええ、そのようですね」
「ぜひわたくしどもに協力させて下さい、会長」
夏目はその場に膝をついて、頭を垂れる。
大仰な奴だな。
「あなたは生徒会側の人間です。ならば実小路に協力しなさい」
「無碍なことをおっしゃらないで下さい。わたしはあの男を生徒会長とは認めていません。青連院ほうか様こそがわたしの主人でございます」
引くわ~。こいつ何言ってんだ。
「そうですか。しかし球技大会に関してはこの男が差配しています。協力したいのであれば、これに聞きなさい」
ホウカが俺を指差してモノ扱いする。
「え?」
夏目、冬村ともに激しく嫌そうな顔をした。例えるならゲジゲジが大量にたかっている桜の木を見たような。
「ちっ、協力して差し上げましょう。ただし貴様の指図は受けないからそのつもりでいなさい」
態度デカイな、こいつ。
「いやー、お前いらねーわ。そんな虚弱な身体してるから運動できないだろ。隅っこの方で三点倒立の練習でもしてろ」
俺は夏目の胸周辺を凝視しながら、言い捨てた。
「なっ!」
「じゃあ私なら合格っすね。運動神経いいっすよ」
今度は冬村が自信満々に躍り出てきた。確かに均整の取れた引き締まった筋肉を見るとハッタリではなさそうだ。
「お前もいらねーわ。何だか頭が悪そうだし。野球は体力馬鹿のスポーツじゃねーんだよ。九九からやり直して来い」
「なっ!」
ただでさえ女が多くて不安なのに、これ以上増やしてたまるかよ。
俺に拒否された二人は顔を真っ赤にして今にもぶち切れそうだった。
「ほうか様。この男が許せません! こんな底辺を這いつくばっている不燃ゴミに差配を許すなど、どうか考え直して下さい」
まーたゴミ扱いかよ。生徒会ムカつく。
「そうですね。ならば勝負しなさい。勝ったらこの男も素直にあなた方の加入を認めることでしょう」
なんだよ、それ。
☆
「なんすかこいつ。ただのビッグマウスっすか?」
金属バットを立てかけて冬村が煽ってくる。
「話になりませんね。単細胞生物からやり直したらいかがでしょうか?」
「くっ!」
こいつら、さすがホウカの部下だけあって口が悪い。
しかし何も言い返せない。事実だから。
某バッティングセンターの一角。ホウカ、阿法とともに夏目冬村とバッティング対決をしに来たのだが、結果は散々だった。
いや、鎖骨が痛いし、身体中怪我してるから負けたんだ。きっとそうだ。…………んなわけないな。俺は単純に負けたんだ。
「負けたのですから、あの二人の加入について異論はありませんね?」
ホウカが冷たい目で俺を見る。
これで九人か。
いいのか、これで? 冬村はともかく夏目は二十球中一球しか当たってないんだぞ。まあ、俺は0球だけどさ。
「あれは……」
ホウカが奥のバッターボックスを見ていた。
その視線の先には大男。金属バットが小さく見える。バットの先を垂直に立て、鋭いスイングの後に気持ちのよいミート音が響き渡る。ボールの軌跡はまったく見えなかった。
俺は吸い寄せられるようにそいつのバッターボックスの後ろまでくる。
「栄坂?」
栄坂穣だった。以前ダブルデートした園芸部員。スイコに好かれている奴だ。
俺がガラス窓に張り付いていると、栄坂がこちらに気付いてバットを置く。
「こんなところで何をしている」
いや、俺のセリフだよ。
「週に二回ここでバイトしている。草花の種を買う資金がない」
部員一人の園芸部は部活動として認められず、学校から部費など出ない。
なんとも涙ぐましい話だ。スイコから好かれてなかったら良い奴だったのに。
いや、今はそんなことはどうでもいい。
俺は栄坂に事情を話した。
「そうか。協力しよう」
栄坂は簡単に了承してくれた。うーむ、いい奴だ。スイコに好かれてなかったらな。
「よし、これで人数はそろったぞ」
俺は四人の元まで戻って、栄坂を勧誘したことを告げた。
「ちょっと、わたしたちはどうなるのですか」
夏目は目を吊り上げて、俺を睨む。
「一応登録だけはしてやるよ。使うかどうかはまた別な」
「ふざけんなっす!」
冬村に拳骨で殴られた。




