#27 ことこ攻略3
「お、おい、落ち着けよ。いきなりトチ狂ったのか?」
「ああ~! トチ狂ってんのてめえだろう、ボケが! 万引きした女子高生はな、レイプされても文句言えねーんだよ! 知ってたか、おい!」
豹変した俺にコトコは恐れをなした、ように見えたがそんなことはなかった。
「本当にコンビニの店員か? 犯罪者のニオイがするぜ」
「はぁ~~??? 犯罪者はおめーだよ、タコ!」
俺は机をバンバン叩いて、コトコを恫喝する。
「図星を突かれて、火に油ですか。少し落ち着いたらどうでしょうか」
この青い奴、追い出してぇ。
しかし言う事はもっともだ。深呼吸して落ち着こう。
席について、居住まいを正す。
「お客様に反省のご様子が見られないので、警察及び学校へ通報させていただきますが、よろしいでしょうか?」
しかしコトコはまったく堪えていない。むしろ顔をニヤつかせて余裕の態度を取る。
「今更紳士ぶってバッカじゃねーの? 本性バレバレだっつーの」
このクソガキィィィィ!! 血管がはち切れそうだ。
俺をかつてここまで激怒させた奴はこいつが初めてだ。むしろ笑えてくるレベルだ。
もう警察に突き出すだけじゃ収まらない。裸にしてビデオとって全世界に拡散してやる。
「それは面白くないので、やめて下さい」
「俺の心を読むな」
「声に出てるぜ、犯罪者。ドン引きなんだけど」
マジか。俺、やばいな。
「あなたはしばらく引っ込んでいなさい」
今まで部屋の端で腕組みしていたホウカは、俺を押しのけて、コトコと対面の席に座る。
「氷雨コトコさん。あなたの態度次第で我々はあなたの親へ連絡しなければなりません」
「何で私の名前を知ってんだよ、青連院」
コトコはホウカをいぶかるように眉根を寄せる。
つーか、コトコもホウカの事知ってるじゃねーか。もっともホウカの顔と名前は学校中に知れ渡っているから、知っていても不思議ではないけど。
「わたくしは全校生徒の顔と名前と略歴を記憶しています。あなたが軽音部を辞めてからこうして腐った行為を繰り返していることも存じています」
さも当然のように言ってるけど絶対嘘だろ、それ。
しかし、コトコは特に疑っている様子もなく、ふて腐れたように下を向く。
「言いたければ言えよ。親でも警察でも勝手に呼べ」
「だ、そうですが、いかがいたしますか、バイト」
ホウカが俺の方を向く。
ホウカが目で語っている。作戦は失敗した、と。
これで親を呼んだら弱みを握れない。こうやって開き直られると、どうしようもないのだ。
「一つ聞くけど、何で軽音部を辞めたんだ」
俺の質問にコトコはピクリとも反応しなかった。
俺はホウカに対して首を横に振る。
この場は一度引くことにした。盗んだ商品を返してもらい、このコンビニに二度と来ないという誓約書を書かせて、コトコを追い出した。
☆
部活動の終わりを狙って、俺と阿法は軽音部の一人でドラム担当の小太りな人を捕まえた。
ハンバーグでも奢れば何でも喋ってくれそうなので、ファミレスに連れて行った。顔を良く見るとサモ・ハン・キンポーに似ているので親しみを込めてサモハンと呼ぶことにした(心の中で)。
かつて、部活見学という呈で部室に行ったときは、レッドツェペリンのジョン・ボーナムに憧れているとか言っていた覚えがある。
脅すネタとは関係ないが、コトコがなぜ軽音部を辞めたのか、というのがやはり気になる。そこにコトコを理解するヒントがあるのではないだろうか。それが分かればもしかして何か脅すネタが出来るかもしれない。
辞めた理由を知るにはやはり当事者に聞くのが一番だろう(スイコに聞くのが一番だけど、ホウカが聞いたところでは心当たりがないらしい)。
夕食時で込み合っているファミレス。デブの分際でサラダバーで大量のサラダを盛ってきたサモハン先輩は嬉しそうにムシャムシャ食べ始める。やはり部活の後はお腹が空くのだろう。
俺はコーヒーを飲みつつサモハン先輩が満足するまで待った。阿法はサモハン先輩と勝手に大食い競争をしていた。
軽く三百万カロリーを摂取したサモハン先輩はようやく満足したらしく、メロンソーダをすする。人の金だと思ってめちゃくちゃ食うな、このデブ。
「氷雨のことを聞かせてもらっていいですか?」
俺は頃合を見計らって話を切り出す。
コトコの人となり、軽音部に入ってきた経緯、活動時の様子、スイコとの関係、軽音部に入る前のこと、辞めた経緯、などなどを丹念に聞き取る。
阿法は大量の山盛りフライドポテトを注文して食べ始める。言っとくけど、お前の分は払わないからな。
最初、俺らは表向き軽音部とあまり関係ないので、深くは聞きづらいかと思っていたが、サモハン先輩の方は俺たちに意外と親しみを持っていた。イケメンを入部させたり、ギターの二人を合宿させたりと、裏から軽音部をサポートしている印象があるらしい。
というわけで、サモハン先輩は色々喋ってくれた。
「みんなかなり期待してたんだよね、氷雨さんにさ」
コトコとスイコが入部した時、すでに三年生部員はおらず、大望のギター要因として二人は迎えられた。特にコトコは経験者ということと、人を牽引する器量のようなものがあり、入部してすぐに部活の中心となった。
「まぁ、俺らの世代ってあんまり前に前にって奴がいなかったしな」
確かに部活見学のときはそんな印象だった。今の三年生二人は、実直で生真面目で派手さとは対極にあった。
コトコの演奏は皆をグイグイ引っ張るように力強く、その後ろをついて来たスイコは着実に実力を蓄え、それを二人でサポートする。
「あの頃は毎日が楽しかったな。日々進化していくのが手に取るように分かった。何というか手ごたえがあったんだよ」
サモハン先輩は過去の日を思い返すように斜め四十五度を見上げる。
「二人の仲? 普通に良かったよ。元々中学からの友達だったって言うし、同じギターだから伊庭さんはいつも氷雨さんに色々聞いてたよ」
「氷雨君のギターは上手かったのかね?」
ポテトを平らげた阿法から質問が飛ぶ。
「かなりのものだよ。俺が一年の時に三年の先輩ギタリストがいたけど、その人より遥かに良かった。なんだろう、技術的なものもそうなんだけど、常にとがってて、こう、ロックしてるのが前面に出てる感じって言ったらいいかな」
抽象的な話でよく分からんけど、氷雨は尖ったロッカーだったんだな。
「そうそう。氷雨さんは作詞作曲も出来てさ。たった四ヶ月しかいなかったけど、その間にオリジナル曲を三曲も提供してもらったよ。文化祭でも演奏したっけ。氷雨さん、文化祭で演奏するの楽しみって言ってたのに」
「それで、氷雨はなぜ軽音部を辞めることになったんですか」
いよいよ本題だ。
「それが、理由については今をもっても良く分からないんだ。七月に入ったくらいから徐々に部活に来なくなっただけど、夏休み前になっていきなり辞めるって言い出してさ」
「伊庭君には心当たりがないのかね?」
すでに知っているはずの情報だったが、それでも阿法は聞いた。
「何が何だか分からないってさ。部活辞めるどころか、二度と話しかけるなって言われたらしいよ」
「喧嘩でもしたのかね?」
「伊庭さんには身に覚えがないって」
サモハン先輩も困り果てたように下を向く。
参ったな、こりゃ。軽音部員でも何も分からないのか。スイコが分からないって時点で薄々予想はしてたけど。
三人はしばらく黙り込む。
サモハン先輩はメロンソーダを飲み干しドリンクバーにおかわりを取りに行く。
「君には妹がいたな?」
「唐突だな。いるけど、それがどうしたよ?」
阿法の質問の意図が分からなかった。
「私にも少し離れた兄がいてね。兄弟というのは何かと比較されるだろう?」
「そうだな。で、何が言いたいんだ、お前は」
「この後、あのドラマーにもう少し突っ込んだ質問をするとしよう」
阿法の眼が鋭さを増す。
「これが正着かどうかは分からないがね」




