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#26 ことこ攻略2

「おいおい、これはいくらなんでも出来すぎなんじゃないのか?」


 阿法が撮影してきた映像を見て、俺は思わずテンションが上がった。

 放課後の視聴覚室。俺、阿法、ホウカの三人で集まって鑑賞会をしていた。

 阿法の撮った映像は決定的な証拠を捉えていた。コンビニの一角で氷雨コトコが店員に見つからないようにお菓子をサッとポケットに入れていた。


「万引きですか」


 ホウカが抑えがたい高ぶりを隠すように口元に手をやる。


「嬉しそうだな、おい」


「あなた程ではありません」


 氷雨コトコの弱みを握って軽音部に戻すという目標がもう達成されようとしていた。これをネタに脅せばいいだけだ。楽勝じゃんかよ。


「よくこんなの撮れたな、阿法。お前って有能だったんだな」


「今更気付いたのかね」


 映像はコンビニの外へと移る。コトコはポケットに隠した菓子を会計していない。その一部始終が記録されていた。コトコは外で待っていたくだんの三年生三人と合流すると、ポケットの中身を取り出す。菓子以外にも出てきた。


「随分慣れた手つきだったよな」


「残念ながら常習犯に近いようだね。この後の映像を見たまえ」


 三年三人はコトコが盗んできたものを受け取り、その場で食べ始める。コトコはそれを一人見ていた。


「情状酌量の余地があるとするなら、氷雨君の万引きはこの三人にやらされている可能性がある、というところだろうね」


 映像は繁華街を歩く四人の後姿を映し、その影はカラオケボックスに消えていった。


「ここから日付が変わるまで四人はカラオケで歌っていたようだ」


 映像が長くなるから、と阿法は動画を編集していた。カラオケの建物に何度か入り込んで、四人のいるボックスを通り過ぎる振りをして撮影していた。


「特に変わったことはない。氷雨君が甲斐甲斐しく三人の飲み物を取りにいく姿が何度もあったがね。今回はこれで終わりだ。カラオケボックスの前で四人は解散した。氷雨君はそのまま家に直行したよ」


「ご苦労だったな、阿法。本当なら俺が行くべきところだったんだけどな」


「気にするな。今の君は母上を安心させたまえ」


 映像をもう一度頭から流すが、やはり万引きの場面が最大のインパクトだ。


「それで、これからどうするつもりでしょうか」


「この映像を氷雨ことこに見せて脅すってのもいいけど、なんか芸がないよなぁ」


 俺は腕組みして思案する。


「阿法氏。このコンビニエンスストアはAマートでしょうか?」


「そうだが、それがどうかしたかね」


 阿法の答えを聞いたホウカは、あごに手を当てる。


「わたくしに考えがあります」



「いらっしゃいませ、ようそこAマートへ!」


 青と白を基調とした制服を着込んだ俺は、コンビニAマートのレジカウンターの前に立っていた。

 雑誌棚では阿法が立ち読みをしており、バックヤードではホウカが監視カメラを確認している。

 視聴覚室で盗撮動画鑑賞会をやってから二日後。俺は晴れてAマートのアルバイト君になっていた。AマートはSRグループ系列で、ホウカの口利きで俺を無理矢理バイトにねじ込むことが出来た。


 ここ数日の調査でコトコを含めた四人はこのコンビニをよく「使う」ことが分かった。ここで一週間くらいバイトしていれば一回くらいはコトコがやって来るだろう、と踏んだ。


 コンビニの客というのは実に様々だ。

 にくまんに箸をつけろ、という客。

 トイレのトイレットペーパーを盗んでいく客。

 おでんの大根一個に汁を一リットル入れろと抜かす客。

 グラビア雑誌をトイレに持ち込んでナニする客(当然買わない)。

 ホットコーラを飲みたいからとコーラをコールドコーナーから勝手にホットコーナーに移す客。

 買ったワンカップ大関をその場で飲み始める客。初対面の俺に向かっていつものやつ、とか言う奴。


 正直、コトコを待つ予定がなければ速攻で辞めていたところだ。理不尽にはかなり慣れていたはずなのに、営業では出会わないタイプの人種が多すぎる。酔っ払ってカウンターで放尿しようとした禿げジジイが現れた時には殴ろうかと思ったくらいだ。


 そうして、頭のおかしいお客様を多数相手にすること三日。ようやくコトコがやって来た。

 阿法が撮影した時と同じようにコトコは一人だった。時刻は十八時前。立ち読みしていた阿法が臨戦態勢に入る。


 店内には阿法を除いて客は三人。

 バイトのシフトは二人態勢で、俺の相方は弁当の検品をしていた。俺はレジに張り付いて、悟られないようにコトコの様子をうかがう。

 レジカウンターからは商品棚のせいでコトコの頭しか確認できない。コトコは菓子コーナーで物色している。

 俺の仕事は商品をポケットに入れる瞬間を目撃することではない。商品を店外に持ち出したところを押さえることだ。目撃するのは阿法の役目だ。


 俺の携帯が振動する。今日もコトコが「やった」という阿法からの合図だ。

 身体に緊張が走る。

 コトコはしばらく店内をうろうろする。レジ前のガムコーナーで買うでもなく、物色する。そして、自然な振りでそのまま店外へ出る。


 俺は駆けることなく、しかし早足でコトコを追う。そして店外十メートルのところでコトコの左腕をつかむ。


「お客様、ポケットの中身のお会計がまだでございますが?」


 俺の言葉を聞くや否や、コトコはつかまれた手を振り払ってダッシュしようとした。

 当然、コトコがこういう行動に出るのは想定済みだ。ただ俺も鎖骨が痛いので追いかけっこは出来ない(そもそも俺は足が遅い)。

 用意しておいたスタンガンを素早くコトコの首筋に当て、動きを封じた。


「お客様、困りますね。こんなところで突然お眠りになられると腰を冷やしてしまいますよ?」


 俺は弛緩したコトコを担いで、店に戻る。コトコが逃げようとした方向を見ると、コトコの仲間三人が呆けたようにこちらを眺めていた。


「え? どうしたの、それ」


 俺が店に戻ると、バイトの相方が目を丸くする。


「この人が万引きしたので、これからちょっとしばきます。なのでバックヤードには入ってこないで下さいね。しばらく一人ですけど頑張って下さい。後で何かおごりますから」


 俺は笑みを浮かべて、レジからバックヤードに入る。


「強引にやったようですね」


 待っていたホウカが何の感慨もなく言う。

 本当はこの場にホウカが居ても良い事はないのだが、「またわたくしを追い出すわけですか」と愚痴るので、仕方なく居てもらった。


「ほら、起きろ。設定は弱めにしたんだよ。意識失くした振りしてんじゃねーぞ」


 俺はコトコをパイプ椅子に座らせ、両頬を軽くはたく。

 コトコは目を開けてこちらを見る。

 とても反抗的な目だ。弱ったウサギみたいな態度に出ればこちらも温情をかけようと思ったのに、これだと虐めて下さいと言っているようなものだ。


「何か申し開きがございますでしょうか、お客様」


「何なんだ、あんた」


 お前が何なんだよ。万引きしといてなんつー態度だ。


「金払えばいいんだろ。持ってるから今すぐ払うぜ」


 お、逆切れか? この小娘。


「お客様。お金を払えば良いという問題ではございません。このようなことをなされては、わたしくども商売が立ち行かないのです」


「知らねーよ、そんなの」


 知っとけよ。こいつ謝る気あるのか?


「お客様。私にも堪忍袋の緒というものがございまして――」


「どうせ時給八百円のつまらない仕事だぜ。こんな事やってないでもっとマシなことしたら?」


 俺は切れた。


「クソガキが、死ね!! 相方の山田さん(38)に謝れや、てめぇ! こちとら毎日汗水垂らして働いてんだよ! 音楽もまともに出来ないクズが偉そうに逆切れ説教してんじゃねーよ! 万引きなんて下らないことしてる暇あったら自分の人生見つめ直して真面目に生きろや、こら!」

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