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#25 ことこ攻略1

「よう。今いいよな?」


 家に帰って飯食った後、親にこってりしぼられた。少しくらい遅くなっただけでカリカリしすぎでしょ。どんだけ説教が好きなんだよ。結局ホウカに電話するのが夜中になってしまった。


『よくありません。何時だと思っているのですか』


 電話越しでも分かる超絶不機嫌な声だった。


「二十五時だよ。小さいことでカリカリするなよ。器が小さいって言われるぞ」


『切ります』


「あーごめん、嘘です。青連院ほうか様の海より広い慈愛の御心におすがりしたく、こうして電話を差し上げた次第でありまして、何とぞご容赦いただきたくお願い申し上げます」


『無駄な口上は結構です。何の用ですか』


「あっそう。昨日メールした件だけど調べはついた?」


『昨日の今日で分かるはずがありません』


 きっぱりだった。


「やっぱりそうか」


『と、でも言うと思いましたか? わたくしの調査能力を侮ってもらっては困ります』


 やるじゃん、お嬢ちゃん。

 詳しい内容がパソコンのメールで送られてくる。


 ホウカに依頼したのは、氷雨コトコの家族関係について、さらにコトコの過去の友人関係についてだった。

 友人関係については音楽関係や学校のクラス以外には特になく、中高通じての友人はスイコを含めて三人だけだった。その友人たちとも軽音部を辞めたのを境に交流がなくなり、現在の交友関係は例の不良グループ三人だけだった。


 次に家族関係だが、コトコが小学生の頃に父親が蒸発。以後は母親が一人でコトコと八つ下の妹を育てている。母親はフルタイムのパートで働いているが、生活はかなり苦しい。現在は貯金を切り崩してなんとかやっている。


 ふーむ。一日でこれだけ調べるとは大したもんだ。


「さすが青連院ほうか様だな。さすがだよ」


『ボキャブラリーが貧困ですね、あなたは』


 いや、褒めてんだから素直に喜べよ。妹といい、こいつといい、何で女ってのは捻くれた奴ばっかなんだよ。


『氷雨ことこの弱みを握って無理やり軽音部に戻そうとするなんて、誰も得することではないと思いますが』


「お前は嬉しいだろ? 他人の嫌がることが大好きだもんな」


『お前ではありません。人聞きの悪いことを言わないで下さい。誰もが心に秘めていることでです』


 んなわけねーだろ、このタコ。誰もが他人の不幸で喜ぶを思うなよ。


「まぁいいや。調査は継続してくれ。何か弱みになりそうなことがあったら教えてくれ。それからスイコの様子なんだけどさ……」


 ホウカはスイコにとって唯一秘密を共有している人間だった(正確には俺と阿法もそうなんだけど)。表向きホウカは俺たちの悪事を非として、俺たちと反目していることになっている。

 スイコは全面的にホウカを信用し、ホウカもまたいつでもスイコの相談に乗ると約束した。当然、スイコは裏で俺とホウカがこうして話していることを知らない。


『変わりはありません。練習にはまるで身が入っていない様子です。伊庭さんは軽音部のムードメイカーみたいですね。軽音部全体が暗いです』


 その後、スイコとホウカの細かいやり取りなどを聞いた。

 スイコは特に俺を撲殺しようとしたことを気にしているらしい。今日俺が退院して復帰していることはホウカを通して知っているはずだった。

 でもスイコはE組に顔を見せることはなかった。


『迷っているようですが、あなたに会うのが恐ろしいようです』


 怖がられてしまった。非常に遺憾だ。しかし、怖がっているなら、こっちから会いに行くのもはばかられる。

 それから、ホウカと諸々の情報交換をして、通話を切ろうとして思い出す。


「そういえばさ、SRグループの方は順調か?」


『唐突になんでしょうか。質問の意図が分かりません』


「このまま何もしないのも寝覚めが悪いから助けてやるよ。12月8日の4246に眼を光らせとけ」


『意味が分かりません』


「お前なら分かる。じゃあな」


『おま――』


 言い返される前に通話を切った。



「なぜわたくしがあなたと往来を歩かなくてはならないのですか?」


「しょうがないだろ。阿法の奴と行ったら俺らは犯罪者にしか見えなくなるし、俺が単独でやっても事案にしかならないし」


 放課後。忙しいとつっぱねるホウカを伴って、ある小学校の前に来ていた。目的の人物はクラブ活動を終えてもうすぐ出てくるはずだった。


「あれですね」


 電柱の陰に隠れて待つこと十分少々。数人のグループの中にその子がいた。氷雨コトコの八つ下の妹だった。

 俺らは小学生の集団にさとられないよう、距離を置いて後をつけた。コトコ妹が一人になるのを待つために。氷雨の家はここから二キロほど離れた団地にある。

 グループは一人また一人と別れ、団地の前でコトコ妹一人になった。俺らは早足でコトコ妹に近づく。


「氷雨ことこの妹さん?」


 コトコ妹の正面に回りこんで、名札を確認する。


「おにいちゃんはだれ?」


 コトコ妹の無垢な疑問に、俺はその場にかがんで彼女と目線の高さを合わせる。


「僕は君のお姉ちゃんの友達、になる予定の人だよ」


「嘘は良くないです」


 ホウカがいらない突っ込みを入れる。


「うるせぇな。友達の友達は友達なんだよ。だからスイコとコトコが仲良くなれば俺も友達なんだよ」


「あなたと伊庭さんは友達ではありません。あなたは伊庭さんに嫌われています」


 グサッと来る事実を言うなよ。気にしてるんだからさぁ。


「あーっ! このお姉ちゃん髪の毛が真っ青ぉ! 変なのぉ?」


 コトコ妹はホウカを見上げて指差す。

 ホウカがあからさまに舌打ちをする。

 いやあ、子どもは無邪気でいいねぇ。俺は小声でコトコ妹に耳打ちする。


「妹ちゃん。この青いお姉ちゃんを怒らせると面白いから、もっと煽っていいよ」


「聞こえています」


 ここで立ち話をするのもなんなので、コトコ妹をジュースで釣って、団地内にある公園で話をすることにした。ホウカと俺でコトコ妹を挟むようにしてベンチに座る。

 どこから話を始めるべきか考えて、最近のコトコの様子を尋ねてみた。


「お姉ちゃんはいっつもムスっとしてて、遊んでくれなくなった」


「へー、それはいつ頃からそうなったの?」


「んーとね、いちねんくらい前から」


「もしかして髪の毛を黄色に染めた頃?」


「うん、そう。お母さんがすっごく怒ってたけど、それで二人の仲が悪くなっちゃって」


 コトコ妹はその時のことを思い出したか、シュンとする。

 取り合えず話題を変えよう。


「お姉ちゃんは音楽をやってたんだよね?」


「うん! しゃみせん!」


「しゃ、三味線?」


 コトコ妹はそう言うと、急にその場で立ち上がり、楽器を演奏する真似を始めた。

 それってギターじゃん。なぜ三味線。

 まあいいか。


「ベンチの上に土足で立ってはいけません。お座りなさい」


 決して声を荒げないが、ホウカの言葉には妙な強制力があるようで、コトコ妹は素直に従った。


「でも今は三味線弾いてないんだよね?」


 するとコトコ妹は首を横に振る。


「だれもいない時にたまにひいてる。でもあたしがひいてって言うとすっごい怒るんだよ。だからもう言わない」


 コトコ妹は言いたいことが溜まっていたようで、一方的に喋り始めた。


「それからね、お姉ちゃんがあんまりひかなくなったから、あたしが代わりにひこうとしたらすっごい怒ったの」

「それでね、お姉ちゃんはしゃみせんやめたって言ったから、じゃあちょうだいって言ったらやだって言うんだよ」

「このあいだなんてね――」


 コトコ妹はそれから、やれお姉ちゃんがあたしのハンバーグを取っただの、夏休みにプールに連れていってくれなかっただの、週に一回は一緒に寝るって約束だったのに破っただの、コトコへの愚痴を訴え続けた。


「あーちょっとストップしてね、妹ちゃん」


 このまま黙ってると際限なく喋り続けそうなので、一旦黙ってもらった。


「妹ちゃんは何でお姉ちゃんが三味線を辞めちゃったのか知ってる」


「しらない。だって聞くと怒るんだもん。あんなに毎日ひいてたのに……」


 ふーむ。肝心のことは分からないか。


「あなたは余程お姉さんのことが気になるようですね」


 黙っていたホウカが口を開く。

 言われたコトコ妹はホウカが何を言っているのか良く分からず、ポカンとする。

 コトコが好きなんだろうな、この妹は。


「妹ちゃん。またお姉ちゃんに三味線やって欲しい?」


 コトコ妹は元気よく、うん、と返事した。

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