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#17 真夜中にお嬢様と二人2

「なぜこんなところに?」


 俺の(未来の)いきつけのバーに行くと、青連院ホウカがいた。

 カウンターが三席、小さいテーブルが三つの狭い店だったが、俺はここの雰囲気が好きで休日によく来ていた。

 ホウカは端のテーブルに一人腰かけていた。


「高校生はもう寝る時間です。早く帰りなさい」


 いや、お前もそうだろ。


「それは誰ですか?」


 ホウカはうな垂れている阿法に顔を向ける。


「阿法だよ。酔いつぶれてる。持って帰れないからここで休もうと思ってさ」


「そう」


 ホウカが後ろに目配せすると、どこにいたのか、岩のようなゴツイ男が現れた。


「その男に任せて下さい。しばらく車で休ませます」


 うおっ、二メートル近くあるぞこいつ。筋肉がパンパンで、金属バットを素手で曲げられそうだ。

 怖いので素直に阿法を預けた。岩男は阿法を担いで外に出て行く。


「何なんだよ、あれは。あ、俺マティーニで」


 俺はホウカと同じテーブルに座る。ホウカは紺を基調としたシックなパーティドレスに身を包んでいた。青い髪や瞳とも相まって異国人と向かい合っているようで、かなり新鮮だ。


「わたくしの従者です。それよりもあなたは何なんですか? 子どもの来るところではないですよ」


 だから、お前もそうだろうが。


「SRグループのご令嬢はこんなチンケなバーで飲むのか?」


「わたくしの質問に答えなさい」


 いつにも増して機嫌が悪いな、この女。何かいつも怒ってねぇか?


「お前ばかりに任せるわけにいかないからな――」


「お前ではありません」


「青連院ほうか様ばかりに任せるわけにはいかないからな、これを手に入れてきた」


 スーツのポケットから例の粉入りのユニパックを取り出して、テーブルに置く。


「そっちでこれの分析とか出来るか? 多分大丈夫だと思うんだが、偽物を掴まされた可能性もある」


「何ですか、これは?」


「コカインとヘロインだ」


 ホウカはユニパックを手にとって、子細に観察する。


「…………あなたは何者ですか?」


「何者って何者でもないよ」


 本当に何者でもない。


「分かりました」


 俺がそれ以上何も言わないので、ホウカは諦めたみたいだった。


「分析は本物であれば一ミリグラムあれば十分です。使わない分は後日お返しします」


 ホウカをユニパックをハンケチに包みハンドバッグに収める。


「ありがとうな。助かる」


 俺も礼を聞いてるのかいないのか、ホウカは手元のグラスに軽く口をつける。


「あなたは本当に伊庭さんにこれを使うつもりですか?」


「そのつもりだよ」


「それが正しいことだと本当にお思いですか?」


「何が言いたいんですかねぇ、お嬢様」


「伊庭スイコさんが麻薬をしない人間にすることが正しいことですか?」


 相変わらず面倒くさいな、この女。早く要点を言えよ。


「音楽をやめさせるのが一番です」


 まだそれに拘ってるのかよ。


「ギターはあいつの唯一の楽しみなんだよ」


「それで?」


 ホウカは恐ろしく冷たい視線を俺に向ける。


「それでって……」


「それがいいのです。唯一の楽しみを奪われた伊庭スイコさんの絶望は、それは素晴らしいモノになります」


 このゲスが。今すぐその澄ました面をぶん殴りたい。

 まぁ落ち着け、落ち着け。


「しかし、いいです。しばらくはあなたの計画通りにしましょう」


 ホウカはタグのついた鍵をテーブルに置く。


「S駅二十六番出口にあるコインロッカーの鍵です。公僕に見つからないよう確認して下さい」


「中身はエロ本か?」


「………あなたは馬鹿ですか? わたくしが今そんな話をしていましたか?」


 真面目に返された。


「冗談です、ごめんなさい。それより、その格好は何だよ。どっかの舞踏会にでも行ったのか?」


 問われて、ホウカは己の服装を確認する。


「世の中には一般人の入れない場所が腐るほどあります。コインロッカーの中身はその成果です」


 俺はグラスを中身にあおり、オリーブを舌で転がす。


「一つ聞いていいかい、青連院ほうか様?」


「なんでしょう」


「もし青連院の冠が取れたら、ほうか様はどうやって生きていくと思う」


「?」


「たとえ話だよ。SRグループの後ろ盾も、金も地位もなくなったら、ほうか様はどうやって生きていくと思う」


「わたくしは人を統べるするために生まれた人間です。資金や地位などは後から付いてくるもの。どうなろうとも、わたくしはわたくしです」


 そんな答えで俺が感動するとでも思ったか?

 偉そうなこと言ってるけど、お前のやってることはただの下衆じゃねーか。って言ったら多分怒るよね、この青髪。


「いやー素晴らしいご高説有難き幸せ。このわたくし感謝感激雨あられでございます」


「白々しいです。顔に『この間抜けは何を言っているのか』と書いてあります」


 間抜けなんて思ってないけど。

 扉が開いてホウカの従者が戻ってくる。狭い室内で余計にデカくみえるな、この男。

 男は俺らのテーブルの隣に腰掛けて、目を閉じる。


「あれは強いのか?」


「試してみますか。一分でビーフシチューにして差し上げます」


 いや、俺はビーフじゃないし。どうやってシチューにするつもりだよ。

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