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#12 ダブルデート1

「スイコとデートしたいんだけど」


「君はなぜ唐突に欲望を口にしたのかね?」


 放課後。軽音部の活動を盗み見るために、俺たちは動き出そうとしていた。


「別にイケメンたちのデートが羨ましかったとか、そんなことは全然ないぞ」


「ふむ。そういう訳か。素直でよろしい」


 阿法はメガネを押し上げて、したり顔をかます。こいつムカつくな。


「おや、あのギターは」


 窓の外から軽音部の練習風景をうかがっていると、阿法がスイコのギターに注目する。


「買ったんだよ、スイコに」


「待ちたまえ。事もなげに言うがギターは高価だろう」


 高かったな。三十万以上したよ。リード・ポール・スミスとかいう良く分からんメーカーで楽器屋で見たときは飛び上がったわ。


 自分からと言っても受け取って貰えないので、スイコ姉に頼んで姉からのプレゼントにして渡してもらった。スイコ姉がそんなの受け取れない、とかごちゃごちゃ抜かしたので、無理やり置いてきたけど、どうやらちゃんと渡してくれたみたいだ。良かった良かった。


 後から知ったんだが、スイコが使ってたのは廉価版で五万ちょっとの品だったらしい。まああぶく銭だからいいけど。


「慣れないギターのせいか、この前よりヘタクソに聞こえるようだが」


 でも、楽しそうにやってるな。ちょっとずつでも進歩すればいいさ。

 って、あれ?


「俺は何でスイコにギターなんか買ってんだよ」


「それは私の台詞なんだがね」


 俺たちはしばらく軽音部の活動を見守って、帰ることにした。


「俺はもうちょっとあいつのことを知る必要がある」


「ほう。それでデートかね?」


「でも俺がデートに誘っても、嫌です、とか言って断られそうなんだよな」


「どうだろうね。伊庭君は見かけ上、君に恩があるわけだし、明日槍でも降れば了承する可能性がないとも言えんよ」


 それ駄目ってことじゃねーか。


「そこでダブルデートよ。栄坂とかいうスイコが惚れてるでくの坊と一緒だと分かればスイコも乗ってくるはずだ」


「ほう。それで、君の相手は誰なのかね?」


「え?」


「え? ではないよ。ダブルデートならもう一人女性がいないと成り立たないであろう」


 あ、そう言えばそうか。


「阿法。お前女装でもするか?」


 想像しただけでおぞましいけど、正直俺の相手なんかどうでもいい。案山子でもいいくらいだ。


「冗談は止したまえ。青連院のお嬢様にでも頼めばいいだろう」


「そんな奴いたな」


 俺らはさっそくS組に行く。教室から出てきた奴を捕まえてホウカの居場所を聞くが、嫌悪感を隠しもしない睨みが返ってくる。


「お前らみたいなゴミが青連院様に何の用だ」


 ゴミときたか。間違ってはいないけど。

 面倒なので、そいつを無視して教室を覗く。四、五人しかいなかった。ホウカはいない。


「生徒会室ではないかね?」


「お、そうだな」


「おい、待てよ。何の用かって聞いてるだろ」


 生徒会室に行こうとした俺は、後ろから肩をつかまれる。

 面倒だなぁ。俺は振り返って対峙する。


「小坊主君は何で同級生を様付けするの?」


「あん? 決まってるだろう。SRグループ総帥のご令嬢だぞ。下民がかしずくのは当然のことだ」


「じゃあ。もしSRグループが崩壊して、ホウカが無一文の貧乏人になったらどうするの?」


 小坊主は小馬鹿にしたように笑みを浮かべる。


「はっ、そんなことあるわけないじゃないか。これだからGOMIは困る」


「あっそう。俺はこれからデートを申し込みに行くんだよ」


 小坊主がポカーンとしているうちに、俺らは生徒会室に向かう。


「ちーす」


 挨拶もほどほどに生徒会室に入ると、ホウカがいた。あと、モブが二人。

 わーお。なんて部屋だよ。ここは学校か?


 全体的に落ち着いた色でまとめられた壁紙にマホガニーのプレジデントデスク。調度品も華美な物は少なく落ち着いているが、いかにも高そうな物ばかりだった。一個くらい持っていってもバレないかな?

 特注っぽいアーロンチェアに腰掛けたホウカは渋い顔をする。


「話があんだけど、今いい?」


「呼んだ憶えはありませんが」


「呼ばれた憶えはねーよ。こっちに用がある。俺とデートしろよ」


 ホウカの両脇に控えていた女どもが同時に立ち上がる。

 相良女史とは別の意味でこえーな。まるで親の敵みたいにガン飛ばされてるぞ。


「会長への無礼は許しません。今すぐここから出て行くか、退学するかを選びなさい」


 背の低いパッツンが声高々に宣言する。

 なんだその二択は。退学って、大げさな奴だな。


「止めなさい、夏目。少しこれと話があるので、お二人は外していただけますか?」


「あ、はい。分かりました」


 背の高いポニテは驚愕の表情をつくるが、すぐさま承服し、実行にうつす。

 二人は俺を焼き殺さんばかりの視線の残して、部屋を出て行った。


「非常に迷惑です。なぜわたくしがあなたとデートしなければならないのですか?」


「別にお前はお飾りだからいるだけでいいよ。本当は案山子でも良かったんだけどな」


「お前ではありません。青連院ほうか様です!」


「あ、ごめん」


 突っ込むところはそこなのね。


「この男が伊庭スイコをデートに誘いたいと言い出してね。しかし断られるのが怖いから、栄坂をエサにしてダブルデートにしようという腹なのだよ」


 阿法がすっきりと説明してくれた。


「それでなぜわたくしがあなたの相手になる必要があるのでしょうか?」


「いや、お……青連院ほうか様は女じゃん?」


「?」


「いや、だからデートは男と女がするものでしょ」


「つまり、わたしくが女だからデートに来い、というわけですか」


「そうそう。理解が早くて助かるわ」


 ホウカは机に両肘をついて組んだ手にあごをのせる。


「ここまでコケにされたのは初めてです。屈辱を通り超えて、いっそ清清しい気分です」


「いや、ごめんなさい。冗談です」


 ただならぬ気配を察して冗談ということにした。俺は事情を話す。

 阿法の言ってることも正しいけど、本当の理由もちゃんとある。

 それを二人に説明した。


「ふむ。伊庭スイコの音楽への情熱かね。確かにいまいち分からないが、それがそんなに重要なのかね?」


「重要だ。本気じゃなかったら許さん」


 一つの理由はスイコの音楽への情熱を確かめること。これによっては別の手を考えなければならない。


「栄坂某が伊庭スイコさんを好きかどうかなんて、音楽をやめさせることと関係ないと思います」


 ホウカはまだ胡散臭そうにこちらを見ている。

 もう一つの理由は栄坂がスイコを好きなのかを確認すること。


「そんなことはない。栄坂がスイコを好きなら、排除しなければならん。好きじゃないなら生かしておく。もし栄坂がスイコを好きで音楽を頑張って欲しい、とかほざいてみろ。スイコがその気になっちゃうだろうが」


 俺の力説を二人はジト目で聞いていた。説得力が薄いというか、どうも二人は俺がスイコとデートしたいだけ、と思っているようだった。


「頼むよ。その場に居てそれっぽくするだけでいいから。俺が嫌なら相手は阿法でもいいぞ。観察役が一人は必要だし」


「…………」


「『わたくしがこの計画を手伝ってあげましょう。ついでに奴隷になります』って言っただろうが。あれは嘘だったのか?」


「奴隷になるなんて言ってません…………分かりました。いいでしょう」


「え、奴隷になってくれるの?」


「違います。協力すると言ったのです」


 何かまだ怒ってるな。協力するならもっと爽やかにいこうよ。


「それと連絡先を渡しますので、これからはこうやって直接来ないで下さい。迷惑です」


 自分は直接呼びに来たくせに。


「何かおっしゃいましたか?」


 俺は無言で首を横に振った。

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