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雪化粧  作者: 林 秀明
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後編

ゆとり授業の三日前、休日下原は公園へと散歩へ出かけた。冬の低気圧が日本列島を襲い、耳が凍るほどの寒さでも雪は降らなかった。


「香苗ちゃん、雪だるま作ろう」


「うん、お母さんはあっちで作って。私はこっちで作るからお互い出来たら見せ合いっこしよう」


今でも思い出すお母さんの声と雪の冷たさ。

雪で手が霜やけになっても雪だるまを一生懸命作った。泥顔の雪だるまが出来た時は雪だるまじゃないって二人で笑い合った。


「三日後雪見れるかな」


母の白化粧した顔を撮った写真を見ながら一人つぶやく。写真が取れて、動画が見れて、みんなとすぐに繋げるこの時代。便利な機械だけで便利に溺れる自分が少し嫌になってくる。


 ふと涙が出てきた。白く小さな一滴ひとしずく。それはすぐに終わらず、何度も何度も自分の手に落ちていく。涙ってこんなにも冷たかったってと思うと、空から雪がちらりちらりと降ってきた。どんよりとした曇から綺麗な白い粒が何度も。それは携帯画面の母の白化粧した顔の上にも落ち、溶けてはすぐに消えた。


「お母さん雪降ったよ。ありがとうね」


下原は雪で濡れた画面を何度も手でなでた。


お母さんは若くしてガンで死んでしまった。

雪が大好きだった母さんの想いを少しでも多くの人にと始めたゆとり授業。その想いがやっと今回実るかもしれない。



「山が白い帽子を被っているよ」


下原は元気な声で子供たちに声をかけた。子供たちはみんな笑顔でその景色に見入っている。大阪府河内長野市にある岩湧山。決して高くない山ではないが、地元民から愛される良き山である。


「寒いですねー。でもいい寒さだ」小川はニットを被りながら、はにかんで言った。


「とても良い雪景色になって良かったです。


快晴なのですぐに雪が溶けていくので残念ですが……」


「下原先生そんな悲しいこと言ったら駄目ですよ。今日は楽しまなきゃ。それに雪が溶けても子供たちには雪を見た感動はすぐには消えないですよ。さぁ雪を触りに行きましょうよ」


小川は子供たちと一緒に山道を登り始めた。本当に雪は白く美しい。改めて手に取るとさらさらしてとても冷たかった。母が死んだ時も同じ色と同じ冷たさをしていた。


下原は白い雪をゆっくりとボール状に丸め、副担当の小川へと投げつけた。母がいつも言っていた。「楽しく生きろ」と。子供たちに雪の素晴らしさ、楽しさを伝えることが私の生きがいだと感じた。




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