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王の花嫁  作者: 川本千根
8/50

選ばれた花嫁1

王が祭事の衣装を着て現れた


形は普段着ているものと変わらないが、織りが違う

目の詰まった薄い布で仕立てられている

その上にマントを羽織っている

動物の皮を細く裂きそれを編んだ重いマントだ


長い黒髪はいつものように後ろできっちり一つに結ばれている


王は湖族が神が住むと信じている湖の二百メートルほど南に下ったところにある祭壇…と言っても直径二メートルほどの丸い平らな石でしかないのだが…の上に立つ


この祭壇を取り巻く娘たちの渦は湖ぎりぎりのところまで来ていた

宰相の娘サリは円の中心、一番祭壇に近い場所にいた


日没とともに若き王は神官に渡された矢を真上に向って射る


矢はまだ明るさの残る三月の空に吸われて行ったきり見えなくなってしまった


その矢が次に姿を見せたのは、渦の一番端の娘の服の裾を射抜いたときだった

湖のほとりに控えていた神官がその瞬間を見た


祭壇近くで見守っていた宰相や神官たちは、真上に上がったはずの矢がなぜ二百メートルも離れたところに落ちたのか見当がつかなかった


風はない


湖のほとりにいた神官が矢と娘を連れてきた


娘が頭からすっぽり被っていた頭巾を取ったとき、空気が凍りついた


それは金色の短い髪がまだらに生え、目の焦点が定まらず、顔や手の皮膚が赤くただれた異形の娘だった


その場に居合わせた者の中で平静を保っていたのは長老フェイと若き王カエンだけだった


胆力をもって知られる宰相トウゴでさえ、慄きで唇が震えていた

もっともこの男の場合娘の醜さに驚いていただけではないのだが…


王は娘の前に進み出てただれた左の手を取った


そして左の小指の根本にある二本の波状の刺青を見てとった

この刺青は生まれたときに入れる鳥湖族である証の刺青である


龍湖族は星形、天湖族は直線の二本線を同じ場所に入れる


王は高らかに宣言した


「この者を神が選んだ私の花嫁とする」


誰からも祝福の歓声は上がらなかった



フェイはおや?と思った

異形の娘をを見つめるカエンの表情がいつもよりずっと柔らかく見えたからだ





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